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02 約束

ゴブリンの群集と遭遇し、奇襲を受けて、撃ち返した後。

歩き出してしばし、会話に花が咲いていた事は言うまでも無く、歓談な一時を過ごしている。

桃染山からレイトハウド王国の距離は遠くもなく近くもない位置にある為、歓談に浸っていれば光陰流転(こういんりゅうてん)。正面にはレイトハウド王国を囲繞(いじょう)して屹立(きつりつ)している鈍色(にびいろ)の石壁が見えてきた。

右前方にはレイトハウド王国へ入国する為に必要で、玄関とも言える黒色の大門、そして出入りする大勢の種族が見える。

神矢は入国する為に、そちらへ向かおうとするが、ララが小声で引き止めた。

「神矢、こっちこっち」

周辺をキョロキョロと警視しつつ手をヒラヒラと縦に振っているララに、神矢は首を傾向させる。

手招きに従ってララを追行すると、到着した所は大門ではなく、何の変哲もない石壁であった。

神矢はすかさずララへ耳打ちする。

「ララ。ここに来てどうするんだ?中には入れないぞ?」

軽蔑するような、心配するような表情でララへ話し掛ける。

神矢はおかしい子とでも思ったのだろうか。ララは察し、躍起となって述べる。

「ち、違うからね!?神矢が思ってるのとは違うから!!ちょっと見てて」

ララは石壁の一部を押した。凝視すれば凹凸が分かる程のボタンがある。

すると、ガタッと壁の中で音が鳴った。それを合図にからくり装置が起動する音が連鎖し、人一人余裕で通れる程のサイズの穴が出来上る。

どう!!と有頂天な顔付きで自慢気に見つめるララと、出来上った穴を交互に唖然とした表情を作った。

「これ……ララが作ったのか?」率直な感想と質問。

「こんな事私には出来ないよ」

何故か喜色満面にしているララは、軽い足取りで通過していく。それに続く神矢はある疑問を心の隅で抱く。

(これ、完全完璧違法だよな)

正解。完全完璧違法入国である。

そんなことをまるで気にしていないララは、久々の母国の為か、偉く上機嫌にしている。

神矢が通過するのを見届けると、次は反対側の壁の一部を押した。こちらにも凹凸部分が見える。

再度からくり装置が起動し、音が連鎖していく。そして最後、ガタッと音が鳴ると、見た目は何の変哲もない石壁へと変形した。

画期的な発明に感心した様子の神矢。

「神矢。こっちだよ」

肩をトントンと叩いて歩き出すララに、追行する神矢は頭上を見上げた。

二線が平行に並列していて、その間からは光を降り注ぐ太陽が見える。

現在路地裏を通っており、建物と建物の間隙は二人並列で歩けるのが限界な程の幅だった。

昼間であっても、路地裏は慮外薄暗く、上から差し込む陽光だけを頼りに進む。

進んでいくと、前方に見えていた大通りが目の前に。

二人して覗くように見る事しばらく。

大通りを見ればドワーフ、エルフ、獣人や精霊。様々な種族が行き通うこの王国、レイトハウド王国は、今日も変わらずして活気に溢れ、繁華な大通りとなっていた。

「よし!行こっ!」

ララが明朗な声で、路地裏から大通りへ一目散に飛び出した。

人通りはとても多く、恐らく見失うと見つけるのは不可能だろう。

神矢は狼狽しながらもララを追っていき、隣を歩く。

平均以上の背丈を持つ神矢は周囲に目をやる。

祭りがある訳でもないし、これといって特別な日でもない。それなのに祭りのような賑わい、を通り過ごして少し騒がしいくらいだが、屋台も出ており、歓喜に満ち溢れていた。

ララというと、ご機嫌な為か、鼻歌を歌っている。

何の曲かは知らない神矢だが、妙に心地よさを覚えていた。

暫く歩き続ける事。

「ねぇ神矢。神矢は何処まで行くの?」

忽焉に問いかけられ、神矢は一度考えに浸る。王城へ行くか、それとも別れるか。

結果、神矢は「町並みを見に来ただけだから帰るよ」と微笑みながらに告げた。

「そうなんだ」と少し悲しげにするララへ、神矢は気付かぬまま。鈍感である。

「じゃああそこまでね?」

ララの指さした方向に目を向けると、遠くには大きな噴水が見えた。

直径は十五メートル程で、四方に位置する大門へ伸びる大通りを繋いだ場所。

噴き上げられる水から飛ぶ飛沫を楽しむ子供達や、涼感を求めて座る老夫婦などが見える。

「分かった」

悄気るララも一方で、神矢もまた悲しみと寂しさを同等に抱いていた。それもそのはず、三年間一度も人との会話は皆無だったのだ。それに神矢の胸奥で、ララが残る感覚があった。

気になった神矢は横目でララを伺う。

ただ地面に目線を落として歩いてる。

神矢は聞こえない程度でため息を一つ。

あと少しの距離を、二人は会話なく終わってしまった。

「着いた。ありがとう神矢」

身体の向きを変えて、改めて謝意を述べる。

「あぁ。じゃあな」

「………うん」

ララは一度上目で神矢を見て、目が合った。ほんのりと耳先が赤く染まる。

それを最後に、ララは北へと続く大通りを走っていった。

神矢はしばしララの背を見守る。

ララとは別れ、またつまらない一人旅が始まる。神矢は深くため息を吐いて、来た道を戻ろうとする。

(あれ?そういえば、もう四年経ったっけ?)





