1年次夏期休暇
無事夏期定期訓練も終わり、この日から25日間の夏休みを防衛医科大学校学生として、初めてむかえる事になった。
「なぁ、一兵は実家帰らないの?」
「帰らない。俺は秋季リーグ戦に向けてアメフト部の合宿に参加するつもりだ。山川は?」
「良子と俺の実家に挨拶に行くつもりだ。それは5日間あれば終わるから、それを済ましたら俺達もアメフト部の合宿に合流するつもりだ。」
「セツ菜ちゃんは?」
「彼女も実家に帰省してからアメフト部の合宿に合流するという話だ。」
「合宿2022年8月2日から10日間だよね?」
「ああ。でも強制じゃないから。山川達はまだ1年生だし、無理に参加しなくてもいいよ?」
「いや、そうはいかん。」
とまぁ山川はそう言うが、良子やセツ菜は実家でゆっくりしたかった。
「お、つよし!元気か?」
「兄さん、元気だよ。」
「父さん、母さん夏休みなんだけど、慌ただしく挨拶に来た。」
「アメフト部に入っているんだって?」
「まぁね。」
「そちらの御嬢さんは?」
「初めまして。山川君と同じ防衛医科大学校に通っている同期で幼馴染みの正木良子と申します。」
「俺、彼女と結婚を前提に付き合ってんだ。」
「良子さん?冗談じゃなく、つよしなんかとはやめときな。」
「母さん、怒るよ?」
「つよしは甲斐性が無いからな。」
「父さんまで?」
「付き合って見ると良いとこいっぱい有りますよ。」
「つよし!この子逃したらあんた結婚出来ないぜ?」
「兄さんまで?」
「良子さん。つよしの事よろしくお願いしますね?」
「はい。」
「にぎやかなお家ね?」
「ああ、神奈川の只の平民の家だ。今日はホテルに泊まって、明日はいよいよ世田谷の良子の家だな。」
「うん。」
翌日。
ピーンポーン。山川は正木良子の実家の門を叩いた。
「良子久し振りだわね。あれ?そちらの方は?」
「山川つよし君。防衛医科大学校の同期で同じアメフト部なの。」
「実はね母さん、私山川君と結婚を前提に付き合っているの。」
「山川君?そうなの?」
「はい。」
「ふつつかな娘ではありますが、どうぞよろしくお願いします。」
「は、はい。」
「つよし?何緊張しているのよ?」
「あはは。何も無いけどゆっくりして行ってね。」
「ありがとうございます。」
「あの?御父様は?」
「あら、良子言ってなかったの?駄目じゃない。主人は2年前に癌で亡くなったの。」
「そうなの?じゃあ母子家庭って事ですか?」
「そうなの。」
「山川君良子の事よろしくね。」
「はい。任せて下さい。亡きお父上にも報告出来て良かったです。ではこの辺で失礼します。」
「もっとゆっくりして行けば?」
「アメフト部の合宿がありますので。」
「じゃあまたね。」
「あーあ。緊張したわ。親との挨拶に比べれば、アメフトなんて銃の無い歩兵を殺るのと同じ位、簡単なものだ。」
「私も緊張したわよ?でもつよしの家族がめっちゃ明るくて助かったわ。」
「それは良かったな。」
翌日。
「お?山川と良子さん。合宿明日からだよ?」
「マジで?」
「失敗したわね?」
「まぁ、良いんじゃね?」
防衛医科大学校ブラッサムズは30人で、夏合宿を行った。
「山川!あたり甘いぞ!」
「おす!」
「セツ菜?アメフトって激しいね?」
「私一兵にタックル来るの怖くて。」
「それなんか分かるかも。」
「ハドル!1、2、3、goブラッサムズ!」
「あーやっと終わった。」
「もう立てねぇ。」
「山川起きろ!」
こうして防衛医科大学校1年目の夏休みはあっという間に過ぎ去り夏期休暇(夏休み)は終わった。