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11話 悪役令嬢は、(羞恥心で)殺される

 目を覚ました。

 まだ僅かに躰には気怠い感じが残り、魔力も完全回復とはいえないけど、普通程度には動かせる事が出来る。

 周りを見てみると、そこは野原だった。

 数百メートル先に見えるのは、……もしかして王都?。


「ようやく目が覚めたか」


「……おはようございます、ご先祖様。私はどれぐらい寝てました?」


「大凡で三十六時間といったところだ。あの程度でそれほど意識を失うとは未熟者め」


 魔法使いのご先祖様で物事を測るのは止めて下さい。

 私はそこそこの魔術師なんですよ。あの程度が、私の限界値です。

 そうご先祖様に言ったところで、厭味の1つ2つほど返されるのがオチ。

 それよりも気になる事がある。


「なんで、私、野原に寝かされてるのです。どうせならご先祖様の家で寝かせて下さいよ」


「家に連れて帰れば、マリーネからダンスの特訓などで家からは出ることが出来なくなる。その前に、見せておこうと思ってな」


「何をですか?」


「見れば分かる」


 私の経験則によれば、禄なことではない事は確か。

 やだなぁ。

 まぁ、王都だから生死に関わる出来事はないと思う。……たぶん。


 ご先祖様から王都に入る直前にフードを渡され被ることになった。

 なんでフードを被らないと駄目か分からないけど、まぁ、言われるままに被った。

 勿論、王都の城門で止められた。まぁ、フードを被っている人物を素通りさせるザル警備じゃなかって安心した。

 尚、ご先祖様が「儂のツレを検めるつもりか?」と一睨みしたら素通りできました。

 ……門番の人。うちのご先祖様が横暴でごめんなさい。

 私は心の中で謝った。


 王都は五年前と変わらず賑やかだった。

 帝国と戦争しているというのに……。

 まぁ、賑やかなのは良いことだよね。こういう平和を守っていると考えれば、前線の兵士として誇らしい。

 子供達も楽しそうに遊んでいる。


「私の名前は「頸斬姫」アデル。王国の英雄だ!」


「うわぁー」


「頸を取られる!」


 ???

 な、に、あれ?

 思わず転んでしまった。

 女の子が木で出来た銃のオモチャを振り回しながら、私の名前を言って、男の子たちを追いかけている。


「ご先祖様。これ、は?」


「王国のプロパガンダの影響だ。お前、王都内では大人気だぞ」


「今すぐ止めて下さい! 恥ずかしいじゃないですかっ!!」


「――やはり、お前の感覚的には恥ずかしいのか。軍人としては誉れだと思うが」


「冗談じゃないです! アレが子供達じゃなければ、私の鋼の自制心で抑えてなければ魔術をぶっ放してましたよ!!」


「……子供達じゃなければ、か」


 ご主人様が視線を向けた先には、看板があった。

 【連日満員御礼『頸斬姫』アデル・シュペイン英雄譚 第四弾 王立劇場で近日再公開予定】

 ……目を擦る。目を開ける。

 ??

 おかしい。消えない。――なんて、高度な幻術。

 いや、止めよう。これは現実だ。受け入れよう。受け入れる。

 とりあえず、王立劇場を今から破壊しに行こう。

 意を決して立ち上がり、王立劇場で向かおうとすると、地面から生えた根子に足を取られて、また転んでしまった。

 というかですね。この根子から、魔力が吸い取られてるんですが!


「ご先祖様!」


「……マリーネが家で待ってる」


「少し、少しでいいんです。ちょっと劇場を爆破してくるだけなんで、解放して下さい」


「王都で破壊する行為を容認できるか、たわけめ」


「このままだと私が羞恥心で死にます!」


「心配するな。お前の物語は、色々と着色されて、王国中の娯楽として流行っている」


 ――は。

 ご先祖様は、なんて、言った?

 王国中の、娯楽として、流行っている?

 ……もう、私の居場所は、最前線しかないのかもしれない。

 所詮、私の両の手は赤い血に染まっている。

 そんな私が、国王主催のパーティーに出るのは駄目だろう。

 今すぐに最前線に戻ろう。下手にパーティーで、英雄として祭り上げられるなんてたまったものじゃない。

 意を決して起き上がり、ご先祖様と反対方向の、城門へと向かうことを決した。

 同時に全体に蔦が絡まってきて前へ進むことが出来ない!


「ご先祖様っ。後生です。見逃して下さい!!」


「阿呆。子供みたいに駄々を捏ねるな」


 ズリズリと引きずられていく。

 抵抗しようにも、ご主人様の腕から伸びている蔦で魔力を吸われているので、満足に反抗も出来ない。

 周りから奇異な視線を受ける。でも、そんな事を気にしている余裕が今はなかった。

 カルトを潰して、最前線で頑張った代償がコレ!?

 最悪の一言。

 王国もプロパガンダするなら、他の人にしてよ。なんで、私をするの!

 私はちょっと帝国軍のネームド級を10ぐらい頸を刎ねた程度の戦績しかないのにっ。

 もうやだぁ。まだ悪役令嬢してた方が何倍もマシ。

 私はフードを深く被り、絶対に誰にも気づかれないようにした。


 ご先祖様は私を解放すると逃げ出すと思っているのか、自宅に着くまで蔦から解放してくれなかった。

 解放されたら、限界まで「オーバーロード」して逃げ出す自信はありましたが?

 ああ、でも、魔力が吸われて、本来の性能は出せないか。

 くそっ。ご先祖様め。そこまで読んでたか!


 ご先祖様の家は、巨大な樹(高さは東○スカ○ツリ○ぐらい)で出来ている。

 これはご先祖様が魔法で造りだした物で、防御力などは王城よりも堅牢だ。

 非常識の塊であるご先祖様が、ここまでしているのは愛妻家で、家族には危害が加えられないようにするためである。

 因みに、家族とは、あくまで自身の妻とその周りだけで、子孫の私達には含まれてない。

 曰く「儂の偉功に頼る程度の家に墜ちるなら潰れてしまえ」らしい。

 巨大な門が開き、ご先祖様の敷地内に入る。

 ……昔、何度か来たけど、ここの雰囲気はなれないなぁ

 なんかご先祖様の手の内(物理的)にいる気がして安らげない。


「お帰りなさい貴方」


「ああ、帰った」


 出迎えたのは優しげな微笑みをしてきた三十路後半ほどの女性。

 マリーネ・シュペイン。

 当代のご先祖様の奥さんである。

 私を蔦からご先祖様はマリーネ様に抱き寄せると、キスをした。

 ――子孫の前でイチャコラはやめてくれませんかねぇ!


「儂は用事がある。コレを頼むぞ」


「はい貴方。気をつけて」


「うむ」


 ご先祖様は頷くと、地面の中に消えていった。

 地の魔術を使った高速移動。移動心地は最悪である。


「さて、アデルさん。まずは、躰を洗うことからしましょうか。戦場でまともに出来てないでしょう」


「え」


 マリーネ様はにっこりと笑うと、メイド達を招集し、私を浴室へと強制連行していった。



 ……そして私は、

 数名のメイド達によって身体中の至る所を洗われ、ムダ毛も剃られ、大事なところまでやられた。

 うわぁぁん、もう羞恥心で死ぬ! ってか死んだ。

 いっそ私を殺してよ!!




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