16話 悪役令嬢と断罪イベント・中編
パーティー会場には数百人はいた。
国王主催のパーティーにしては多いのか少ないのかは分からない。
……今って一応戦時中。
最前線では兵士はこの国の為に戦って死んで行っているというのに、後方では無駄に金をかけた豪華絢爛な夜会を開催。
ご先祖様がいる以上、亡国の心配をあまりしてないかもしれないけど、それは大きな間違い。実際に、ご先祖様が所属していた国は二回ほど滅びている。
曰く「儂の力で生き存えようとする国ならば寿命よ。滅びるにして滅びる定めだ」とのこと。
滅びる定めとやらが来るまでに、戦争をする前線にいる人的資源は、消費の一途を辿っているわけですが……。
ただ、そんな事は一兵卒である少尉の私にはほぼ関係ない。
どうするかは、頭の良い政治家が決めれば良いこと。
私は言われたことを、可能な限りするだけだ。
周りを見回すと、基本、誰かしらと話している人たちばかりだ。
こういった場は繋がりを作ったりする場として最適なんだろうね。
本来なら公爵家令嬢として、繋がりを作るために話しかけるべきなんだろうけど……。
「……」
私が近寄るとそそくさと逃げられ、視線を向けると逸らされる。
で、私は見事にぼっちになりましたとさ。おしまい。
後出来る事は、王家自慢のシェフが作った料理を食べるぐらいしかないよね
アルコールは――止めておこう。
万が一があった際に、酩酊して射線軸がズレたなんて冗談にもならない。
果実酒とソーダで我慢しよう。
……周りが楽しそうに飲んでいるのを見ると、飲みたくなるのが人の心理だけど、ここは我慢我慢。
…………一口ぐらいなら、いいかな。良いよね。
ボーイがお盆に乗せているアルコールを適当に取り、口に運ぼうとしたした時、
「見つけたぞ、アデル・シュペイン!!」
大声で呼ばれ、手が止まった。
私を呼んだ相手の方を振り向くと、そこにいたのはノイド・ワウル・デッシェル第二王子。
更にその横には甲斐甲斐しく腕を組んでいる妹。アリサ・シュペイン。
その後ろには、ノイド様の三友と言われるアーノルド様。ファクト様。ギルガス様がいた。
……うわぁ、この人たちの記憶は五年前のしかないけど、本当、ゲームの立ち絵と同じ姿に成長している。
私はアルコールが入ったグラスをテーブルに置き、スカートを掴むと、少しだけ上げて頭を下げた。
「お久しぶりです。ノイド様」
「ああ、久しぶりだな」
声はどこか苛々していて、幾ら私がコミュ障だからと言っても機嫌が悪いことは直ぐに分かった。
「――それで、五年ほど手紙1つも寄越さなかった婚約者の私になにかご用でしょうか?」
「用はある。で、なければ、お前のような女に誰が話しかけるか!」
ほう。……私のような、女、ですか?
「アデル・シュペイン! 俺は第二王子としてここに宣言する!! 今日、この場限りで、貴様との婚約を直ちに破棄とする!!!」
大声を出して宣言するノイド様。
……クロエ様。どうやら貴女の説得は無駄だったようです。
それを耳にしたパーティー参加者は、蜂の巣を突いたように騒がしくなる。
――予想していたから、それほどショックはないなぁ。
全くなくはないけど、まぁ、うん、問題無い。
一応、理由は聞いておこうかな。
「……ノイド様。理由をお聞かせ願いしますか?」
「理由だと。貴様の両の手が血に汚れて過ぎているからだ! この狂人め。頸を刎ね悦ぶような者は俺の婚約者に相応しくないッ」
「それは、ノイド様に相応しい婚約者は、横で腕を組んで甲斐甲斐しくしている愚妹という事で宜しいでしょうか」
「愚妹だと。貴様、アリサの事を愚妹と罵ったか!」
「事実を言ったまでですよ」
「ふざけるなっ。アリサほど賢い女性は、他にいないわ。愚かというのなら、それはお前のことだっ、『頸斬姫』!」
ノイド様の言葉に、後ろにいる三友は同意するように頷いた。
「それに貴様は、アリサと俺が懇意にしている間柄と知り、アリサを亡き者にしようとしたなっ」
「は?」
「貴様の名前を叫びながら来る者達にアリサは何度も襲撃され、更に人為的な事故も何回も遭ってるんだぞ」
「……それが、私の仕業だと。残念ですが、私は最前線で、ノイド様がいうように? 「頸を刎ねて悦んで」いたので、愚妹に関してどうこうする時間も、思考の一部を割く時間すら勿体ない環境にいたので、私の仕業ではありません。第一に、人の婚約者と乳繰り合って寝取るような妹になにかする暇なんてあれば、敵将兵を斃します」
「――ひどい。私は、みんなの事を本当に愛してるのに。ち、乳繰り合って、ね、寝取るだなんて。そんな、こと――」
「アリサ……」
目に涙をためてノイド様の胸元で泣くアリサ。
――あれ嘘泣きじゃん。こんな簡単な嘘泣きに騙され……てますね。
はい。ノイド様と後ろにいる三友は、アリサを可哀想な目で見ている。
「貴様――よくもアリサを泣かしたな。もう、我慢できん!
第二王子、ノイド・ワウル・デッシェルの名の下に命じる。
――アデル・シュペイン! 貴様に即刻国外追放を命じる。今すぐに国外に出て行け!! 狂人『頸斬姫』!
戦場の功績で断頭台送りは勘弁してやるだけでも、ありがたいと思え!
『頸斬姫』が断頭台に送られる様をみたかったがな!
最後に、狂人『頸斬姫』。アリサに謝れ!
どうせ貴様も戦場では、男共と愉しんでいたのだろう。
両の手で数多の人を殺し頸を刎ねて悦び、男共と愉しむような淫乱の存在など、この国に必要なし。俺の、俺たちの前から即刻消えていなくなれ」
――プツッリ
この時、アデルだけが、ナニカが、キレル、音を聞いた
一方は、何の功績もなくただ第二王子という立場だけの存在。
一方は、「頸斬姫」と謂れ、多大な功績があり、国民にも英雄として認識されている婚約者。
周囲からの色々と言われ、劣等感・屈辱感などを感じ取っていた所に、アリサが現れ、優しさに溺れていき、今回の婚約破棄へと至りました。
因みに
アリサを襲ったのはカルト教団(アデルに対する報復として)。
事故に見せかけて葬り去ろうとしたのはクロエ第一王女。
まぁ両方ともアデルが遠因になっているので、ノイドの指摘はあながち間違いじゃ無かったりします。




