5年次入学式
防衛医科大学校の伝統で、入学式の準備や運営は新5年生が行う事になっていた。と、言うのも新5年生は春期定期訓練がなく、学校の事をよく知り尽くしているからなのが抜擢の伝統であった。思い返せば入学した時に、大人びた学生スタッフがいたなと山川や一兵は不意に思っていた。
「座席数200人位でOK?」
「あー。その位で充分じゃね。」
「つよし?校門の所に入学式のボード無かったけど、まだ手付けてない感じ?」
「あー。良子、行ってくれると助かる。2、3人外にいてくれると助かるわ。」
「了解。セツ菜行くわよ!」
「OK!」
「あー。もうこんなに新入生が…。」
「セツ菜、ボーッとしてないで、持って来たボード立てるわよ!」
「了解。」
「まだ開門前だから絶対に新入生入れちゃ駄目だからね。」
「分かっているけど、このボードマジで重い。」
一方入学式会場の防衛医科大学校体育館では…。
「なぁ、山川?外に行かせたの良子さんとセツ菜だけだよな?」
「なんだ一兵?そんなに心配か?」
「体育館内の準備はほぼ終わったしな。よし!一兵助太刀致せ!」
「開門時間AM0830だよな?」
「おう。早く行ってやれ。こっちは何とかする。」
「新入生の皆様!開門時間はAM0830です。作業の邪魔になりますので、校門から少し離れて下さい。」
「一兵君!?ありがとう。セツ菜立てるわよ。せーの。バーン入学式!」
「おお!」
「針金で4ヶ所固定したら去るわよ!」
「うん。」
「えー、新入生の皆様、それと保護者の皆様、入学式の準備が整いましたので、体育館に御案内致します‼」
「一兵君?まだ時間前よ?」
「一兵?中はもう大丈夫だと思うけど?」
「はーい。押さないで。慌てなくとも席は逃げませんよ?」
と、まぁ一兵の一存で開門時間を5分早めたのは、問題視されたが、現場判断と言う事もあり、不問とされた。入学式の方は滞りなく挙行された。
「これは先輩達も経験した事なんだよな?」
「さぁな。いつから始まったかは聞いてみないと分からない。まぁ、定期訓練よりは余程楽だろう?」
「一兵飯行くぞ!」
「おう。」
「って訳で一兵の奴開門時間の5分前に開門しちゃったんすよ。どう思います?川下一曹。」
「まぁ、良子学生とセツ菜学生を助ける為の苦肉の策やったなら、酌量の余地はあるな。」
「そうなんですよ。あのままセツ菜と良子さんが看板を強引に立ててたら、圧死してたかもしれないくらい、密集していたんですよ。」
「本当助かったわ。一兵君。」
「良子さん、セツ菜!」
「俺の指示って事で丸く収まったんだから、一兵、あんまり大声で話すなよ?」
「何?つよしの差し金?そんな訳無いじゃない。あの状況では開門しか選択肢は無かったわ。」
「助かったわ。一兵ありがとう。」
「まぁ飯食って元気出せ。」
「ハニーマスタードソース添えステーキか。うまい。」
「これはまた豪華な。」
「入学式の時だけ予算増えるんだわ。」
「あれ?そういやぁ校門の看板は外した?」
「写真撮ってる人がいたから、撤去しなかったの。」
「流石にこの時間は人いないだろ?」
「明日の朝外しに行く予定。」
「暗いと危ないしな。」
「オーイ‼山川?校門前の入学式の看板はずし忘れてるぞ!直ぐ外せ。」
「今何時だと思ってんすか?明日朝やりますんで。」
「忘れるなよ?」
「はい!」
「良かったね、今外しに行かなくて済んで。」
「今までの会話が無駄にならなくて良かったよ。」
「明日朝AM0500校門前集合で。」
「早くね?」
「文句があるなら、今からやるか?」
「朝やりまーす!」




