4年次春期定期訓練②
陸上自衛隊宮古島駐屯地は、中国の海洋進出を背景に冷戦時代までの北海道シフトから、南西諸島にシフトした結果生まれた比較的新しい駐屯地であり、同様に与那国島にも陸上自衛隊のミサイル部隊が配備された経緯がある。もし、陸上要員になりこの様な最前線の離島に配置されたらと考えたら、ガクブルものである。
「那覇までは許せるけど宮古島や与那国島はちょっとな。ドクター.コトー顔負けの最前線だよな…。」
「それは言えてるけど、誰かがやらなくちゃならない。その為に訓練している訳だし、面と向かってはとても口には出来ないわ。」
「でも、何処にいても必要とされるのが自衛官の宿命じゃん?特に医官の俺達はさ。」
「那覇基地からポンピングで海上自衛隊や航空自衛隊の医官が輸送されるケースも充分想定されるケースにはあたるわね。」
すると、そこへ一人の幹部自衛官が現れた。
「おっ、盛んだね!防衛医科大学校学生諸君。私には気を使わず、のべつまくなしに議論してくれ。」
「誰?」
「馬鹿!一兵、制服の階級章見てみろ?水陸機動団の司令官の小川陸将補だぞ!」
「気づかねーふりして議論しろったって、無茶な話だよ。」
「それくらい想定しておけよ。」
「でもよ、水陸機動団が戦闘不能になった場合には、どこの部隊がカバーするんだ?」
「そりゃあ本土の師団だろ?」
「敵制圧後の領土奪還には攻撃側は守備側の3倍以上の人員が必要とされるんだぞ?」
「放置してたら那覇から本土に進軍されたら厄介だな。」
パチパチパチ
「ブラボー!本土の防衛医科大学校学生がそこまで考えてくれている事に私は感心した。そう言う危機意識から自衛隊は南西諸島にシフトしたんだ。水陸機動団の司令官としては、我々が全滅する事になる最悪のケースも充分想定している。とは言え、日頃から隊員には控えの部隊はいないと思って、任務にあたれと口うるさく言っている。それは、防衛医科大学校学生の見解の通りなんだ。理論と実戦は違うのだよ。」
「理詰めの理論はありなんだが、それは本土の部隊の場合で、いつ戦争が起きても宮古島や与那国等の島離島で真っ先に戦う覚悟と備えをしておく事が、我々水陸機動団の役目なのだ。」
「こうして見ると、島と言う"不沈空母"を活かすも殺すも、日本国のステータスに関わる重大事項であると言う事だ。実際に有事となった場合に、訓練しておかなければそれ以上のパフォーマンスは出来ない。だから朝から晩まで訓練しているんだ。台湾有事となれば、与那国島や宮古島と言った離島に負担が集中するだろう。そう言う環境にある。那覇からの遊軍を待っていては、手遅れになるだろう。」
「まぁ、正直もう5年南西シフトが早まっていれば、もっと離島防衛に力を入れられたかもしれないが、その逆も真なりである。もう5年南西シフトが遅れていたら、与那国島や宮古島は意図も簡単に中国の手に落ちていただろう。」
「とは言え、ウクライナ戦争の事もあるから、南西シフトの気運は高まっても、これ以上の北方の守りを手薄には出来ないと言うのが、自衛隊幹部の本音ではある。まぁ、宮古島駐屯地も与那国島駐屯地も、そう言う状況にあると言う事を、頭の片隅に置いて頂けると、私は嬉しい。」
「はい!しっかり心に刻んでおきます!」
「君が中隊長?」
「はい。防衛医科大学校第1大隊長山川です。」
「じゃあ、君が副長?」
「はい。中隊長の金海一兵です!」
「覚えておくよ。」
「はい!ありがとうございます。」




