表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/32

05話 ファーライム少将は整える


 アデルが去った後、ファーライム・ディカ・グラベリス少将はため息を吐いた。

 本人は自覚があるか不明だが、アデルの笑みは、身内からは「悪魔の笑み」と言われるほど威圧感があり、それを向けられたフォーライムも年甲斐も無く、少しだけ恐怖を感じた。


(流石、元帥のお気に入りだけはある)


 戦場に送られてきた時に、キリディア元帥からアデルを預けられた事を思い出した。

 仮にも公爵家令嬢。万が一があれば大事なため、最前線には出さないように言ってくるのかと思っていたのだが。

 キリディア元帥は、ファーライムに対してこう言ってきた。


『ファーライム。アレは常に最前線に送れ』


『……下手すれば死にますが、宜しいので?』


『ハッハハ。最前線程度で、あれが死ぬかよ。――儂からすれば、死ぬ寸前まで追い込まれて、儂の魔法を継承してもらいたいがな。その可能性があるとすれば、戦場だろう』


『冗談でしょう。貴方が魔法の継承など。もう数百年もずっと保持しているではないですか』


『継承できるヤツがいなかったんだ。仕方ない。魔法を継承した者は、心身ともに人の領域から大きく外れる。生半可な者では自滅するがオチだ。実際、儂も若い頃は、継承させようと試みたが、まぁ、儂がまだ魔法使いをしている事から察しろ』


『……』


『ただな。アレは今までの継承させようとした中でも、特に良いぞ。なんと言っても零落しているとはいえ、カルトが祀る神を斃したのだからな!! しかも、神を斃した時のアレはどんな表情だったと思う? 無だよ。ただ普通に邪魔だから斃した。それだけだったよ』


 愉快そうに笑う。

 それなりに付き合いがあるが、ここまで笑っている姿を見たのはこれが初めての事だった。


『その時に、儂は確信したよ。コイツならば、私の魔法を継承できるな、と』


『では、継承させるのですか?』


『――したいが、できない。アレは魔法を継承するのを拒否したからな』


『冗談、でしょう? 魔法継承は王位継承に匹敵するほど名誉なことですよ』


『「え。厭です。力は欲しいですけど、魔法なんて面倒くさくて厄介な物はいりません。ご先祖様みたいになるのは、御免被ります。私の事は諦めて後数千年ほど魔法使いを頑張って下さい」だとよ』


『……――元帥たる貴方に、そんな事を言ったのですか。恐れ知らずというか、命知らすというか』


『後数千年頑張れと、あのガキは笑顔で言いやがった。その時に、儂は決めたよ。何が何でも魔法を継承させて、朽ち果てるその時に、数千年頑張れと言ってやろうとな!』


 キリディアは指を指して言った。

 千年生きている割には、少し子供つぽい所がある。


『だから、だ。アレを最前線に出して、生と死の狭間を経験させ、生を渇望させろ。そして魔法を心の底から望むようにしろ。――すれば、魔法の継承は行われる』


 それから数年が経った今も、アデルは魔法を継承していない。

 何度か厳しい場面は有りはしたが、魔法を望むほどではなかった。


 少しだけIFの話をしよう。


 もしも。キリディアが最前線に回すこと無く、元帥の権限を持って公爵家に戻したとしよう。

 すると公爵家令嬢姉妹による流血は当たり前で、王家や他の家々を巻き込み内紛に近いの戦争が勃発。

 そして、悪役令嬢であるアデルは、ヒロインであるアリサに敗北して瀕死となる。

 その時に魔法を継承してでも生きたいという、生への渇望が生まれ、魔法を継承する事になる。

 継承までの期間。公爵家に戻されて僅か1年ほど。

 最前線に送るよりもお手軽に、キリディアはアデルに魔法を継承させる事ができたのである。


閑話休題。


 そんな昔の事を思い出し、ファーライムはため息を吐いた。

 言われたとおりに最前線にアデルは送っている。

 しかし可能であれば、アデルに魔法の継承はさせたくないというのが本音だ。

 鬼に金棒。サイコパスに凶器。

 今でさえギリギリの所で抑えられているのに、魔法を継承させれば手の付けようがなくなる気がしてならないでいた。


 キリディアが使う魔法属性は、六大元素である【土】と【水】。大地を、植物を、水を、生命すらも自在に操る最強の魔法使い。

 かつてはその魔法で、ある国から全ての草木や水を枯らし大飢饉に陥らせたり、または国そのものを地盤沈下で沈めたと記述が残されている。


 そんな圧倒的な魔法を、アデルが継承したとなれば……。

 『頸斬姫』ならば、躊躇うこと無く使用する未来をファーライムは感じていた。

 ファーライムが思考の沼に嵌まっていると、扉が叩かれ、1人の青年将官が入ってきた。

 アストロス・ガルデバンス大尉

 黄色の髪に厳つい表情をした青年。「雷」魔法の使い手で、実力は若手の中でもトップクラス。

 正面から正々堂々とまともに戦えば、『頸斬姫』アデルすら斃せる実力だと、ファーライムは考えており、今回の王都までの同伴相手に決めたのである。


「呼びましたか、少将閣下」


「ああ。アストロス大尉。貴官に重要任務を命じる」


「重要任務、ですか?」

 

「重要任務とはいえ、簡単な仕事だ。アデル・シュペインを王都に、ある日時までに輸送する。それだけだ」


「……冗談でしょう」


「私が冗談を訊かせるために、わざわざ貴官を呼んだと思うのかね」


 ギロリ、と鋭い視線をアストロスに向けるファーライム。

 アストロスは上官であるファーライムの前でなければ、舌打ちの1つでもしたい気分になった。

 アデルは自称平和を愛しトラブルとは無縁の生活をしてベッドの上で老衰を迎えたい系なのだが、周りからはかなりのトラブルメーカー扱いをされていた。

 今までの行動からして、周りの判断は妥当な評価としかいえないが。


「承知しました。でしたら、幾つかお願い事があります」


「なんだ」


「現在使用されていない、捕縛した魔術師を護送するのに使用する対A級魔術師用の護送車をお借りしたいのですが」


「――いいだろう。今の戦況であれば、使用することはないだろうからな」


「また、シア三等兵の同行も許可いただいて宜しいでしょうか」


「シア三等兵……? 私は知らないが、貴官が推薦するからには優秀なのか」


「徴兵でやって来た少女です。能力は平凡ですが、アデル少尉も異性の自分だけで長期間一緒の車にいるよりも、同性も一緒にいた方がいいかと愚考した次第です」


「ああ、なるほど……。いいだろう、それも許可しよう」


「ありがとうございます。自分からは以上です」


「そうか。では、正式に指令を下す。アストロス大尉。アデル少尉を二十日から二十五日の間に王都へ送り届ける事を命じる」


「承知しました。微力を尽くしましょう」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