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15話 悪役令嬢と断罪イベント・前編


 事前準備は完璧だ。

 王国軍最新型アサルトライフル「アルヴァストSS2」

 メンテナンスと何回か試撃して、この銃の癖は大凡掴んだ。

 「ツァプル二型改」に装備していた銃身先の短剣も取り付けている。

 ドレスで分からないけど、左右の太ももには、水に血を流し込み、魔力を浸透させたマナ・ポーションが五個。両方で十個ある。

 1個でだいたい二割ほど魔力を回復することが出来るから、1つのベルトに付き、魔力十割回復する事が出来た。

 これで「オーバーロード」は最大三回は使用できるけど、肉体面の疲労感までは拭い去ることはできないのが欠点。

 後は、右手には伸縮式のダガー、左手には隠し小型ピストルも装備した。

 小型ピストルの方はギミック優先のため一発放ったら壊れる使用なんですけどね。まぁないよりはマシです。


 これぐらいの重装備で何処に行くかって?

 王城で行われる国王陛下主催のパーティーですが、なにか?


 クロエ様本人がドレスを見立てたり、化粧をしたかったようだけど、王族だからね。国王主催のパーティーでどうしても抜けることが出来なかったようで、代わりに専属メイドのイシェルさんが来てやってくれた。

 別に私としては、マリーネ様でも良かったのだけど、クロエ様がなぜか譲らなかった。

 まぁ、さすが第一王女専属だけあって凄く優秀な方だ。

 「悪役令嬢」である私は美少女な訳だけど、素材を十二全引き出している。

 前世を含めて、ここまできちんとした化粧は初めてかも知れない。


「その令嬢、止まれ!」


 ?

 どうやら国王主催のパーティーで、王都守護騎士隊に呼び止められる令嬢がいるなんて。

 よほどな格好か、変な行動をとっているんだろうなぁ。

 私には関係ないのでパーティー会場へと急ぐ。


「止まれと言っているだろう!」


 肩を突然掴まれた。

 右手のボタンを押し伸縮式のダガーが伸びる。

 私は躰を捻るように回転させ、ダガーを背後から突然肩を掴んできた人物の頸へと奔らせる。

 肩を掴んできたのは、王都守護騎士隊の隊員のようだった。

 ヤバイと思いはしたけどさ。躰を捻り回転させ、勢いを付けてるんだから急には止まれない。

 頸に近づき、刎ねる寸前にダガーは止まった。

 勿論、私の意思で止めた訳じゃない。そもそも止められないし。

 王都守護騎士隊隊員の頸を刎ねようとした腕を掴まれ、無理矢理、止められた。

 あの一瞬で間合いに入ってきて止めるなんて……。

 一体誰かと思い、掴んでいる人物の顔を見た。


「英雄令嬢。国王陛下主催パーティー直前で刃傷沙汰は止めていただけるかな」


「――アレックス様」


 アレックス・ロードスター。

 乙女ゲーム攻略対象者の1人であるアーノルドの父親で、王都守護騎士隊隊長でもある。

 ゲームでは師匠ポジションで、難易度を選択して、その難易度で勝つと様々な剣術や武術のスキルを得ることが出来た。

 イベントで一回だけパーティーに加わり操作できるのだけど、うん、チョー強い。

 王国では魔法使いのご先祖様に次いで強いと感じるほど強い。

 スキル使用した場合、モンスターに与えるダメージがカンストとかおかしくない?

 この人なら、私の間合いに入ってきて、腕を掴むことが出来ても不思議じゃない。


「――申し訳ありません。後ろから突然男性の方に肩を掴まれたので、思わず自衛をするところでした。止めていただきありがとうございます」


「部下の、令嬢に対するマナー教育不足だったようだ、こちらこそ申し訳ない」


 お互いに謝る。

 言葉が通じ合うって、本当に素晴らしいと思う。

 帝国といい、カルトといい、言葉は常に一方通行。話し合いできる余地はほぼない。

 私が頸を刎ねようとした隊員の方は、状況を把握できたのか、震えだして尻餅をつく。

 まぁ、それよりも気になる事がある。


「あの。先ほどの英雄令嬢とは、なんでしょうか?」


「前線ではどうか知りませが、後方では貴女はそう呼ばれていますよ」


 プロパガンダぁぁぁああ!!

 王都に帰還して、とりあえず止めて貰えるように頼み込んだけど無理だった。

 なんか四年ほど前に出来た新興組織が、私を猛プッシュして虚実を織り交ぜつつ英雄譚を広げていき、今では止めることができないほど広がっているらしい。

 確か新興組織の名前は「アルカディア」

 理想郷と名付けられた名前の組織のトップは、かなり優秀らしい。姿はほぼ現さないけど、カリスマ性に優れた才女という噂。

 その才能を他に向けて欲しかったよ。


「ところで、その銃は……?」


「ああ。「アルヴァストSS2」です。銃のコンペで負けた作品ですけど、とても良い銃器ですよ」


「――銃の名称を聞いているのでは無く、なぜパーティー会場に持ち込むかと」


「?」


 意味が分からない。

 なんでそんな質問が来るんだろう。

 ……。周りを見てみる。

 パーティーに参加する令息令嬢は、なぜか銃の1つも持っていない。

 王都は知らない内に、だいぶ平和ボケが蔓延しているみたいだね。


「護身の為ですよ。アレックス様」


「王都は我々が護っています。そのような物は必要有りません」


「お言葉ですがアレックス様。私は帝都へ来る道中。味方だと思っていたアストロス大尉に裏切りに遭いました。カルトの残党が何処に潜んでいるか分からない状況では、とてもではないですが、銃を手放す気にはなれません」


「……しかし、国王主催のパーティーです。銃器の持ち込みは」


「それにです。私はご先祖……ではなくて、元帥閣下から「常在戦場の心構えでいろ」と言われています。もしパーティーという事で、銃を手放して現を抜かしていては、私が元帥閣下からお叱りを受けてしまいます」


 国王陛下は元帥であるご先祖様に逆らえない。

 年上であるのは当然だが、師匠であり、先生でもある。

 だから、ご先祖様の横暴な振る舞いもほぼ赦されているのが今の状況だ。

 そもそも魔法使いであるご先祖様の機嫌を損ねて、国外に出られたら、王国は数年以内に滅びるんじゃないかな。

 この国が長年あるのは、ご先祖様という抑止力がある事が大きい。

 元帥閣下という言葉を聞いて、忌々しそうな表情を一瞬覗かせたアレックス様。

 どうやらゲームと同じく犬猿の仲のようですね。

 真面目で常識的な人とは、ご先祖様とは合わないでしょう。

 私もそうですし。


「――分かり、ました。どうぞ」


「ええ。失礼します」


 私は笑顔で応えると、アレックス様に背を向けた。

 ……笑顔を向けられた際に、一歩足を後ろに下がらせたような?

 熟練の隊長がまさかね。

 私は、呼び止められた時間ロスを補うため、少し早歩きで会場へと向かった。





第一王女「組織の名前だけど、「アデルお姉様と私が幸せに暮らせる理想郷創世の会」ってどうかしら!」


メイドさん「……少しだけ長いので、「理想郷」でいいと思いますよ。きっとアデル様も、そちらの方が良いというと思います。ええ、確実に」


アデル・シュペインのプロパガンダを一手に引き受ける新興組織の名前は、こうして無事「アルカディア」となったのでした。



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