13話 悪役令嬢と第一王女Ⅱ
現国王の子供は全員で3人。
長男。オージナル・ルン・デッシュル。第一王子
外見などは普通に美男子。性格も王族としては普通。能力は並より上。
年齢は30歳手前だったかな。
ゲームでは、あまり登場しなかったので、記憶に残ってない。
この世界でも、子供の頃にたぶん会ってるんだろうけど――。覚えてないなぁ。
次男。ノイド・ワウル・デッシェル第二王子
私の婚約者。ゲームではヒロインの正史ルートの攻略キャラ。
第一王子のオージナル様よりは能力も高く、外見はイケメンだ。
そのため政争で推す勢力が一定以上いて、そのため性格が傲慢と成っていた所に、ヒロインが現れて、性格を矯正して、兄を支えると言った形になるんだけど――。
私を遠ざけるために最前線に送る私の妹であるアリサが、果たしてそういう形に持って行くかは疑問しか残らない。
因みに私より2歳年上で、今は17歳のハズ。
長女。クロエ・シノウ・デッシェル第一王女。
私より1歳年下の王女様。
ゲームでは私を敵視して、ヒロインと友誼を深めて、断罪イベントに協力していた。
同性から見ても、とても可愛らしく、私にはそちらの毛はないのだけど、少しまぁ欲情してしまうぐらいには可愛らしい。
能力はとても優秀で、オージナル様、ノイド様を上回る。
才気を隠すことなく存分に発揮していれば、ゲームの後半に起きるイベントの半数以上は解決していたと、設定資料中に書かれていた。
で、その優秀なクロエ様に頭を下げられて謝られている状況。
――うん。意味が分からない。
「あの、クロエ様。顔を上げて下さい。何があったのですか?」
「――私の愚兄のことです」
「……ノイド様がどうかしましたか」
「アデルお姉様という婚約者がいながら、浮気をしています。それも、お姉様の妹であるアリサとです!!」
「ああ、そうみたいですね。最前線にも、聞こえてきてますよ」
最前線という娯楽が少ない場所だと、人の恋路というのは、大変な娯楽らしい。
わざわざノイド様とアリサが付き合っているという事を教えてきてくれた親切な人たちがいた。
私が最前線にいる内に、アリサが攻略対象者を攻略していくのは、想定内のことだったし、そもそも私はノイド様は全く好みじゃないので、特に何の感情も沸かなかった。
とはいえ、折角、気を利かせて教えに来てくれたのだから、笑顔でお礼を言うと、固まり同僚達から「余計なことを言うな」とか「頸を斬られたいのか」とか「仲間の死体処理をする身にもなれ」とか言われて折檻を受け、その後謝りに来られた。
……私が最前線で学んだことは、どうやら私はコミュ障ということ。
まぁ毎日が殺すか殺されるかの日常。コミュ障を治す機会は中々無かったのだけど。
「――ノイド様も年頃です。人間には、三大欲求……食欲・睡眠欲・性欲があると言われています。私なんかよりも、可愛らしい妹に行くのは、男性として当然でしょう」
「殿方はそういうものだと、分かります。分かりますが……。でも、でもですね!!」
クロエ様は机を両の手で思いっきり叩き立ち上がる。
「流石に、肉体関係は行き過ぎだと思いますっ」
「――」
まだ断罪イベントもしてなくて、私と一応は婚約者であるノイド様と寝たのかアリサ。
いや、流石に手が早いんじゃないかな。
「しかも。しかもですね。アリサは、愚兄だけじゃ無くて、愚兄の三友と言われている、王都守護騎士隊隊長の息子であるアーノルド様。参謀本部参謀長の息子であるファクト様。魔術研究所特別室長の息子であるギルガス様。その三名とも、寝ていることが分かっています!」
「――」
お。おう。
ゲームの攻略対象者。全員の寝たんだぁ。ゲームに無かったハーレムルートでも目指すつもりかもしれないけど……。
「それにしてもクロエ様。よく、妹の性事情をご存じですね?」
「元帥閣下のように魔術で見ることは私程度の実力では叶いませんが、ちょっとした独自の諜報機関ぐらいは持ってますから、国の貴族達の裏事情程度でしたら大方把握しています」
