4年次春期定期訓練①
4年生に進級した一兵達を待っていたのは、春期定期訓練であった。今回の訓練の地は沖縄である。前半は海上自衛隊と航空自衛隊の基地がある那覇で訓練して、期間の後半は陸上自衛隊宮古島駐屯地と与那国駐屯地を回る、沖縄所在部隊研修が4年次春期定期訓練であった。
「訓練じゃなければ最高なんだけどな。」
「つよし?これは訓練の一環なんだからね?しっかりしなさいよ?」
「この時期は1年生から3年生も春期定期訓練で桜寮や小梅寮には誰もいないから、訓練に集中出来るね。」
「セツ菜まで、そんな気分な訳?」
「良子さん、滅多に体験出来ない対中最前線での訓練ですから、気合いが入るのは分かります。でも、楽しむ位の余裕がある方が精神衛生的にも良いんじゃないでしょうか?」
「まぁ、そう言う私が一番ハイなんだけどね。」
と言う訳で、4年生80人は所沢から沖縄に向かった。初日の午前中は海上自衛隊のP-3C及びp-1哨戒機への訓練飛行に同乗し、実際に中国海軍の物と見られる国籍不明の潜水艦を発見すると、一兵達のバカンス気分は一気に吹き飛んだ。1200到着予定だったが、戻れたのは1430であった。そのまま昼食をとらずF-15戦闘機のスクランブル(緊急発進)を間近で見届けて、日没サスペンデットてなり、稲妻の様な1日が終わった。その後も数日間は、那覇基地での訓練が続いた。
「何か思ったのと違うな?」
「確かに俺達の思い描いていた那覇ではないな。」
「正に最前線って感じだね。」
「あぁ、違いない。」
「でも、飯は旨いかも。」
「そりゃあこれだけの重責を担っているんだ。飯位旨いもの食わせてあげなきゃ。」
「私もそう思う。」
「一番ビックリしたのは、米軍基地の浸潤が思っていたよりも遥かに多いって事だな。」
「米軍にとって沖縄は戦略的に外せない要衝なんだな。」
「他人事だと思っていたけど、沖縄に赴任する可能性は多いに有り得るしな。」
「F-35Aや米軍のF-22ラプターと言った世界最高水準の戦闘機が中国や北朝鮮等の仮想敵国の戦闘機と対峙している訳だ。」
と、まぁそんな具合で那覇基地での訓練は粛々と進んでいった。
「防衛医科大学校学生諸君!」
と題して田中一朗那覇基地司令(空将)の訓示を那覇基地訓練の締めとして聞いた。これは聞く所によると防衛医科大学校学生にとっては通例らしい。
「ノブリス・オブリジェ(選ばれし者の責任)聞いた事は無いかも知れないが、防衛医科大学校学生は選ばれし者であると思う。そう言う人間には、無意識だが責任が伴う。と、私は防衛大学校で教わった。君達防衛医科大学校学生がどんな進路を歩むのかは未確定だが、一つだけ確かな事がある。誰かの為になる仕事であると言う事だ。私も今でこそ那覇基地司令官と言う立場だが、若い頃(防衛大学校学生)は、君達と同じだった。いや、君達の方が立派だったかもしれない。1日1日を大切に生きている事に感謝して行って欲しいと思う。」
「はい!(敬礼)」




