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18話 悪役令嬢は亡命をする(第1部/完)

 あっさりするほど王都から出る事が出来た。

 え、嘘ぉ。

 罠とか待ち伏せとかないよね。

 てっきり王都守護騎士隊の中にいる飛行魔術の使いでも追ってくるかと思ってたんだけどなぁ。

 それとも平和ボケし過ぎて対応がゴタゴタしているとか?

 それなら私としては凄くありがたいんだけど。

 王都の城壁から10分ほど移動すると、また生暖かい風を感じたので、急停止する。


「アルトファムル……。約束通り王都から出てきたので、手助けをして下さい」


「――キミは面白いなぁ」


「なにが、」


 初めてアルトファムルを、正面に捕らえることが出来た。

 灰色のフードを被り、顔にはフルフェイスの仮面を被っているので顔は分からないけど。

 左手で私の頬を触ってくる。


「ずっと、一部始終を、僕は見てた。ノイドが放った暴言によって、キミの中に渦巻く感情と、精神の拮抗が崩れる様子。そして、パーティー会場からここに来るまでに、自己催眠によって精神の拮抗を一時的に元に戻したね。――それは無自覚か」


「……やめ」


「ああ、キミは本当に、かわいそうな子だ」


 仮面によって顔は見えないけど、目が、私を哀れんでいた。

 私は、私は、哀れなんかじゃない!

 触れている手を払い、後方へき、残数が残っている「アルヴァストSS2」を構え、アルトファムルに向けて全て撃った。

 風が吹いた。

 放たれた魔弾は、風に包み込まれ停止すると、地面へと落とされた。


「ごめんね。でも、ボクはキミの事が好きだから心配なんだよ。このままでいると、精神が死ぬよ。――キミの精神の成長は、10歳でほぼ止まっている。辛いことなどは自己催眠により奥深くに封じ希薄としているようだけどさ」


「……」


「ああ、泣き言はいえない環境だったからね。彼のスパルタ教育に、それが終わったら帝国との激戦が繰り広げられている最前線。辛くて泣きたい時もあっただろう。それを、出せる相手も、場所もない、ただ、ただ、心の奥底に仕舞い込み、平穏に振る舞い、笑い、自分の弱さを誤魔化す日々――」


「私を、私を語るな!! 私は、私は、「頸斬姫」。狂人「頸斬姫」。それで、それでいいでしょう!! ええ、相手の頸を刎ねて悦ぶ、最低な、狂人! それが私。悪役令嬢で、狂人。それが、皆が私に求めるキャラクターなら、死ぬまで貫くだけですよ!!」


 笑う。笑いながら、いう。


「――泣きながら、いうことじゃない。辛いなら、止めれば良い」


 泣いて、いる。

 私が。

 あれ。私は、なんで泣いてるのか?

 辛いから? なんで辛いの。分からない。

 分からない。――シリタクナイ

 分かりたくない。――シルヒツヨウナシ

 私は、私は、悪役令嬢。頸斬姫。狂人。

 泣くのは弱さの証明。

 笑え。笑え。泣くな。泣くな。

 死にたくなければ、弱さを見せず、笑い、畏怖されろ。

 それが! それが!! それが!!!


「また自己催眠を――。例え今は乗り切っても、裡に爆弾として貯まる、――――来たね」


 頭が激しく痛む中で、アルトファムルは私から視線を外して、上を見た。

 私も振り返ると、そこにはご先祖様がいた。


「ご、先祖、さま。私を連れ戻しに来たのですか」


「自惚れるな。なぜ儂が、お前を連れ戻す必要がある」


「え。私、第二王子を殺して……」


「王族殺しなど、儂は両の手で数えきれぬほどしているぞ」


 それは、それで、どうかと?


「――そ、それに、ご先祖様は私に魔法の継承をさせるつもりでしたよね!」


「うむ。だが、継承は距離は関係ない。貴様が一定の条件を満たせば、継承は成る。――儂も視ていたが、お前は帝国に行った方が、儂の目的も叶いそうだ」


 悪い、凄く悪巧みをしている顔ですよご先祖様。

 ああ――帝国以外に行きたいけど、隣接する国で王国と敵対している国は帝国しかないからなぁ。

 下手に友好国に行くと送り返される可能性が高い。

 他国のいざこざを自国に持ち込みたいと思う人はそうそう居ない。

 って、そもそも、魔法の継承条件ってなんでしょうか?

 是非にも教えて欲しい。絶対にそれをしないようにしますから!