天使のような笑顔で凄いことを言っているよ、この王女様。
……私、この方には絶対に逆らわないようにしよう。
どうやらご先祖様の次ぐらいに厄介極まりない人物のようだ。
私の名前は、クロエ・シノウ・デッシェル。
デッシェル王国の第一王女として生を受けました。
今、私はこの世で、最も憧れていて、最も親愛を寄せるアデルお姉様と一緒の空間に居ます。
ああ、なんて充実した時間なのでしょう。
話題が愚兄の事や、あの色魔のことでなければ、もっと良かったのですが。
ああ、本当に苛つきます。あんな色魔が、アデルお姉様の妹なんて。
アリサ・シュペインが大嫌いです。
顔も見たくないし、同じ空気も吸いたくないし、息を吸っている所を見るのも憎々しい。
アレは大罪を犯しています。
アデルお姉様を最前線に向かわせ、私から引き離したことです。
五年前は、私はまだ10歳にも満たない、何の力も無い無力な存在。
もし、もしも力があれば、断固として阻止してましたッ。
親愛なるアデルお姉様に遭えない日々は地獄でしかなかったです。
でも、ただ後悔ばかりしていては、次の時に、また後悔しか出来ない。
そんなのはイヤで、私は独自の諜報機関や組織を作り、将来アデルお姉様の手助けをするために色々と動いた。
その諜報機関は、私が思っていたよりも優秀でした。
最前線にいるアデルお姉様の事も、良く耳に入ってきました。……アデルお姉様に対する強姦未遂のことも。勿論。
少し調べてみたら、背後にノイドお兄様がいる事が分かりました。
どうやら他人にアデルお姉様を襲わせ処女を奪わせ、それを理由に婚約破棄を迫る考えだったようです。
それを知った時は、私はあの愚兄を殺そうと本気で考えましたとも。
でも、殺せなかった。
だって殺したら――アデルお姉様との繋がりが無くなってしまう。
あくまで婚約者の段階。正式に結婚していれば、まだしも、婚約者という薄い繋がり。
殺したくて殺したくてたまらない愚兄を、生きながらせておく唯一の理由。
……結婚さえしてくれれば用無しなので、適当に不幸な事故死でもするんでしょうね。きっと天罰です。
アリサの方はさっさと不幸な事故に遭うと思ってたのですが、運良く全て回避しました。
――流石、アデルお姉様の妹だと、この時ばかり感心しましたね。
不幸な事故に遭うことが出来ないなら、他の手段として使うだけ。
愚兄の弱みとして精々その存在を使わせて貰う事にしました。
言葉巧みに愚兄を踊らせ、愚兄からお父様にに進言させ、アデルお姉様を王都に来させる計画はほぼ完璧でした。
とはいえ、まさか王都に向かわれる途中で、アデルお姉様が滅ぼしたカルト残党が襲ってくるとは予想外でしたけど。
まさか軍内に潜んでいるとは。まぁ元帥閣下が数百年相手して、完全には滅ぼせない集団なので、仕方ないことでしょう。
兎に角。
後、数日後に行われるパーティーで、愚兄に今までの事を謝らせて、早期に結婚させるだけ。もう戦場には戻らせません。
ずっとずっとずっーーーと、私と一緒に過ごしましょう、アデルお姉様♪
私は人よりも優秀だと自覚があります。
オージナルお兄様や、お父様は私の事を「天才」だと認めてます。
元帥閣下からも「近年ではマシな才であるな」と言われました。
でも、それが駄目でした。
才能による慢心。バカな兄を手の上で踊らせていたという勝手な驕り。アデルお姉様と一緒という幸福感。
それが私の思考を鈍らせてたようです。
まさか、まさか、手の上で踊っていると思っていた愚兄が、あんな行動を取るなんて――。
全て、全ては、私が、私が、悪いんです……。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
アデルお姉様……。
こんな、こんな結末になるハズじゃ、なかったんです――――




