4年次慰霊祭
並木祭後の10月下旬には毎年恒例の慰霊祭が行われた。今年は第1大隊長が務める事になっている"慰霊の挨拶"を一兵達は見届ける事になっていた。
「つよしの奴大丈夫かしら?」
「昨日は2400の消灯ギリギリまで勉強もせず、自己練習していたから、大丈夫だと思うよ?」
「山川君は本番に強いタイプだからOKじゃない?」
「正装してオーラ出てるじゃん?」
「これより防衛医科大学校学生を代表して慰霊の挨拶を第1大隊長山川つよしより、行わせて頂きます。では山川第1大隊長よろしくお願いいたします。」
と言われると山川はスッと登壇し挨拶を始めた。
「本日は僭越ながら、防衛医科大学校学生を代表して、挨拶をさせて頂きます。まず、無念にも任務中及び訓練中に亡くなる自衛官が後をたちません。職務上致し方無い事ではあります。戦死ではなく、事故死。しかしながら、それを恐れていては、自衛隊は機能しません。我々に課せられた宿題は、事故を無くす努力を惜しまず、亡くなった自衛官の事を忘れない。それが大切だと思います。亡くなった自衛官から学ぶ事をこれから活かして行くべきであり、生きている他の自衛官及び学生が共有すべきです。今年も訓練中及び任務中に亡くなる自衛官が出てしまっています。命の大切さを扱う防衛医科大学校学生が先頭に立ち、亡くなった隊員の御霊を供養致しましょう。御拝聴ありがとうございました。」
と言うと、スッと降壇し山川は見事に大役をやってのけた。
「つよし…。」
「山川君…。」
「山川…。」
拍手喝采、スタンディングオベーションだった。だが山川自身は、大したことは言っていない。そんな顔をしていた。
「山川!練習通りやれたな?」
「うるせい。一兵お前もやってみろ。」
「つよし、頑張ったね!」
「おう。良子当たり前だろ?」
「かっこ良かったよ山川君。」
「ああ。ありがとうセツ菜ちゃん。大した事じゃないんだけどね。」
今年の慰霊祭は記憶に残ったと山川は後日談を残している。とは言え一兵達にもそれなりのインパクトがあった事に違いはない。
「ああ、腹減った。今日の昼食は…カレーか…。はぁ。」
「どうしたのよつよし?」
「そうだぜ山川?お前の大好物じゃねーか?」
「あ、ああ。俺デザートだけでいいや。」
「じゃあ俺のデザートやるよ。」
「マジで?」
「私もあげる。」
「サンキュ、セツ菜ちゃん。」
「カレー位流し込みなさいよ。甘えん坊には私のデザートはあげない。」
「良子~‼?」
「とどめだ、俺のデザートやるよ。」
「一兵サンキュ。もうギブ。」
「まだ緊張してるみたいだな?」
「多分な。胃が受付無いんだわ。」
「まぁ、分からなくもないけどね。」
「それが第1大隊長の責務って言ってはそれまでだがな。」
「お前らもやってみろ。」
「あんたが立候補してやるって決めたんだろ?最後までそんなこと言わず全うしろよ?」
「山川君、もう少し頑張ろ?」
「セツ菜ちゃんだけだよ。優しいね。」
「セツ菜?甘やかしたら駄目よ。」
「そうだよ。最後まで第1大隊長の責務を全うして貰わないと。」
「言うは易しするは難しって言うだろ?」
「それはそうなんだけどさ。」
「任期も後半。セツ菜ちゃんの言う通りもう少し頑張るよ。」