 ――アルトファムルから、妙な気配を察した。


「世代が離れているとは言っても、血の繋がりがあるからかな。さっきまでの精神の不安定さがなくなった……? 湧き上がるこの感情は、ああ、嫉妬だ。久しぶりに、この感情を感じることが出来た。ああ、実に――実に不愉快だ」


 アルトファムルはご先祖様を睨む。

 すると私の周りを包むように風を包み込んだ。


「アルトファムル?」


「僕の「風」魔法による高速移動だよ。夜明け過ぎには、無事に帝国領に辿り着ける。――本当は色々と話したいけど、少し、用事ができちゃってね」


 殺気を放つ。その先にいるのは――ご先祖様。

 それを受けたご先祖様は楽しそうに笑う。

 ご先祖様がまともに闘える相手がいるとすれば、それは同じ魔法使いだけ。

 その存在から、殺気を向けられたなら、もう闘うしかない。

 これだから戦闘狂は。私が言うのもなんですが、ラブ&ピースの精神を持つべきだと思います。


「アルトファムル。――色々と言いたいことはありますが、手助けしてくれること。感謝します」


「キミには是非にも生きて欲しいからね。魔法で帝都領まで送るなんて手間でもなんでもないさ。さぁ、早く行った方がいい。巻き込まれるぞ」


 地面が大きく揺れると、ご先祖様の左右に、全長200メートルは超えている人の形をした巨像が顕れた。それぞれ、土と木で出来ているようだ。

 アルトファムルの周辺に13個の魔方陣を出現させる。そこから顕れたドラゴンだった。

 西洋風のトカゲのような龍ではなく、東洋風の蛇を連想させる竜である。

 魔方陣から顕れた「火」「水」「風」「土」「炎」「氷」「嵐」「地」「木」「雷」「熔」「闇」「光」の13属性の竜達は、雄叫びをあげながら、ご先祖様が作りだした巨人へと向かっていく。

 ……もうこの時点で人外魔境ですよ。

 アルトファムルの言ったとおり、ここに居たら巻き込まれそうだ。

 私は慌てて帝都領へ向かった。








 ……酔う。

 早すぎて酔う。ううん、酔った。

 確かにこのスピードなら、明け方過ぎまでには着く。着くだろうけど、速すぎっ。

 いやね、風圧は魔法のおかけで限りなくゼロ。こういう所に気を遣ってくれる所は素敵だと思う。ご先祖様なら、自力でさせるんだろうなぁ。

 もしかして魔法使いの中では、まともな部類に入るんじゃないかな……。


 眼下に帝国領、帝国軍最前線基地がある。

 高度はアルトファムルにより、私の最大高度よりも遙かに高い位置にいる。

 たぶん魔法使いじゃないと来られない高さだと思う。


 私は一気に降下する。

 ゆっくり降りていって、銃撃された洒落にならない。

 あ、スピード出しすぎた。銃撃回避する為とは言え、この高度から、このスピードで降下したら肉片になりそう。

 アルトファムルが与えてくれた風の繭みたいなものは、落下途中で消えた。

 ……もう少し持って欲しかった!!


 私は「オーバーロード」を発動させて、「アルヴァストSS2」にチャージ。

 勢いを殺すため、地面に向けて撃つ。チャージを発射を数回繰り返す。

 魔弾により地面は削れ土埃が立つ。

 土埃が立つ場所を回避。

 地面にゆっくりと降り立つ。

 ふぅ、死ぬかと思った。


「く、頸斬姫。頸斬姫が、襲撃して来た!!」


「防衛部隊はなにをしてたの!」


「応援を至急呼んでこい!」


 パーティー会場で第二王子の頸を刎ねたときと比べ物にならないほどに騒がしい。

 瞬く間に私を中心に円陣が組まれ、無数の銃口が私に狙いを付ける。

 これ、一斉射撃されたら、たぶん、私は死ぬ。

 即座に射撃されないのは、私の格好が格好だからかな。

 軍服ではなく、高級ドレスを着ている状態じゃ、流石に不思議で撃てないよね。


「――頸斬姫。そのような姿で、帝国領になにをしに来た」


 軍服の左胸辺りに幾つもの勲章がつけられている。

 きっと帝国軍でも偉い人なんだろう――。

 私は「アルヴァストSS2」を地面に投げる。

 そして腰の所に適当な袋で包んでいた第二王子の頸を両手に持ち、帝国軍の偉い人によく分かるように、そして好印象を与えるために、私が今できるとびっきりの笑顔で言った。



「『頸斬姫』アデル・シュペイン。亡命をするためにやってきました。偽の投降でない証明として、婚約者であったノイド・ワウル・デッシェル第二王子の頸を刎ねてきました!!」



これにて第1部・王国編は完結です。


次話から、主人公であるアデルは登場しませんが、アデルが帝国に亡命した後の、周辺のキャラたちの様子を書いた「1.5部・混迷編(6話程度)」で、一区切りをつけようと考えています


ここまで読んでいただきありがとうごさいました。

感想・評価等いただけるととても励みになります。

どうか宜しくお願いします

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