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10話 悪役令嬢と集合咒殺魔術ーレギオンー


「久しぶりに見たな」


「流石、長く生きてるだけありますね! アレを何かご存じで?」


「……「闇」の魔術の1つ。集合咒殺魔術ーレギオンーだ」


 この世界には六大元素(下位「火」「水」「風」「土」。上位「闇」「光」)の魔法がある。

 属性を組み合わせ新しい属性があったり、属性の内から派生する属性もある。

 例えばご先祖様が良く使用する「木」は中位に当たり、「水」と「土」の組み合わせだ。

 他にも中位「雷」は「風」と「火」。中位「熔」は「火」「土」などがある。

 組み合わせる以外にも属性を極めれば、「火」は中位「炎」。「水」は中位「氷」。「風」は中位「嵐」。「土」は中位「地」。

 纏めると、

 基礎は六大元素の『下位「火」「水」「風」「土」。上位「闇」「光」』

 下位属性を発展させたのが『中位「炎」「氷」「嵐」「地」「木」「雷」「熔」など』である。

 ご先祖様は全てをオールSで使用でき、更に「水」と「土」と類する属性は全てEX(桁外れ)で使用可能というチート。

 こんなのに銃を向けたアストロス大尉は、自殺志望者としかいいようがないね。


 閑話休題。


 ご先祖様の説明によれば、アレは「闇」の魔術で生み出された物らしい。

 集合咒殺魔術ーレギオンー。

 怨みや怒りの集合体。

 全にして一。一にして全。

 対象者を殺すまで、何処までも何処まで追いかける詛い。


「ただし、アレは不完全で発動しているがな」


「不完全、ですか?」


「うむ。アレの真の発動条件は、対象者に殺させる必要がある。500年ほど前のは凄かったぞ。儂に一万人を殺させてから発動させたのだからな。今回のレギオンは、半分程度は殺されているようだが、残り半分は自害によって成っている」


「自害?」


「童とツレが死んだ事で、事が露見したと思ったのだろうよ。残りは自害する事で、強制魔術式を発動して生み出したようだ。が、教団もそれだとパワー不足だと分からんほどではなかったらしい。お前に殺され、最も強大な力を持つ物をコアとして発動させておる」


「……私が殺した中で、最も強大な力を持つ。もしかして、私が破壊した神像だったりします?」


 ご先祖様は頷いた。

 もう最悪。好き好んで壊したわけじゃ無いのに。

 第一、誰も壊すときに何も言わなかったじゃ無いですか。

 前世が日本人の私は、人を殺す、という作業には当然ながら慣れてなかった。

 だから、ご先祖様に付き従ってするカルト狩りで、割と精神が摩耗していたんだと思う。

 そんな中で、なんか祀られている、憎たらしい偉そうな像を見たら、壊したくなるってのが人間の心理だと思うのですよ。

 ストレス発散を込めて、それはもう、全魔力を使って盛大に壊したました。

 割とスッキリしたところで断末魔を訊いて、ちょっと気分が害されましたけど。

 ――そういえば、神像を破壊してから、人を殺すことに何も思わなくなったような?

 あれ。私は、いつから人を殺しても、平気になったんだっけ。


「おい。何を呆けている。レギオンはお前を狙っているぞ」


「あ、そう、です……ね」


 思考を沼に嵌まりそうな所で、ご先祖様の声で意識を戻された。

 考えるのは止めよう。過去に戻れる訳じゃない以上、それ以上考えても仕方ない。

 ああ、なんか私はおかしい。

 さっさとレギオンを斃して、スッキリしたい。ああ、でも、アレは頸を刎ねても意味がない生物。


「ご先祖様。さっさと斃してしまいましょう。500年前に同じ術式をされた事があって生きてるんですから対処方法は知ってるんですよね」


「当然だ。今回は、儂が対処するが、次からは自身でできるようにせよ」


「はい」


 私が返事をすると同時に、レギオンは私達……いや私を凝視してきた。

 ――ああ、気持ち悪い気持ち悪いキモチワルイ。

 今まで大人しかったのは、ご先祖様の重力魔術で抑え込められていたからのようだ。


「雨?」


 水浴びをしている時は、星空がでているほどだったのに、上を向くと雨雲があった。

 幾ら何でも、この短時間で雨雲が空一面に発生するなんておかしすぎる。

 特にここは山では無く平地。そう簡単には天候は変わらない。

 と、いう事はご先祖様の仕業かな?