耳と頬は林檎のように真っ赤に染まっている。拳を軽く把握しながら、歩調は少し速い。周辺を警視する事は既に忘却している。

(……言えなかった。また会おうって………)

後悔が残る胸へ手を当て、後ろを振り向こうとする。が、怖くて、勇気が出なかった。

心底深いため息を吐いて、歩き出す。帰るべき場所へと。





「よう!」

元気で澄んだ、大きな声量が神矢の足を止めた。

久しく聞く声に、神矢は首だけを向ける。

溌剌として、三日月のようにニカッと笑うその男、グノフ・コール。種族はドワーフで、背丈は百四十程、黒く長い顎髭が特徴的。歳は五十六で、一応レイトハウド王国に唯一存在するギルドの長を務めている。

「元気だったか?」

「グノフ!?」

驚愕な表情と共に、驚嘆な声で反応する神矢。

「神矢。なんでここにいるんだ?」

率直な質問に、神矢は大雑把(おおざっぱ)に返答する。

「少し用があってな。今帰ろうと思っていたところだ」

淡い笑みを浮かべる神矢。

「帰る、か。どうだ?今日はギルド(うち)に泊まっていかないか?」

「いや、でも俺金持ってねぇから」

「大丈夫だ!今日は無料で泊めてやる!」

そう言って、拳を握ったまま親指を立てグッドサインを作り、突きつけるように向けるグノフ。

グノフの満面な笑みに、神矢は再度淡い笑みを作って。

「じゃあお言葉に甘えて」

歩くこと数十分。

案内されるがまま到着したギルド前。

「久しぶりだな。中に入るのは」

相変わらず騒然な雰囲気に神矢は苦笑を浮かべる。外にまで音が溢れ出ていた。

大きめの扉を押し開けると、久方の光景が目にはいる。

パーティーを組んでいる冒険者はまた、一人で居る冒険者。これから依頼を受ける冒険者や報酬を貰う冒険者。

ギルド長のグノフが居る為か、少々視線が二人に集中する。それでも賑やかな雰囲気は変化しない。

二人は端の方に対面するように配置されたソファに腰を下ろした。流れ的にそうなった。

少し()が経ち、グノフは一度深く息を吐くと、真剣な表情へと引き締めた。

「神矢。頼む!ギルドに入ってくれ!」

バッと頭を深々と下げるグノフ。

忽然の頼み事と焦燥とした態度と雰囲気に、神矢は困惑と驚倒を浮かべた。

「何かあったのか?」

より一層深刻な表情へと一変して、拳を握り締め、ボソッと言う。

「数日くらい前だ。魔生種(ませいしゅ)が大量発生した」

魔生種。この世を生きる上で、どんな生物でも魔力を持つ。その中でも、自分が所持出来る限界の魔力を超越した生き物。魔力は勿論大幅に増加し、凶暴化もする。また、人間も魔生種に成り代わる事がある。それを魔人と言う。魔生種の中には、魔物(魔生種と変わらない)、魔人、魔神という位がある。魔人までは数多に存在するが、魔神に関しては、今までに存在したことはなく、現在も存在していない。もし存在したとしたら人類の破滅だと伝えられている。

そして、魔生種に分類されていない者達の存在が有り、それが魔王。現在魔王は第一、第二、第三、第四、第五という()の存在が有る。ただ、第一は………………。

「そうか?俺はあんまり遭遇しなかったが」

「恐らくだが、魔王の仕業だと思う」

「……生み出したってことか」

ゆっくりと頷くグノフ。

神矢は暫く思考を巡らせた。

魔生種の大量発生の理由と、何故魔王は魔生種を生み出したのか。まず魔王は関係しているのか。そしてどれ程増加したのか。

その(かん)グノフは必死な表情をしていた。こめかみからは玉の汗が頬を伝う。

「グノフ。俺は―――――――」

耳を澄ます。鼓動が急速に加速する。生唾をゴクリと飲み込む。

「俺はギルドには入らない」

サーッと血の気が引いた。絶望に満ちた表情で、グノフは俯く。拳は自然と強く握られている。

「俺はギルドには入らない。だが協力はする」

その瞬間、グノフの表情に燦然(さんぜん)とした星の如き輝きが現れる。

「本当か!?それだけでも助かる!!」

ソファとソファの間にある机から身を乗り出して、明朗な声がギルド内で大きく響く。

「あぁ、まぁ旅のついでだけどな」

また一度ソファへ深く腰を下ろして、大きく安堵な息を吐いた。

「本当に感謝する」

その謝意を最後に、神矢は今日泊する部屋へと案内された。

友と言う関係では勿体ない程の部屋に、神矢は呆然とする。

三階の隅の部屋。見渡すと結構な広さで、二つのソファが丸い机を挟んだ状態で配置されており、その奥にキングサイズのベッドが一つ、存在感がある。

グノフは「飯が出来たら呼びに来る」とだけ言い残して去って行った。

神矢は一つのソファへ腰を下ろして、先程の事について思惟(しい)する。

魔生種大量発生。魔王の仕業という事は神矢にも何となく分かることだ。魔力を多く持つ魔王。

魔生種の作り方は簡単で、耐えられなくなるまで魔力を注ぎ込めば良いだけ。

ただ、五人の内誰の仕業かまではたどり着けない。情報が少なすぎるからだろう。

神矢の憶測ではあるが。

(恐らく第一、だろうな)

