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王国会談


 キリディアが王都に帰還すると、それは大いに騒がしかった。

 王都から5㎞ほど離れた場所で魔法使い同士が闘っていたのである。

 住民達は、その光景に恐れ戦いていた。


「元帥閣下!」


「ゲイルか。今はどうい状況だ? 外のことは良い」


 ゲイル・アヴァエル。

 元帥であるキリディアの副官の1人である。階級は少佐。

 自身の副官をさせるだけあり、優秀な人材である。


「元帥閣下が外に行かれる前に指示をされた通り、アリサ・シュペイン様。アーノルド・ードスター様。ファクト・グスモリー様。ギルガス・ソースタン様。それぞれを拘束して、指定された場所に居て貰っています」


「うむ」


「また、拘束して連れて行かれた事を知ったそれぞれの父親から場所を教えるようにと、だいぶ抗議がきています」


「下らん。無視しておけ」


「また国王陛下から、緊急招集がかかっております」


「だろうな。下手すると、この国の存亡に関わる事態にまで発展するぞ」


「それ、ほどの、事態なのですか」


 ゲイルは驚き声を上げた。

 それなりに情報収集をしているが、現状、知り得ているのはアデルがノイド第二王子の頸を跳ね飛ばし、それを持って国外に逃亡したということだけ。

 とてもではないが、それが国の存亡に繋がるとは思えなかった。


「――元帥閣下。まずはお着替えを。だいぶ愉しまれたようですね」


「ああ。久しく忘れていた肉体の痛みというものを思い出せた。この服を代償にする程度の価値はあった」


 楽しそうに笑う。

 魔法使いが全力を出して楽しめる相手は、同じ魔法使いだけ。

 キリディアが闘いで楽しそうに笑う姿を見たのは、ゲイルも初めてだった。

 因みにキリディアが着ている服は、幻獣の繊維を使ったオーダーメイドの一点物(最高級)であり、値段は二階建ての家が二桁近くは建つほどである。


「儂は一度、家に帰って着替えてくる。お前は先に行って、話を濁しておけ。」


「りょ、了解しました!」








 王城。会議室。

 三段ほど上がった所の玉座には現国王ザナリアが座り、下の段にある丸いテーブルには、第一王子オージナル・ルン・デッシュル。宰相ルティウス・ハーネット。王都守護騎士隊隊長アレックス・ロードスター。参謀本部参謀長ノーデス・シェイン。空いた席の後ろにゲイル・アヴァエルが立っていた。

 重い沈黙が場を支配している。

 元帥の威圧になれているゲイルとはいえ、元帥が早く来てくれる事を願った。貴族出身の周りと違って、平民出身であるゲイルは居づらくて仕方ない。

 会議場の扉が重々しく音を立てながら開く。


「……なんだ。なにもしてないではないか。儂がいないと会議すらまともにできんのか」


 呆れたような物言いをキリディアは入ってきて早々に言う。


「貴方が此度の全事情を知っているから、進められないのですよ!」


「儂は貴様らと違い多忙でな。少しは自分たちで決めて欲しいものだ」


 その言葉にザナリアとオージナル以外は、キリディアを忌々しく睨み付ける。

 睨まれるだけで何もしてこない相手などなんともない。

 キリディアは仰々しく椅子に座り、ザナリアに向けて言った。


「国王。軍をデウス門まで退かせるぞ」


 その言葉に場に居る者達は騒ぎ始めた。

 デウス門。

 王国最終防衛ラインである。そこを突破されたら、王都までにまともな要塞や戦いに特化した城は存在しない。


「元帥! 何を考えておられるっ。なぜデウス門まで、下げる必要性が!!」


「国王のバカ息子が、大多数の貴族がいる中で、バカな事を散々並べて婚約破棄をしただろう。アレさえなければ、軍を下げる必要は無かったわ。アデルは、最前線で畏れられているが、嫌われてはなかった。だからこそ、プロパガンダで英雄として奉っていたのだ。バカな暴言の末に身勝手な婚約破棄され国外追放などと伝われば、士気は最低まで落ちるぞ」


「情報規制をすればいいではないか!」


「貴様は阿呆か。あの会場にいた貴族全員を口封じ出来ると思うのか。――いや、半分程度の貴族を殺せば、或いは可能か。参謀長が国王に上申して許可が下りるというのならば、儂が手を下そうぞ」


「――ッ」


 出来るわけがない。

 確かにキリディアがいうように参加者の半分を殺せば、怖れ、話が広がらない可能性はなくはない。とはいえ、あくまで可能性の話。

 逆に話が広がる可能性だってある。


「士気が下がれば、どのみち遠くない先は撤退することになる。その頃には人的資源も消費して、防衛すら難しくなっているかもしれないぞ。ならば、一度はデウス門まで退き、態勢を整えるべきだ。何か問題はあるか、参謀長」


「……ないッ」


「国王も問題無いな」


「ああ。軍の事は、元帥に任せる」


 疲れ切った表情のザナリア国王は許可を下した。

 次に立ち上がったのは、王都守護騎士隊隊長アレックスだ。

 

「元帥。なぜ息子を拘束しているのか、お聞かせ願いたいッ」


「なぜ? 正気で言っているのか? バカ王子のバカ行為を止めることもせず、殺す事も防げず、下手人を捕らえるどころか呆然と少女のように立ち尽くしていただけの愚図。最早、処刑以外はない。――ただ、儂としてもお前達の今までの努力は知っている。で、だ」


「……」


「貴様達に選ばせてやる。第二王子の件で処刑されるか、最前線で手柄を立てつつ亡命者を斃すか」


「アデルは貴方の子孫でしょう」


「だから、どうした? アレも己の決めた道を歩んでいる。そういう不純物は必要なし」


「……もう1人の子孫はどうするつもりだ」


「親に甘やかされて育った俗物は、少し鍛えないと、肉壁程度しか成るまい。数ヶ月、儂が自ら鍛えて最前線に送るつもりだ。アレが抜けた穴は埋められないだろうが、居ないよりはマシだろう。貴様らの息子も、処刑でない方を選ぶのであれば、、ついでに鍛えてやる」



 それから会議は内政と軍事について話し合いが進む中で、それぞれの息子の処置も決まる。

 アレックスとノーデスは最前線に送る方に決め、

魔術の研究に忙しく出席していない魔術研究所特別室長のエリウス・シーウスは、、息子の処置は自分で決めさせるように言った。

 そんな中で、再び扉が開いた。

 入ってきたのは、1人のメイドが慌てて入ってくる。


「今は大事な会議中だぞ!」


「も、申し訳ありません。ですが、緊急の要件が起きましたのでっ」


「緊急の要件?」


「く、クロエ様。クロエ様が、自害され、部屋に火を放たれました!!」


 場が凍り付き、ザナリア国王は椅子から立ち上がると倒れた。


「父上!!」


 玉座の方から音がしたため振り返ったオージナル第一王子は、慌てて父親へと駆け寄る。

 息子の1人は馬鹿な行為をした上に殺され、娘は自害し部屋に火を放った。

 国王とはいえ、所詮は人の子である。

 同時にこれほどの事が起きれば、倒れるのも仕方ないと言える。

 再び騒がしくなる中で、喧噪にかき消される程度の声でキリディアは言う。


「ここで事を起こすか。もし魔法適正さえあれば、儂の後継者にしても良かったな」






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