 重力で抑えている間に、雨雲を作りだして、雨を降らせた。

 でも、雨に何の意味があるんだろう。


「――■■■ ■、コ、――■■■、ス、スス――」


 雨に打たれるレギオンは呻きながら吠えていた。

 どうやら雨に当てられてダメージを受けているらしい。


「これってただの雨じゃないですよね」


「当然だ。この雨は、儂が神聖魔術を組みこんで降らせている、文字通り神聖な雨である。闇魔術により犯された土地の浄化などに主に使用される」


「それじゃあ、これでレギオンを斃すんですね」


「無理だ。これはあくまで土地などの浄化用である。あのレベルの魔術術気はダメージこそ与えられても、斃しきることは不可能だ」


「え、なら、この雨になんの意味が……」


「阿呆が。何事にも事前準備は必要だ」


 準備?

 神聖な雨に打たれた呻き声を上げながらも、レギオンの赤い無数の視線は私を捕らえたままだ。

 なんだだろう。さっきから視線を向けられると、酷く苛つく。

 ああ、駄目だ駄目だ。

 今はご先祖様のする事をしっかり見ておかないと。

 次、似たような術式をかけられた時に、今回のように運良くご先祖様が側にいるとは限らないのだから。


 レギオンは呻きながら、地面を蹴り、私達の方へと飛んできた。

 速いっ。


「遅いぞ、たわけ」


 雨が止まる。

 それはまるで時間停止したかのような風景だった。

 空中に浮かぶ水滴が、レギオンに一斉に向かっていく。

 水滴はレギオンを全て包み込み余り余るほどに大きな水球となった。


「レギオンは1にして全。全にして1。1つを斃しても意味が無く、斃す場合は全てを同時に斃す必要がある。もし、1つでも残れば、また発生して襲いかかってくる。だからこそ、逃がさないように全体を囲い込み、後は水に神聖魔術を流し込めば終了だ」


 あ、はい。

 私は頷いた。頷いたけど、これってご先祖様じゃないと、とても個人では無理なような?

 まず雨を降らせるのに数名はいるし、それに神聖魔術を加えるとなると、更に数名。

 確実にするというのなら、中級を扱える魔術師が五から七名ほど魔術師は欲しい。

 それに術式が完成するまでに、レギオンを足止めできる前線の兵士が数名は欲しい。

 とりあえず十名ほどいれば、なんとか斃せる、かもしれない。


 水球が輝き始めた。

 中で閉じ込められているレギオンは激しく動き、なんとか抜け出そうとしているけど、これはご先祖様が作りだした水球。

 抜け出すというのなら、魔法使いレベルでないと不可能だろう。

 レギオンの黒い躯が、薄くなっていくと、躯の中に動く物体が目に入った。

 ――ああ、あれだ。アレは神像の一部。コアだ。


「オーバーロード・フルスロットル」


 戦場では使えない。私の奥の手。

 オーバーロードは魔力を120%発揮するのに対して、オーバーロード・フルスロットルは200%……2倍発揮する。

 魔力を未来からの前借り。

 これが終わった後は、私はしばらく魔力が使えない、ただの一般人となる。

 そしてほぼ動けなくなるのだから、デメリットがありすぎて、とても戦場では使用できない。

 今、使用するのは、絶対安全最強存在であるご先祖様が近くにいるからだ。

 アサルトライフルに魔力をチャージする。

 オーバーロード・フルスロットルで得た全魔力をチャージに回したことで、「ツァプル二型改」は軋みをあげ、紫電を奔らせ、崩壊寸前となる。


「■■■■■■■――!!!!!」


 レギオンは断末魔が叫ぶ。

 漆黒の躯が消え球体に残った神像の破片に向けて、私は魔弾を発射した。

 深紅の閃光が、水球を貫き、レギオンの核であった神像の破片を粉砕する。


「ほう、儂の水球を貫き、中の破片を破壊するか。――少しは前線で成長したか」


 ご先祖様が何か呟いている気もしたけど、今は、それを気にしている暇も無く、私は全身が無気力感に襲われ、意識を手放す事しかできなかった。





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