桜寮長の責務
「おいおい。今週だけで100件近くの外出・外泊申請出てるぞ?」
「マジで?これ全部にハンコを押さなきゃならない訳?」
「これはアナログだな。デジタル化するか?」
「そっちの方がめんどいわ。とは言え一応目を通しておいた方が良いんじゃない?ただハンコを押すだけじゃあ、寮長の責務を果たしているとは言えないし。だが、100件もあるんだ。スピード勝負だな!」
「全部一人で背負い込むなよ?幹部は山川だけじゃないんだから。三等分したら33件。これならじっくり目を通せる。それに、夏休みまでの辛抱だ。外出申請の約半数が1年生の平日の外出許可申請だ。」
「確かに夏休み過ぎたら1年生も平日の外出許可申請いらなくなるもんな。それに今まで外出・外泊申請が通らなかった事は1度も無いだろ?」
「ああ。とは言え、防衛医科大学校学生だ。とんでもないトラブルメーカーはおらんだろ?」
「でもよ、もしもの事があれば外出・外泊申請を許可した桜寮長たる俺の責任になるだろう?」
「これまでの先輩達を見てきただろ?こう言う雑務を涼しい顔して乗り越えて来たじゃねーか?とは言え一兵、俺平日部活休むわ。」
「おいおい。マジかよ?」
「思い返せば、上山先輩も桜寮長になってから部活来なくなったし、自習時間を削る事は避けたい。そうなると、部活動は優先順位的に削減される。すまん。一兵。」
「分かった。山川がそうしたいなら、俺はそれを尊重するし止める権限はない。」
「ま、MAX240人しか外泊・外泊申請しないんだから、判を押すだけなら把握は不可能じゃない。そんな事はあり得ないがな。」
「月曜から木曜外出許可制って寮則には書いてあるよ?」
「誰だ?夏休みまでの辛抱だって言った奴は?」
「最終的な許可を出すのは第1大隊長たる桜寮長だよな?」
「ああ。」
「でも、この申請用紙には3つのハンコを押す欄がある。」
「それ予備欄でしょ?第1大隊長の山川の代理で副大隊長か書記長が代わりにチェックしたよって証の欄だよ。」
「貴様らの手をわずらわせるのはシャクだ。全責任はこの桜寮長たるこの山川つよしが負う。一言一句見逃さずチェックするから安心しろ。それにもっと良い方法がないか良子に聞いてみる。」
「それは名案だね。」
「じゃあ、この件は山川に一任するという方向で。」
「異議無し。」
「ねぇ?良子?」
「何?どうしたの?」
「小梅寮では外出・外泊申請の管理ってどうしてるの?」
「私とセツ菜でダブルチェックしてハンコを押しているけど、まぁ、人数も少ないし間にあっているわ。」
「俺らはトリプルチェックしているぜって、言いたい所だが桜寮は第1大隊長たる山川つよしが全部チェックしている。」
「それで、平日部活来ないわけ?」
「それが狙いって訳じゃないんだけどよ…。」
「もし、トラブルがあったらつよしに全責任が向くのよ?」
「それが桜寮長兼第1大隊長たる俺の責務だからよ。」
「数も相当はんぱないんでしょ?顔に出てるわよ?」
「毎週100件以上はある。」
「マジなの?」
「こちらとら240人の学生を抱えてるんだ。1件1件いちいちチェックしてたら、時間がいくらあっても足りないわ‼」
「それに、吉永の奴デジタル化しろって言うけど、どうしたら良いかわかんねーし。」
「つよし?意地張ってないで少しは甘えたら?」
「私も今の時代ペーパーでやり取りするのはアナログだけど、それが伝統なんだから仕方無いじゃない。それに非効率でもつよし一人で全責任を負うのは違う気がする。」
「アドバイスありがとう。週末何処か行こう。」
「たまには良いわよね。でも、つよし頑張りすぎちゃ駄目だよ?それがあんたの一番良い所だし、一番悪い所でもあるのよ?」
「そうかもな。」




