4年次引っ越し②
「ここが扶桑寮…か。」
「オーイ。山川、こっちこっち。」
「上山先輩!?」
「そう驚くなよ。今6年生は国家試験前でピリついてんだ。静かにな。まぁ、4年生の世話は、毎年5年生が見る事になっているんだけどね。あ、女子学生はワンフロア下だよ。」
「セツ菜!行こう!」
「うん。」
「部屋割りは仮で現6年生が卒業した所にスポッと入る感じだよ。桜寮や小梅寮とは違い、8人の大部屋じゃなくて、2人で一部屋と、勉強に集中出来やすい環境になっている。扶桑寮長は桜寮長経験者が務めるのが習わしで、来年2026年度の扶桑寮長は私上山って事になる。とは言え、5年生以上の学年になると、基本的に外出や外泊に申請はいらなくなる。残ってるものと言えば日朝点呼と日夕点呼位か。寮長とは名ばかりだね。」
「さ、早めに荷物を搬入して、飯と風呂行って来い。あ、ちなみに飯は前と変わらず大食堂で。風呂は簡易シャワーがあるけど、浴槽に浸かりたければ今までの大浴場も利用可能だ。まぁ、5年生以上はほとんどシャワーで済ます人がほとんどだかな。」
「何でですか?」
「大浴場は扶桑寮から離れてるからだ。行くの面倒臭くなるんだよ。」
「って事で一兵。先ずはこの寮の洗礼を浴びに行こう。」
「今の時間だと6年生が沢山いると思うから飯を先に行くと良い。」
「搬入終わった?」
「終わったよ。」
「良子は?断捨離し終わっただろ?」
「お待たせ。先ずは御飯かな?」
「ここまででチュートリアルはおしまい。後は完全自己責任だから。ですよね?上山先輩?」
「間違っても6年生とバトッたりすんなよ?」
「大丈夫ですよ。」
「って訳なんですよ。川下一曹。」
「4年生の12月後半冬期休暇前から順次第2大隊付になるんだもんな。遂にその時が来たか。上級生はばたつくイメージはあるな、確かに。飯の為に移動する距離!」
「まぁ、500メートル位どうって事無いですよ。」
「贅沢は敵だな。今置かれてる状況で、ベストパフォーマンスを見せるのが防衛医科大学校学生の使命なんじゃないか?」
「そう言われると耳が痛いっすね。」
「山川つよし学生は航空要員だから良いけど、金海一兵学生は今よりもっと悪条件の潜水艦に配属される可能性だってあるんだぞ?」
「その可能性は否定出来ないっすね。」
「だろ?それを考えたなら、今は天国じゃないか?」
「まだまだお前らは学生の域を出ていない。ってよく言われますけど、それって毎年言われてませんか?」
「実際の部隊にはお前らより若い曹士隊員も沢山いるしな。防衛医科大学校の5、6年生って言えばそこら辺の社会人と変わらない年齢だからな。一般の医科大学校学生よりも、しっかりしていなくちゃいけないんじゃないか?」
「そうっすよね。」
「まぁ、お前らはお前ららしくやれば良いんじゃないか?」
「自分達らしさ…ですか?」
「ああ。明るく清く正しくな。」
「ほら。もうこんな時間。今日は店じまいだ。」
「ご馳走様でした。また来ます。」
「おう。」
「何かタコ部屋になれてたから、少し寂しいな。」
「夢の二人部屋だってのにな。」
「シャワー行くわ。」
「良いのか?日夕点呼の後だぜ?」
「しまったな。」
「何が?」
「鍵がだよ。」




