5年次体育祭①
季節はあっという間に過ぎ、5回目の体育祭の季節を迎えていた。
「今年は後輩の指導頼んだぞ、山川学生!」
6年生の上山第2大隊長から言われたのをまともに受け入れてしまった俺がバカを見た。毎年6年生がやっている安全指導講座、つまり騎馬戦の安全指導を今年は5年生がやる事になったのである。
まぁ、本来5、6年生は所謂お客様であり、1~4年生に比べれば、仕事量は遥かに少ない。
「と、言う訳で今年は第2大隊中隊長の山川つよし率いる5年生が安全な騎馬戦の運営方法について指導する事になった。体育祭実行委員長時間をとってくれてありがとう。」
とまぁ、騎馬戦で何度も優勝している山川や一兵の教える安全指導はドンピシャで物凄く分かりやすかった。潔く帽子を取られたら騎馬を崩して直ぐにその場でダウンする。騎馬を崩す時は必ず声かけを徹底する。それらが安全な騎馬戦の運営には欠かせないと、力説した。
「なぁ、山川?これ6年生の仕事じゃねーのかよ?」
「一兵?気持ちは分かるが、これで6年生に貸し一つ出来たじゃねーか?つーか6年生もこんな簡単な事すら避けるなんて、余程切羽つまってんだよ?」
「そんなの知るかよ。」
「山川?オープン参加だけど騎馬戦今年も出るの?」
「騎馬戦はマストでしょ?」
「出なくても良いんだぜ?」
「まぁ、もう5年生だしな。下手に怪我しちゃ後に障るしな。でも出る。一兵が出たくないなら別に俺は構わないけど?」
「さっきから聞いてたけど、一兵馬鹿じゃない?」
「セツ菜!?」
「成績に残らないならしないんだ?」
「いや、怪我しちゃまずいし?」
「何なら私も聞いてたけど?」
「良子さん?」
「運動した方が良いって思うけど?」
「アメフト部の元エースが何を弱腰な?なぁ、良子?」
「まぁ、強制は出来ないからね。体育祭の参加は個人の裁量に任されてるからね。」
「じゃあ俺は体育祭参加しない。」
「本当にそれで良いの?」
「騎馬戦は過去にも星の数程の防衛医科大学校学生が怪我しているしな。だけど怪我は自己責任だからな。理不尽な事に。」
「それはそうだけど、あと2回しかないのよ?怪我に怯えるなんて、一兵らしくないよ?」
「この調子じゃ来年も出ない腹積もりだな。」
「私達は出るわよ?」
「好きにしろ。」
「いつも俺は山川の2番手。絶対に金メダルを取れない。俺が全力を出しても山川つよしには絶対勝てない。この悔しさが俺を体育祭から遠ざけている。」
「一兵?体育祭は勝ち負けの問題じゃないのよ?」
「分かっている様な口をきくな!」
「一兵!ちょっと待って…。」
「一兵?本当は出たいんだよな?」
「山川!それは黙っとく約束だろ?ああ、実は俺は右足の全十字靭帯を損傷して手術もしてる。去年のアメフト部の試合で痛めていたんだ。」
「それならそうと…。言えるはず無いよね。一兵プライド高いし。」
「セツ菜?黙っててごめんな。」
「って訳で体育祭楽しめよ!俺は出ないけど。」
「…。」




