19話 頸斬姫は再び戦場へ(第1.5部/完)
「ヒト程度が、空を飛ぶとは烏滸がましいわ!」
「お前達は、地を這っていればいいのよッ」
背中に羽を生やした人型の亜人。有翼人。
私が居る場所は、多種連合国家キマイラと帝国が激突している場所だ。
私が帝国へ亡命して約一ヶ月と半月ほどが経過した。
てっきり私は王国戦で酷使されるかと思ったけど、王国軍はなぜか王国軍最終防衛ラインのデウス門まで撤退したことで、冷戦状態に陥った。
難攻不落のデウス門をただ攻めるのは至難。
あそこはご先祖様の魔法で造られた場所で、生半可な攻撃では傷1つ付けられない。
しばらく休めるかと思ってた所で、私の帝国での監視役兼保護者であるアルベルト・ノイマン軍師から命令が下された。
『多種連合国家キマイラからヘルプ要請があった。手が空いているのはお前だけだ。今すぐに向かえ』
そう言われたら向かうしかない。私は亡命者。拒否権なんてものはない。
解析のため没収されていた「アルヴァストSS2」は戻して貰った。……一応、何か細工されていたら恐いので、全てバラして再び組み上げた。
私の思い過ごしだったようで、特に何もされていなかった。
又、アルベルトさんから多種連合国家キマイラに向かうに辺り、選別の武器を1つ渡された。
4振の飛空剣。
それが今の私の副装備。
魔力を通すことで自由自在に飛ばすことが可能な短剣。
頸を刎ね易くなるから、実に素晴らしい武器だと思う。……4年前。カルトと戦うときに欲しかったなぁ。
閑話休題。
で、今、私は多種連合国家キマイラに所属している有翼人の亜人と抗戦していた。
キマイラ戦線で活躍予定だったネームド級を私が斃したようで、王国戦線ほどでないにしろ、ちょっと当たりがキツく感じた。
私は人の子。ご先祖様みたいに精神が超越してない。
ちょっと居心地が悪すぎるので、単騎で哨戒任務に当たっていると、運悪く有翼人の部隊と遭遇したというわけ。
――本当、運がない。
四本の飛空剣とアサルトライフルで応戦するけど――。これは、ちょっとキツイ。
私の通常速度と同等程度で飛行してくる。しかも集団で!
単騎では帝国戦で何回かあったけど、こんな集団戦は初めてなんだけどっ。
ああ、もう!!
「人間を見下すのはいいけどね。その人間に墜とされているお前達の方が無様だよ」
苛々しながら叫ぶ。
回避行動。ライフルによる連射。飛空剣の空間認識力による操作。
全て魔力の使用。
つまるところ魔力をいかに効率よく運用するかがカギ。
実際、魔力の消費が激しくてマナ・ポーションを3本も飲んでいる。
その割には墜とせた有翼人は、10人にも満たない。残っているのは30人近いっ
……ジリ貧だなぁ。これ。
たぶん、このまま戦えばマナ・ポーションが尽きて、魔力もなくなりそう。
斬首作戦をするしかないかぁ。
敵の指揮官がいるのは高度12000超えてるんだよね。
私の最高高度を超えた場所にいる。
流石、空に関しては向こうの方が熟練度が高い。
「……やるか」
このままジリ貧するよりは、無理してでも敵指揮官を斃そう。
限界高度を超えるには、限界を超える魔力を放出するしかない。
持ってきていた残りのマナ・ポーション7本全て飲む。
「オーバーロード!!」
朱い魔力を放出し、一気に上昇する。
こっちが向かって来ている事を察したのか、敵指揮官もこっちへ向かってくる。
人間如きの一騎相手に逃げては種族としての恥とか。そんな事を思ってそう。
手には剣――たぶん見た目からして魔剣だろう。
キマイラには優秀なドワーフも多数所属していると聞く。中には聖剣、魔剣、神剣鍛冶士もいるとか、いないとか。
指揮官クラスが持っているものだから、きっと優秀な業物なんだろう。厄介極まりない。
4振りの飛空剣を周囲に飛ばし、アサルトライフルの先頭に装備している短剣に魔力を集中させ、敵指揮官へと突っ込んだ。
アルベルト・ノイマン。
それが俺の名前。
『頸斬姫』の監視役兼保護者兼監督役。
――歳が近いからということで、厄介事として押し付けられた任務。
まず最初の任務は、『頸斬姫』を連れて多種連合国家キマイラまで連れて行くこと。
『頸斬姫』は帝国での悪名はかなり広まっている。
故にどこに行っても、歓迎されるという事態はない。例え援軍要請で来たとしてもだ。
アレも人の子のようで、周りの雰囲気に嫌気が差し、単独で哨戒任務へと飛んでいった。
そして帰ってくると、軍中は静寂に包まれていた。
敵か自分の血かは不明だが、血みどろの状態で、自身より身長の高い男の首根っこを掴み、帰ってきたのだ。
「敵、指揮官、です。死体ですが、お好きに……どうぞ」
疲労困憊。魔力過剰消費。他には多少のダメージが見て取れる。
指揮官は報告書で見た事がある。
確か有翼人の中でもトップクラスの実力を持つ者だったハズだ。
散々、帝国軍の戦線を空から攻撃してきて苦しめた亜人。
まさかコレを討つことが出来るとは……。
「――あ、きちんと、死んでいる、か、心配ですか?」
『頸斬姫』はそういうと、右手から隠し短剣を出し、有翼人の頸を刎ねた。
「これで、確実に、……死にました。アルベルト、さん。あと、宜しく」
事切れたように倒れる『頸斬姫』を慌てて支える。
思っていた以上に小柄で軽い。
――触って大丈夫だよな。咄嗟に頸を刎ねられたりしないよな。
内心で怯えながら、部屋まで連れて行った。
部屋まで連れて行き気がついた。
血塗れだ。
……女性士官に頼んで、拭いて貰うようにするか。
こういう頼み事する時は、その人物の人徳がものをいう。
全員に断られた。理由は恐いらしい。
その気持ちは分からなくもないので、強くは強制できなかった。
これは『頸斬姫』の周りの世話をできる奴隷でも与えた方がいいかもしれないな。
目が覚めたら、帝都に連れて行き、好きな奴隷を買わせるか。
……下手に士官を与えて殺されるよりは、奴隷を与えた方が安上がりだろう。
ここは末端とは言え俺は軍師だ。
奴隷購入費用ぐらいは経費で落とさせる。
それに奴隷がいてくれた方が、俺も楽ができそうだからなぁ。
この後、『頸斬姫』アデル・シュペインは、帝国で戦果を上げていく課程で、『鮮血姫』と呼ばれるようになり、頸斬姫の名残を自身の名前に刻み、アデル・デュラハンと名乗る。
また小隊を与えられ、その小隊は後に帝国屈指の部隊「ワイルドハント」として活躍し、因縁有る王国との戦いに終止符を打つことになるが、それは少し先の話――。
一応、これで完結となります。
「もっとアデルの活躍をもっと見たい」「クロエに迫られるアデルを見たい」「アデルとアリサの姉妹対決を見たい」などの感想や評価等いただけると、第2部、或いは短期連載で機会があれば書ければと思います
ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございましたm(_ _)m




