4年次体育祭②
通年の慣例ならば、体育祭実行委員長は第1大隊長が行うものとされていたが、そうならない年も無かった訳ではない。2025年度の体育祭もそんな例年とは、違う年ものとなった訳であるが、一兵は上手く部下を使い例年には無い一体感を産み出そうとしていた。
各競技の出場者や、東西南北のチーム分けも順調に進み、後はリハーサルを残すのみの日程となっていた。体育祭実行委員会によるスローガンは、"並木レボリューション"であった。
「並木レボリューションか…。」
一人取り残された感のある山川つよし桜寮長兼第1大隊長は、一防衛医科大学校学生として、盟友金海一兵の作った体育祭を単純に楽しもうと思っていた。
「この前は本当にすみませんでした。」
「顔をあげてくれよ、山川学生。人間良い時も悪い時もある。考えても見ろ。この体育祭では、一兵学生が今の君の立場になる。本来なら山川学生の仕事を一兵学生に譲ったんだろ?違うか?」
「はい。でもあれもこれも自分には出来ない事を知ったんです。それに一兵にしか出来ない体育祭になろうとしています。」
「その気持ちが大事なんだ。いくらクラスヘッドでも敵わない事もある。己の限界を知れただけその分君は成長出来たんじゃないかな?」
「一兵が見せてくれる並木レボリューションにマジで期待しています。」
「海軍軍人の在り方として、勲功は部下に譲れとある。今回の体育祭成功はまさにその勲功だな。まぁ、一兵学生の為でもあるんだ。」
「大人っぽく無かったですね。」
「そうよ、つよし。あんたも少しはこりたみたいね?」
「良子!?」
「もう少しで夕飯だからって良子が…。」
「セツ菜ちゃん?」
「川下一曹、この話は二人だけの秘密ですからね?」
「ああ。男の約束だ。墓場まで持っていく。」
「何男の約束って?」
「ヒ・ミ・ツ。」
「山川君と川下一曹すっかりなっちゃって?」
「どうせ、つよしが謝ったんでしょ?そんなの恥ずかしいから、男の約束だなんてさ。」
「でも山川君偉いよ。ちゃんと放置せずにしない所がさ。」
「ま、腐っても第1大隊長だからね。しっかりしてもらわないと。」
「本当山川学生には厳しいよな。良子学生は。」
「私の旦那ですから。容赦なしですよ。」
「金海学生が天使に見えて来た。」
「川下一曹、それモラハラですよ?」
「自衛隊じゃあさ、パワハラとかセクハラを黙認しちゃう悪い習慣が根付いちゃってるんだよね?防衛医科大学校学生は、そう言うのと無縁だから羨ましいよ。うちの調理長なんかさ…。」
「川下一曹、手を動かして。」
「みたいなのは日常茶飯事。端から見ても分からない。それが諸悪の根元だね。」
「川下一曹、今日の飯は?」
「ビーフシチューと米粉パンだよ。」
「珍しい。」
「今夜は飯炊かなくて良いって聞いたら、心が飛び跳ねたよ。」
「1715だ。良子学生とセツ菜学生と山川学生も食ってく?」
「いや、風呂入って来ます。」
「了解。」
防衛医科大学校体育祭2025まで後10日を切っていた。春の陽気は既に無く、初夏の暑さに身をならしなから、最後の運営に携われる体育祭を楽しみながら、応援合戦や騎馬戦のフォーメーションを確認している一兵達であった。山川は相変わらずの日常を過ごしていた。




