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07話 悪役令嬢と内通者


 あり得ない。絶対に何かがおかしい。

 最前線の基地から出発して7日が経過した。

 その間に、野良カルトから襲撃されること数十回。幾ら何でもおかしすぎる。

 もう百人以上は狩ったけど、思った以上にカルトに感染した人は多いようだ。――良く考えれば、カルト教団を叩き潰してから4年も経過している。

 ネズミ講形式で増えててもおかしくはない。けど。


 絶対にカルト教団に通じている内通者がこの馬車にいる。


 王都まで行くルートを何回か変更しても的確に襲撃してくる事から間違いない。

 容疑者は三人。


 一人目は馬車の運転者。名前は知らない。ルート変更をしているので、野良カルトに連絡して襲撃させる事は可能。


 二人目はアストロス大尉。できれば違っていて欲しい。斃す場合、初手の速度が圧倒的に不利なので面倒くさい。


 三人目はシア三等兵。無表情な女の子。確か徴兵で来たと訊いた。馬車に乗るときに挨拶したぐらいなので詳細不明。


 面倒くさいなぁ。

 そもそもこんなになったのは、ファーライム少将がアストロス大尉を付けたからだよね。

 私を信頼して1人で行かせてくれたら、こんな面倒な事にはなってないのに。

 ファーライム少将への好感度が大幅に下がった。

 

 地図を手に持ち、アストロス大尉とシア三等兵に表情を悟られないように隠して考えていたけど、ふと、地図を見ていると森の中に川が流れている場所があった。

 野良カルトの襲撃もあり、強行軍で王都に移動している事から町があっても食料を買うだけで宿には泊まっていない。

 何が言いたいかというと、――そろそろ水浴びをして身体を清めたい。

 7日間もカルトの襲撃対応で汗をかいているので割と臭い。このまま王都に行くとして、汗などの異臭で王都に入るのは、流石に乙女としてどうかと。

 森の中だと、不特定多数から覗きを受ける心配も全くないとは言えないけど、平地に比べたらマシなので、出来たら水浴びをしたい。


「アストロス大尉」


「なんだ」


「この先にちょっとした森の中に川が流れています。できたら少し水浴びをしたいと思いますが宜しいでしょうか?」


「水浴び――? 少尉もそういう事に気をつかうんだな」


「大尉が私をどう思っているかは知りませんが、私はどこにでもいる普通の乙女……公爵令嬢ですよ」


 「何を言ってるんだ」みたいな目で見られた!

 少し考えていたようだけど、アストロス大尉は承諾してくれた。

 もしかして拒否されて強行軍で行く可能性も捨てきれなかったけど、そこは、私の今まで人徳が物を言ったと思って良いはず。

 少しして街道で馬車は止まる。


「それじゃあ少し水浴びをして来ます」


「シア三等兵も一緒に行け」


「了解しました」


「――私は1人の方が。他人に裸を見られるの、慣れてませんので」


「少尉。シア三等兵と一緒に水浴びをする事に何か問題があるのか? それとも1人で行動して、我々に黙って何処かに行く気か」


「まさか! 大尉は私を信用されてないのですか!」


「信用している。だからこそ、訊いている」


 イヤな、とてもイヤな信用のされ方の気がする。

 私ほど真面目に忠実に任務を熟している将官はいないのに、こんな評価を受けるなんて戦場の理不尽だと思わずにいられない。

 ここで大尉と論争して、水浴びが中止になるのもイヤなので、唯々諾々と承知した。


 馬車を降りて森を進む。

 その間、シア三等兵とは一切の会話無し!

 いや、少しは話しかけてきて欲しいです。私は割とフレンドリーだと思うんです。ただ少しコミ障を煩ってますけどね?

