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戦場に咲く一輪の華。それは悪役令嬢です【連載版】  作者: 華洛
EXTRA STAGE[1] アデル・デュラハン討伐作戦
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05 悪役令嬢 Vs.ヒロイン


 帝国領に向けて撤退する「ワイルドハント」部隊。殿を務めるかのように、私達の真上で佇む、私の姉にして、悪役令嬢。


 アデル・シュペイン。ううん。確かに今はアデル・ジュラハンと名乗ってるんだっけ。


 撤退する味方を追わせないためか、単騎で私達に向けて魔弾を撃ってくる。

 そんな事をしなくても、追ったりはしない。

 今回の作戦は、私の姉を今度こそ討伐する。それだけの作戦だ。

 1000人程度の少人数の出撃したのも、姉を誘き寄せるための餌にすぎない。――もしも姉が来ないようなら、何もせずに撤退していた。


 前回、デウス門の襲撃した時から、それほど日数は経っていない。いくら怪物な姉とは言え、まだ人の領域。完全に治っては居ないはずだ。

 だからこそ、ファーライム少将に進言して、無理な兵の運用をしてもらった。

 万全な状態の姉ほど恐い者はない。

 まだダメージが残っているであろう「今」しかない。


「みんな、アデル・シュペインは私が斃す。私が斃さないといけないの。皆はここに居て」


「いや、しかし。危険だ」


「そうだ。相手は、あの『頸斬姫』だぞ」


「それに今なら相手は1人だ。数で囲い圧せば、必ず斃せる」


「……――でも、誰かが死ぬ。もう、誰も死んで欲しくないの」


 ファクト様のいう通り、私達全員で囲えば、高確率で姉を斃せるだろう。けど、その課程で、きっと、何人かが死ぬ。

 ゲームと違って全員生存でハッピーエンドなんて迎えることはない。

 実際、ノイド様は、姉に殺されている。


「だから、私を信じて。確かに戦うのは、私1人だけど、みんながくれた力と一緒に戦うのだから、1人じゃない」


「アリサ……。ああ。キミならきっと斃せる」


「俺たちの力で、ノイドの仇を取ってきてくれ」


「ただ、無茶はしないで欲しい。相手は『頸斬姫』だ。どんな悪辣なことをしてくるか分からない」


「ええ。分かってるわ。みんな、本当にありがとう――」


 私は心の中から感謝を3人に向けて言った。

 そして3人は、自分たちが持つ魔力を私に譲渡してくれた。

 ――ゲームでも、悪役令嬢であるアデル・シュペインの圧倒的な強さに対抗するために、ヒロインは攻略対象者から魔力を譲渡してもらって、最後には悪役令嬢を斃すんだっけ。


 魔力を譲渡したことで3人は飛空維持が難しくなったのか、ゆっくりと降下していく。

 私は上にいる姉の元に向かい上昇した。

 同じ高度まで上昇してきた私を、姉は射殺すかのような視線を向けてくる。

 ビビったら駄目だ。気を強く持たないと。気圧されしたら負ける。

 相手は怪物。左目に星神眼を持つ半分人間を辞めた存在。

 私は、臆すること無く、睨み返した。









 生意気にも睨み返してくる愚妹に対して、私は吐き捨てるように言った。


「アリサ。アンタは、本当に私の人生において害悪でしかないね。存在自体が私の天敵。ゲームにおける悪役令嬢とヒロインである以上はしかたないのかもしれないけど……」


「そうです。私がヒロインで、お姉様は悪役令嬢です。分かってるなら、素直に私に斃させて下さいよ。それが一番平和的な解決方法です」


「はっ。ライトノベルを読んだことないの? あんたみたいな頭がお花畑なヒロインは、悪役令嬢に「ざまぁ」されるのがトレンドなの。せめてもの情けで、ヘッドショットして痛みがないように殺してあげるから、抵抗するな」


