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婚約者は青春したいらしい

「イブ、僕は学園に行ったら一人の男の子になりたい。それを認めて欲しいんだ」


婚約者であるこの国の皇太子、キッキに何の前触れもなくそんな事を言われてイブは戸惑った。

二人とも王立学園の入学を控えていたので、そのために出たものなのだろうとイブはすぐに気がついた。


しかし、疑問はある。


(普通の男の子とはどういう意味なのかしら……?)


「普通の男の子とはどういう意味なのでしょうか?」


イブは気になった事を質問するが、キッキは話したくないと言わんばかりだった。


「普通って言ったら普通だよ!人並みの事を経験したいんだ」


イブはますます意味がわからなくなった。

やましいことでもあるのかもしれない。しかし、キッキはそれ以上言いたくなさそうで、絶対に教えてはくれそうにない。


それに、普段は穏やかなキッキが、かなり強めの口調でそんな事を言い出すこと自体が珍しかった。


「もちろん、浮気なんてしない。君を大切にするよ。だけど、学園での僕のやり方にあまり干渉しないで欲しい」


はっきりとした拒絶にイブは悲しくなった。

浮気はしないと言うものの、キッキが学園でどのような行動をするのか想像もつかない。

それに、浮気の定義は人それぞれだ。

『不貞』を浮気ととるか、それとも異性と軽い『接触』を浮気ととるか、人によって違う。


キッキの事が信用できないわけではないが、イブは不安で仕方なかった。


「本当に浮気はしないんですね……?」


イブが不安げに問いかけると、キッキは「大丈夫だから」と言って微笑んだ。

イブは渋々ながも了承した。


不安になりながらも大丈夫だと自分に言い聞かせてイブは入園式の日を迎えた。


学園に入園しても大きな変化はなく、キッキの態度は変わらなかった。

登園の時も、イブの迎えにキッキが来てくれる程度に関係は良好だった。

イブはそれに少しだけ拍子抜けしていた。


しかし、それはすぐに打ち砕かれた。


「……!」


ある日、イブがキッキの側近とすれ違った時の事だ。


まるで闇取引をするかのように、こっそりと彼はイブの手に小さな包み紙を渡したのだ。


「えっ……!」


イブが驚いて彼の顔を見ると、まるで見られたらまずいかのような表情をした。


「シッ、……静かに、手紙はこっそり読んでください。返事は次の休憩の時間の時に取りに行きます」


そう言って彼は去っていった。


イブが戸惑いながら手紙を広げるとそこには、キッキからのデートの誘いが記されていた。

そして、最後に返事は手紙でするようにと記されていた。


(殿下は何がしたいのかしら……)


イブは真っ先にそう思ったが、やりたいようにさせてあげると認めたので、急いで手紙をしたためた。


デートは、お忍びではなくて普通の物だった。


数日後、イブは考えた末にキッキの側近の婚約者たちとお茶会をすることにした。


そこで色々な話を聞くことになった。


「先日はウサギ小屋を遠くから皆さんで覗き込んでいて、何をしているのか聞いたら、女子更衣室を覗くのはできないから、ウサギ小屋を覗いていると話しておりましたの」


と、ある令嬢が話す。


「私は、創立者の石像の後ろにダンボールで小屋を造っているのを見かけて声をかけました。秘密基地を作っているそうでしたわ」


と、別の令嬢。


「私は、噴水の前で自転車に跨っているのを見ました。水が噴き出た瞬間『チャリで来た!』と叫んでおりましたの」


と、続々と出てくる情報に、イブは困ってしまった。


奇行といえば奇行だが、問題行動かといえばそうでなく。誰かに迷惑をかけているとは言い難い。


話し合いの末に、様子見をしましょうということに決まった。


しかし、ある日恐れていた事が起こってしまった。


男爵の愛人の娘が引き取られる事になり、王立学園に入ることになったのだ。


イブの予想通り彼らは接近した。


短い休憩時間のほとんどを彼らは共に過ごしていた。

もちろん、それはとても目立っていてイブは何も言えずに歯痒い思いをしていた。


不安は変な意味で的中した。

イブは、キッキの額に巻き付かれた包帯に驚いた。

昨日までは何もなかったのに、もしかして怪我でもしたのだろうか。


「殿下、その包帯どうなさいましたか?」


「ああ、いや、これは、なんでもない」


キッキは、イブの質問にしどろもどろになりながら答える。


「本当に?」


キッキの不審な行動にイブは疑いの目を向ける。


「本当に大丈夫だから、額を見ないでくれないか?」


「わかりました」


半ば強引に話を区切られて、イブはそれ以上追求する事はできなかった。


怪しい行動のキッキに、イブはそろそろ耐えきれなくなっていた。


イブはキッキの行動を監視することにした。


一限目が終わり休憩に入ると、キッキ達は噴水の前に集まっていた。

イブは見つからないように物陰に隠れて彼らの様子を見ていた。


「今から、なんか、ふわっと、かっこいい事言った奴が勝ちな!」


そう声を上げたのは、引き取られたばかりの男爵令嬢のレイだ。


「一番は僕だ!」


キッキは自ら手を挙げて噴水の前に佇む。


「あぁっ!第三の目が疼く!邪眼パワー開眼!」


キッキは叫び声と共に額の包帯を外した。

それに、タイミングを合わせて噴水まで噴き出る。

額にはお城で前もって描いたのだろうか、目の絵があった。


「……」


レイ達は瞳を輝かせて、「噴水にタイミングを合わせるなんて天才的だ!」と手を叩いていた。

これは、不貞というよりも、男の子同士で騒ぎ出すようなテンションだ。

それは、俺の積み木ロボット凄いだろ?と嬉々と披露する男児のような既視感だ。

……イブには、それが理解ができなかった。


それから、側近達が何か披露しようとしていたが、イブにとっては見るに耐えられなかった。

イブはトボトボと教室へと向かった。


(もう、殿下を疑うことはやめましょう)


たぶん、彼らはそんな事考えもしないような気がした。



「どうしましょう。ずっと、このままだったら」


そして、イブはある恐ろしい事を考えるようになった。

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