 しばらくすると目的の川まで来た。

 夜でも分かる底まで見える透き通った川。手を付けて川の温度を確かめてみた。

 冷たいけど、入れないほどじゃない……。

 『土』と『火』属性の魔術が得意なら簡易的なお風呂が作ることが出来たんだろうけど、文句は言えない。


「それじゃあ、パッパッと水浴びをしようか」


「……はい」


 シア三等兵は頷くと、軍服を脱ぎ始めたので、追随して私も脱ぐ。

 ――確かシア三等兵は私よりも三歳ほど年下だったハズ。

 胸とか、腰の辺りのくびれとか、私より……。

 まだ、まだ、私は十五歳。これから成長する可能性は大いにあるっ。

 ふと。私よりも、立派な胸を羨ましく見ていたら、胸元のあるペンダントが目に入った。

 革紐の先端にぶら下がっている装飾品。

 それを見た瞬間、私は――。









『望外のチャンスが来た。我々の神を殺した『頸斬姫』を王都へとの旅路の中で必ず殺す』


 あの人はそう言った。

 そしてペンダントを1つくれた。

 私達が奉っていた神の破片と魔石を加工をしたした装飾品が取り付けられたペンダント。

 これはどんなに離れていても、所有者の居場所が分かる優れものらしい。

 『頸斬姫』と同行して、居場所を常に同胞に知らせるのが私の役目。


 『頸斬姫』アデル・シュペイン


 四年前よりも化け物になっていた。

 私は、四年前、魔法使いと一緒に行動していた彼女と会っている。

 あの場に居た大多数の1人なので、彼女は覚えないだろう。

 まだ、あの頃でも魔法使いの横にいるだけで存在感が強かったのに、四年でここまで変わるものだろうか。

 一応、基礎の戦闘訓練は教団と軍で積んだけど、どう転んでも勝てる気がしない。下手に殺気でも向ければ、その瞬間に私の身体と頸は斬られる。

 だから馬車では、常に身を細めて気配を消していた。


「それじゃあ少し水浴びをして来ます」


「シア三等兵も一緒に行け」


 あの人は、そう、言った。

 彼女は断っていた。私はこの時ばかりは、あの人よりも彼女を応援した。

 無理。無理だ。

 『頸斬姫』と二人っきりなんて、私は、私は、うっ、ぅぅ。

 この7日間の旅で分かった。

 彼女は魔法使いに近い。ほぼ、ほぼ無敵な存在だ。

 もし彼女に害を与えられる存在がいるとすれば、きっと魔法使いか、同等のバケモノか、或いは運命により敗北が決定づけられている存在との対峙だろう。

 私や、あの人や、教団の同胞達では……。

 そんな思考をしている内に、結論は出ていた。

 結局、彼女は上官であるあの人には逆らえないのか。


 暗い森の中を彼女が先導する形で進んでいく。

 しばらくすると小川があった。

 彼女は手をつけて水温を確認すると、振り向いて私を見た。

 それだけで心臓の鼓動が早くなる。


「それじゃあ、パッパッと水浴びをしようか」


「……はい」


 なんとか声を出して返事をした。

 軍服を素早く脱いで、水浴びをして、早く、早く馬車へ、あの人の元に戻ろう。

 私は、『頸斬姫』の恐怖により思考が正常じゃなかった。

 だから、だから、胸元にあるペンダントの存在を失念した。

 胸元に『頸斬姫』からの視線を感じて、私はようやくペンダントの存在に気づいた。

 『頸斬姫』は私との間合いを一瞬で詰め、魔力を込めた手刀で私の頸を簡単に刎ねた。

 痛みは無かった。

 でも、私は、不思議と安堵していた。

 だって、これで『頸斬姫』から解放されたのだから――。





 

「――まさか。本当に内通者がいるとは思わなかったなぁ。でも、殺せたのが水浴びの直前で良かった。身体に付いた血も一緒に洗い流せるから一石二鳥。アストロス大尉には頸を持っていけばいいよね」


 ペンダントの装飾品を握り潰して川に放り投げると、私は水浴びをする事にした。


 

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