 アサルトライフルを構え、愚妹の頭に向けて魔弾を撃った。


 それが私とアリサの開戦の合図となった。


 魔弾を回避したアリサは、直ぐにアサルトライフルを構え撃ってきた。

 ――ッッ。

 なんとか紙一重で回避したものの、魔弾の速さも威力も、私の「オーバーロード・フルスロットル」状態に近い。

 くそっ。攻略対象者から譲渡された魔力がヒロインに合わさると、これほど厄介になるなんて。ゲームでのアデル・シュペインが負けた理由が分かる。

 「オーバーロード・フルスロットル」は短時間かつ自分自身への反動も大きいけど、向こうは外部エネルギーで反動はほぼゼロ。チートもいい加減にしてほしい。

 あの状態では、たぶん、私の通常魔弾は、魔術障壁で弾かれる。

 ならば、物理攻撃に切り替えるまで。

 ベルトのホルスターを外し、四振りの飛行剣を飛ばし、四方からアリサを狙う。


 するとアリサは銃を仕舞うと、脇にある刀の柄に手を置く。

 貫くようにアリサへと向かう飛空剣は、アリサの間合いに入った直後に、光が奔り、細切りにされて地面に落下していく。

 この魔力は、知っている。


「アリサァァァァァ。封印されていた「光」の魔法印の封印を解いたな!! ゲームの知識があれば、普通は封印したままにしておくべきでしょう!!」


「……ええ。お姉様、貴方を斃すために、解きました。お姉様を斃すには、これしか方法が思い浮かばなかったので」


「愚かだと思っていたけど、ここまでとはねっ。絶対に、殺して、魔法印は封印してやるっ」


 魔法印とは星神そのもの。六大元素全てが集まると星神が現臨してしまう。――それがゲームにおけるBADENDの1つ。

 星神、オリジン・ゼロ。

 肉体を世界を構成する六大元素たる魔法印として分割された存在。

 精神は亜空間に封印されていて、「光」の魔法印がの封印が解けた時点で、覚醒してしまうということを設定資料集に書かれていた。

 ――本当に、あの愚妹は私に対して害悪でしかない。

 左目の虹色に輝く「星神眼」。この前のデウス門攻略の際、アリサに不意打ちをくらい死にかけたときに覚醒したけど……。

 記憶はないけど、亜空間に封印されている星神の精神と会ったんだと思う。でないと、左目の「星神眼」は説明が付かない。


「もらった!」


「――ッ」


 ……しまった。思考が星神の事に向いてしまい、戦闘が疎かになっていた。

 慌てて「アルヴァストSS2」を向けると、再び光速抜刀術で、「アルヴァストSS2」が細切れにされてしまった。

 愚妹に勝てる武器が全て無くなった。

 一応、右手には伸縮式のダガー、左手には隠し小型ピストルがあるけど、光速抜刀術には対抗できるものじゃない。

 胸元に手を当てる。

 帝国の魔女が造った半径10㎞四方を灰燼にする威力がある自爆用魔道具。

 発動には「オーバーロード・フルスロットル」に必要な魔力が必要。

 ――どうせ愚妹に殺されるなら、せめて愚妹を巻き込んで死んでやる。

 たぶん愚妹は光の魔法印を完全には扱い慣れていない。十二全使えるなら光速で移動して私を殺しただろうからね。流石に光速相手には太刀打ちできない。

 見るからに攻撃特化。光速抜刀術で負荷が大きい抜刀する右手は袖の服は焼け落ち、右腕は痛々しいまでに火傷を負っていた。

 そう何回もは出来ないだろう。でも、あと一振り。私を殺す程度は可能だと思う。

 左手を胸元の魔道具に当てる。


『死なれてもらっては困る。汝は我が現臨するための大切な素体だ』


 脳に、声が響いた。

 同時に左目が熱く、まるで火に炙られているほどの熱さ。


「       」


 声にならないほどの悲鳴をあげる。

 左目から魔力が溢れる。やはり、「星神眼」は星神の眼そのもの。亜空間から私に目を通して魔力を送ってくる。

 左半身に星神の異常で異端な魔力が巡り、それは星痕として肌に姿を顕す。

 私の躰が、私以外のものによって操られる。


 胸元にある卵形の魔道具を引っ張り無理矢理に外す。

 そして魔力を注ぎ込むと、バスケットボールほどに膨らみ破裂した。

 中から現れたのは、漆黒の、光すら吸収するほどの黒さを持った炎。

 帝国の魔女の十八番である魔法「闇炎」。

 本来であれば、直ぐに周辺10㎞四方に拡がり、ありとあらゆる物を灰燼へと滅する。

 だけど、星神はそれを制御して見せた。当然と言えば当然。魔法は星神そのもの。制御できて当たり前だよねぇぇぇ。

 今、愚妹を殺されたら、魔法印は私に継承される。そうすると、今の状態だと確実にゲームにおけるBADENDへ直行する。

 それだけはなんとしても拒否ッ。

 忌々しいけど、仕方ない!!!


「アリサぁぁぁ。今すぐに、光の速度で逃げろ! 今の、私は、半分は星神。星神に殺されたら、アンタの魔法印は私に継承されて、私が星神になってしまうッ」


「え、えっ」


「それにっ。アンタの、「光」魔法印ではっ、まだ魔女の「闇」には抗えないでしょう! さっさと逃げろォォォォォ」


「――ッ」


 制禦している「闇炎」が、私の意思に関係なくアリサに向けて投げる。

 バスケットボールほどの「闇炎」はアリサに迫る。アリサは今一度、光速抜刀術で斬ると躰を発光させ、瞬く間に消えた。

 同時に黒い爆発が起き、私は意識を失った。



 


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