5年次災害派遣②
初めての経験だったが、学生に出来る事など雑用位であり、己の無力さを知るには充分過ぎる災害派遣であった。幸い雨は1週間程で落ち着きを見せて一兵達防衛医科大学校第2大隊は撤収した。災害関連死を含む死者は10名。避難指示を受けた関東地方の住民は約80万世帯と、大雨の災害としては史上類を見ない規模になった。
「どうした?一兵?災害派遣以来元気ねーじゃねーか?」
「あの心不全で亡くなったおばあちゃんの事が頭から離れないんだ。」
「いくら悔やんでも、あの時、俺達はベストを尽くした。出来る範囲ではな。」
「それはセツ菜にも言われた。これを糧に頑張ろうって…。」
「なら、この件はおしまい。蓋しとけ。」
「山川?学生クラブ行かないか?」
「お、良いね?久し振りに飲むか?」
「まずはビールで乾杯!」
「真面目な奴だな。相変わらず一兵は硬派だね?」
「今回の件で勉強のモチベーション爆上がりだぜ。」
「ふーん。でセツ菜ちゃんとはどうなのよ?」
「どうったって、俺とセツ菜はピュアラブだからソーローの山川とは全然違うよ。」
「それを言って良いのは良子だけだからな?」
「冗談だよ。1回言ってみたかったんだよ。この台詞。」
と、まぁ酒の力を借りて何とかトラウマにならずに済んだのは怪我の功名と言えた。その頃、良子とセツ菜は夕食を終え、自室で勉強していた。
「一兵大丈夫かな?」
「大丈夫よ。一兵君はそんな柔な人間じゃないわ。」
「あ、つよしからLINEが…。」
「一兵は立ち直った。心配御無用from学生クラブ。」
「お酒の力を借りるなんて、つよしにしては機転が利くじゃない?」
「あんまりお酒強くないから飲ませ過ぎないでね!って返信しておいた。」
「お願いします。面倒をおかけします。と、セツ菜も山川にLINEをした。」
「え?これ山川からの指示?」
「はぁ?一緒に行きたいって言ったの一兵じゃねーか?」
「まぁ、そう怒るなよ?」
「すまん。隠れた本性が…。」
「そろそろ会計して扶桑寮に戻るぞ?」
「今回は俺が奢るよ。一万円で足りる?」
「あ、あ、ありがとう。はい、お釣り。」
「何だよ?全然飲んでねーじゃん?」
「この酒量で充分出来上がるんだ?それよりリフレッシュ出来た?」
「ああ、心の中のモヤモヤは払拭出来た…気がする。」
「日夕点呼まであと30分あるからタバコ吸っていかね?」
「良いね。学生クラブでも今や紙タバコ禁止だからな。本当困った。」
「一箱1000円の時代来るかもよ?」
「それでも俺は止めないよ?」
「医者の不養生とはこの事だな。」
「いずれ人は死ぬんだ。肺癌になっても悔いなし。」
「戻るぞ!10分前だ!」
「おう!」
「ね?つよし?お酒は良いけどタバコは止めない?」
「一兵も?」
「止めないよ?」
「俺も。」
「そんなの個人の自由じゃねーか?」
「でも体に悪いわよ?って言うか何処で吸ってんのよ?」
「秘密の場所。」
「つよし?張った押すわよ?」
「そんなふざけたつもりはねーんだけどなぁ、一兵?」
「ああ、喫煙場所はシークレットだね。」
「ほらな。」
「良子もセツ菜ちゃんも珈琲飲むだろ?タバコもそんな感覚なんだって。」
「まぁ、仕方ないわね。自分の少ない小遣いで吸っているんだから。」
「自己責任ね?」
「当たり前だろ。」




