青春しようぜ!
イブは数分ほど悩んだが、青春をエンジョイしているキッキを見ていると口出しすることよりも見守ることのほうがいいと考えるようになった。
卒業後も変わらなかったら、その時はその時で考えればいい。
そんな事よりも……。
「私も、青春したい……!」
イブも何かに目覚めてしまったのだ。
「そうだ。野球部をやろう」
そこからのイブの行動は早く、たった一人で野球部を作り、方々から助っ人を集めて強豪の野球部へとなった。
そして、助っ人だけで全世界野球部大会に出場した。
これには、キッキも大喜びして、試合のたびに手作りの弁当を用意して応援に駆けつけてくれた。
イブは順調に勝ち上がり決勝戦を迎えた。
9回裏ツーアウト満塁。イブ達は一点差で負けていた。
「このバットを殿下に捧げます!」
イブがフルスイングしたバットと球は場外へ。サヨナラ勝ちを迎えた。
イブもイブで青春していた。
最終学年になると後輩の育成に力を入れて、彼女は誰からも慕われるような先輩になっていた。
キッキは変わらず噴水の前で、側近達と決めポーズの練習を毎日していた。
そして、迎えた卒業パーティー。
キッキはイブのエスコートにはやってこなかった。
『急用を思いついたので先に行っていて欲しい』
という、怪しさ満点の手紙が届きイブは嫌な予感しかしなかった。
(何かとんでもない事をしでかしそうな気がする……!)
イブの予感は当たってしまった。
パーティーの開始と共に彼らはやってきた。
キッキはマイクを持ち他の側近は楽器を持っていた。
「今日は、この日のために練習しました……」
キッキがおもむろに話し出すと、生徒達が拍手をした。
「チェリー撲滅教!工場長!キッキだ!」
工場長という謎の肩書きはかっこいいと思ったからつけたのだろうか、側近達は教皇だの、大魔王だの、好きなように名乗っている。
イブは止めようと思ったが、彼らの学園生活の集大成を止めてはいけないと踏み止まる。
「お前でチェリーを卒業してやろうか……!」
キッキの地を這うようなデスボイスが会場に響き渡る。
「チックショー!!」
今度は、脳が破裂しそうなほどのヘッドボイスだ。
そして歌が始まった。
「イブ、君を愛してる~」
それはまるで選挙カーのようだった。
イブは嫌というほど自分の名前を呼ばれて、愛していると歌われた。
ちなみに、側近達の婚約者も同じような仕打ちをされていた。
浮気をされるのもキツイが、自分への愛を作詞作曲されるのもキツイ。
イブは気絶したかった。しかし、これを止められるのは自分しかいないと思うと気絶などできなかった。
キッキは好き勝手歌うと最後にこう言った。
「僕たちは普通の男の子を卒業します」
地面にマイクを置くと彼らは颯爽と去っていった。
会場はスタンディングオベーションだった。
こうして、キッキの普通の男の子の生活は終わった。
ちなみに、キッキ達の奇行は王立学園の黒歴史の一つになったそうだ。
次の年からは、バンドを組む生徒達が続出したらしい。
お読みくださりありがとうございました!
勢いだけで書きました!