いつの間にか、神矢は昔の記憶を追懐していた。

約束。

桜はいつも通りに舞い、佳景が広がる。

『俺たち、大きくなったら強いやついっぱい倒して、強くなろうな!』

鮮明に覚えている六才の記憶。

『お前を必ず………そしていつか、あいつを……………』

強くなる事を約束して三十年後くらいの記憶。

その時の表情は真剣で、覚悟を決めたようだった。だが、その奥にある悲の感情があった事を、神矢は見逃さなかった。

(お前が言った約束。いつまでなんだよ…………。俺達、強くなりすぎたかもしれないな…………)

淡い笑みを浮かべる。

そこで、ドアのノック音が部屋に響く。

神矢は現実世界に引き戻されたように我に返る。

「神矢。飯だ」

ドア越しに聞こえるグノフの声。もう夜らしい。

神矢は返事をして、部屋を後にした。

夕食を済ませて、部屋に戻り、沐浴した後は、ベッドへ身を預けた。

ララと出会い、久々に戦闘し、人口の多い所へ来た。久方ぶりな事ばかりで、疲労が堆積している。

ベッドは神矢全身をゆっくりと沈淪させ、睡魔が神矢を襲う。いつもだと、外で警戒しつつ睡眠を取るため、あまり眠れていなかった。

だが、今は快適なベッドの上で安心できるのが現状。

目を閉じれば、神矢は寝に就いた。








翌日、神矢は気持ちよく覚醒した。

木材で出来た天上が薄らと視界に入る。

上体を起こし、伸びをしながら窓へ行く。

長時間寝たつもりだったが、窓を覗くと外はまだ暁闇の空だ。

ギルドは二十四時間対応の為、年中無休で騒がしい。それは三階に居る神矢にも届く程だった。

早く起きてしまい、何もすることがない神矢は思考した結果、昨日見た依頼紙の量を思い出す。依頼掲示板に貼り切れず、机に万と重畳していた。

一応目を通しておいた方が良いと判断した神矢は、部屋を出て、一階へ続く階段を降りる。

その時、白銀に輝く鈍色の鎧を全身に纏った一人の兵士とすれ違った。

(兵士?何故ここに?)

解決出来ない疑問を捨てて、一階へと足を付ける。

冒険者は肩を組みながら、騒がしく楽しそうに飲酒している。

その様を横目に、神矢は依頼掲示板へと足を運んだ。

改めて見ると、幾つもの依頼紙が重なって貼ってある。

その中で一枚、気になる依頼紙に手を伸ばした。

依頼紙が傷んでいる為、相当昔の物だと判断出来る。内容を胸臆で読む。

(精霊の道から外れた悪魔。身長約二百センチメートル、全身ほぼ黒く、額に大きな角有り。双子でそれぞれに左肩と右肩から伸びる大傷有り。マーブィ王国国王より。……………………絵がない?)

普段は依頼の内容に沿った絵が描かれるはずだが、神矢が見ている依頼紙には絵がなかった。

眉間に皺を作りつつ、取った依頼紙を戻した丁度その時。

ドンッ!と固い物がぶつかる音が二階から響いた。

続いてバンッ!とドアを開閉する音が鳴り、大きな跫音(きょうおん)が近づいてくる。

階段を下り、やがて神矢の前で止まった。

「グノフ、どうした?」

玉の汗を大量に、グノフは膝に手を付いて大きく息を繰り返している。

「どうしたもなにもあるか!!はぁ、はぁ。お前、これ…………何したんだよ」

荒い息のまま、グノフは一枚の紙を神矢の顔へ突き出した。

突然叫喚を浴び困惑と驚きを(かんばせ)に、突き出された紙を読み上げる。

「神矢殿。今日午前九時、王城に来るように。レイトハウド王国国王より」

(ん?)

国王からの呼び出しに、神矢は思考停止する。

(え?俺何かしたっけ?)

「なぁ、俺何かしたっけ?」

「それはこっちが聞いてんだよ!!」

グノフは罵声を浴びせる。

フル回転して深慮するが、思い当たる節が全く持ってない。そのことをグノフに伝えると、掌全体で顔面を押さえ、深くため息を吐いた。

「とりあえず行ってくるわ」

「当たり前だろ!!お前少しは焦ったりしろよ!」

再び罵声を浴びる神矢。

呼び出し時間の三十分前で神矢はギルドを後にして、レイトハウド王国の中心と言っても過言ではない、少し北に位置する王城へと歩を進めた。

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