07 サバイバル術
シェイドブレイドはひょんなことから、子供たちと洞窟で暮らすこととなった。
彼らは栄養状態も衛生状態も最悪の状態。
まずは何よりも大切な食料確保に乗り出すことにした。
さっそくテリーをはじめとする、追い剥ぎをしていたイキのいい子供たちを連れ、山中にある渓流へと向かう。
「魚なら何度も獲ろうとしたさ! でも道具ひとつない状態じゃ、1匹も捕まえられなかったんだ!」
「魚を獲るのに道具は必要ない」
「へぇぇ、じゃあ川に入って、素手で獲るってのかよ! おい、聞いたかみんな! ここにいるシェイドブレイドさんは、魚を素手で獲ってみせるんだと!」
「バッカでー!」と笑う手下たち。
彼らはまだシェイドブレイドのことを認めていないのか、妙に反抗的だった。
「よし、それじゃあこうしよう。俺がこれから魚を素手で捕まえてみせるから、お前たちは俺の言うことに従うんだ」
「面白ぇ! やれるもんならやってみろよ! そのかわり、できなかったらこの山から出ていけよ!」
「いいだろう、それじゃあさっそく手伝ってくれ。仕掛けを作る」
「仕掛け?」
シェイドブレイドは子供たちに指示を出す。
まずは川の流れの側面にある岩を一部どかして、溜池をつくらせた。
その間にシェイドブレイドは河原にある平らな石を集め、カンカンと打ち合わせて整形する。
「溜池ができたぞぉ、シェイドブレイド! ってお前、なに遊んでんだよ!?」
「石器を作ってたんだ」
「石器ぃ? どうせロクでも……」と文句を付ける気マンマンで近寄ってきたテリーは、突きつけられた鋭いモノに、思わず腰を抜かしてしまう。
「うわあっ!? そりゃ、ナイフじゃねぇか!? お前、そんなモン持ってやがったのかよ!?」
「違う、石を削って作ったんだ」
「す……すげえっ!? これ本当に、河原で拾った石なのか!? 黒光りする、すげーカッコイイナイフじゃん!?」
「人数分作ってあるから持っていけ」
「い……いいのかっ!? こんなスゲーナイフを……!」
「ああ。これを使って次の作業をしてもらうんだからな」
次の作業は森に分け入って、枝振りのいい太い木の枝を集めてくることだった。
初めての石のナイフに、子供たちは大はしゃぎ。
「すっ、すっげーっ! 本当に石で、木が切れるなんて!」
「しかも切れ味バツグンときてる! いままで苦労しながら細い枝をへし折ってたのに、こんな太い枝でもラクチンだ!」
「このナイフがあれば、もう怖いものナシじゃねぇか!」
子供たちが枝を集めている間に、シェイドブレイドは河原の石をひっくり返していた。
「枝を採ってきたぞぉ、シェイドブレイド! ってお前、また遊んでんのかよ!?」
「エサを獲ってたんだ」
「エサぁ? どうせロクでも……」と文句を付ける気マンマンで近寄ってきたテリーは、突きつけられた柔らかいモノに、またしても思わず腰を抜かしてしまう。
「うわっ!? それ、ミミズじゃねえかっ!? お前、そんなものを食うつもりかよっ!?」
「違う。これで魚をおびき寄せるんだ」
シェイドブレイドは子供たちが採ってきた枝を、川と溜池が繋がっているところに重ねて、溜池を塞いだ。
そして溜池の中にミミズや、枝についていた虫を放り込む。
「これでよし。あとはしばらく待つだけだ」
すると、テリーがすかさず難癖をつけてくる。
「ハアァ!? お前、なに言ってんだよ!? 魚を素手で捕まえる約束はどうなったんだ!? ハハァ~ン、わかったぞ! 大口叩いたけど無理だとわかったから、誤魔化そうとしてるんだな!?」
「そうじゃない。ただちょっと時間が必要なんだ。その間に、キノコでも採るとしよう」
「なにぃ、キノコぉ!? そんな危ないもんが食えるか! この山に来たときに最初に食ったけど、腹を壊して大変だったんだぞ!」
「大丈夫、食べられるキノコとそうじゃないキノコなら、俺なら見分けがつく」
子供たちはしぶしぶキノコ狩りに付き合わされたものの、やり始めたら大はしゃぎ。
「なぁ、シェイドブレイド! このキノコは食えるのか!?」
「それはシメジだな。クセがなくてどんな料理にも使えるキノコだ」
「じゃあこっちの良く似たのもシメジだな!? たくさん生えてるから、今夜はシメジパーティだぜ!」
「いや、そっちのはサクラタケといって有毒のキノコだ。匂いを嗅いでみろ、大根のような匂いがするだろう?」
「ほ……ホントだ! 見た目はソックリなのに、匂いが全然違う!」
両手がいっぱいになるほどにキノコを集めたあと、川へと戻る。
すると……子供たちは驚きのあまり、手にしていたキノコを落としてしまった。
溜池には、なんと……。
無数の魚が、ウヨウヨと泳いでいたのだ……!
「えっ……ええええええええええーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「な、なんで、なんで魚が、こんなちっちちゃい池の中に集まってるんだ!?」
「しかもなんで、逃げようとしないんだ!? 枝の間から入り込んできたということは、出られるはずなのに!?」
子供たちはみな這いつくばって、溜池の中を覗き込んでいる。
それはまるで金魚鉢の中を覗く子猫のように、興味津々であった。
「渓流にいる魚というのは、エサを求めて川の側面に沿って泳ぐものなんだ。そこに溜池を作って、エサを入れておくと、匂いに誘われて入ってくる。枝が返しの役割をしているから、簡単には出られなくなるんだ。これなら、素手でも簡単に捕まえられるだろう?」
「す……すげぇ……!」と顔をあげた子供たちの表情は、感動に満ちあふれている。
「石でナイフを作れるだけじゃなく、キノコまで見分けられて、そのうえ、魚まで……!」
「いままで俺たちはテリーの兄貴に従って行動してたけど……」
「シェイドブレイドの兄貴のほうが、よっぽど頼りになるんじゃ……!?」
「くっ……!」
子供たちはみな輝いた目でシェイドブレイドを見つめていたが、テリーだけは人知れず歯噛みをしていた。
大量の魚とキノコを持ち帰ったシェイドブレイドたちに、洞窟で待っていた子供たちは大喜び。
フィアンヌまでもが久しぶりの笑顔を見せる。
「これで子供たちは、飢え死にせずにすみます……! ああっ、やっぱり、シェイドブレイドさんにお願いしてよかった……!」
その一言がトドメとなった。
「ふ……ふざけんなよっ! ちょっとキノコと魚を取ったくらいでイイ気になりやがって!」
テリーは手にしていた魚とキノコを地面に叩きつけると、挑戦状を叩きつけるように、シェイドブレイドに向かってひとさし指を突きつける。
「お……俺っちのほうがよっぽどスゴイってのを、教えてやらぁ! 待ってろよ、今から魚とキノコなんかより、ずっとすっげーのを獲ってきてやっからよぉ!」
テリーは皆が止めるのを振り切って、山の中に飛び込んでいってしまった。