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前編

「僕の婚約者」のマグノリア視点です。

少し長くなりましたので前・中・後編に分けました。


スタンリー侯爵家の第二子にして長女のマグノリア・ブラン・スタンリーと申します。

そこの方、お暇なら私の婚約者のお話を聞いて行かれませんこと?




私が八才の時に婚約者が決まりました。

お相手は我が国の第二王子。側室であるヴィオラ様を母に持つ十才のカルバン様でした。


この婚約はヴィオラ様が強く希望され、父に何度も打診があったそうです。

すでに王太子殿下は隣国の王女とご婚約されていたので、国内では一番身分も高い私を婚約者に宛てがいたかったのでしょうね。

我がスタンリー侯爵家は優秀な文官を多く輩出しており、父は宰相も務めておりますから後ろ盾も望めますし。

何しろ、王女がいなければ私が婚約者の有力候補でしたから。


カルバン様は明るくて朗らかな方でしたが、少々素直すぎるというか思い込みが激しいところがありましたわ。己の正義感だけで突っ走るのを何度と止めた事でしょう。

それにヴィオラ様の美貌を受け継いだせいか美醜に拘り、自分の基準を下回る者を下に見る傾向がありました。価値観がヴィオラ様と似ているので、こればかりは治る事がなかったのですが、なんとか表情には出さないようにして頂けました。

まぁ、それも完璧ではございませんでしたが。婚約者の私に出来る事などたかが知れていますわね。

私は少々性格も話し方もキツイのですが、それなりに良好な関係を築けていたと思っておりました。

あの女があらわれるまでは。


バルトス子爵令嬢ソフィア!

敬称?つけませんわよ。

礼儀もなければ品も教養もなく、見ているだけで人を苛つかせる存在ですわ!


バルトス子爵が年老いてから出来た子どものせいか甘やかされて我がまま放題だとお聞きした事があります。

親子で並んでる姿は、確かに父と娘というより祖父と孫娘のようでしたわね。

まさか娘可愛さにマナーも貴族としての常識も蔑ろにしているとは思いもしませんでしたけれどね。


暴漢に襲われかけたところを偶然にもカルバン様が助けたのがお二人の出会いだったとか。

三文芝居か売れない恋愛小説の様な出来事ですこと。

その様な出会いを疑いもせずに「運命」などと言う訳の分からない理由をつけて信じるカルバン様にも呆れましたわよ。


そんな偶然がそうそう落ちているものですか!

こちらで調査しただけでも、カルバン様の侍従見習いやバルトス子爵の執事など複数人の怪しい動きを押さえましたわ。


証拠を揃えて父から陛下に奏上しましたのに、若気の至りだとか大目にみろとか親バカな事を仰いますのよ。信じられまして?

父とも話し合い、一年間の期限を設けました。それまでに改善されなければ婚約の解消を認める事に了承も頂きました。

この事は陛下から正妃様や側妃様、王太子殿下にカルバン様にも通達されたはずです。


そのはずですのに、カルバン様ときたらご学友と一緒になって「ソフィア」「ソフィア」「ソフィア」と、関係を改善するよりも悪化しましたのよ!

何を考えてるのかサッパリ分かりませんわ。

理解不能ですわ。


その礼儀のなってない子爵令嬢に懇切丁寧にマナーを注意しただけで、どうして私が悪者になるんですのっ。

私の愛犬パピーちゃんの方がまだ礼儀正しくてよ!

はしたなくも走り出して勝手に私の横で転けたのが私のせいですって?いけしゃあしゃあとあの駄目令嬢!

口元に手を当てて無駄に語尾を伸ばす話し方も、常にゆらゆらくねくねと揺れる立ち姿も、もう存在自体が腹立たしいのですわ。

ああ!思い出しただけで扇子を折ってしまいそう!


そして一年を待たずして、建国祭の夜会で彼は私に婚約破棄を高らかに宣言したのです。


あの女の腰を抱き、後ろに頭の足りないご学友を従えて糾弾する様は下手なお芝居の様でしたわ。いえ、お遊戯かしら?

当事者でなければ笑ってしまったでしょうね。思わず、どうしてこの方が婚約者なのかと溜息をつきたくなりましたわ。

くだらない演説に、手にした扇子がミシリと嫌な音を立てた時、カルバン様は歪んだ笑顔でこう言ったのです。


「このように卑劣極まりないお前にも温情をかけてやろう。仮にも侯爵令嬢が行き遅れては可哀想だからな、マークロウ辺境伯爵へ嫁がせてやる」


なんですって?


誰が卑劣?


誰が可哀想?


その台詞、リボンを二重三重とかけて顔面に叩き返して差し上げますわよ!

貴方に憐れまれる筋合いなんて微塵もありませんわ。

それに、嫁がせてやる?

親でもない貴方にそんな権限は一切なくってよ!差し出がましい。

手にした扇子がバキリと折れた時、王太子殿下が慌てて間に入り、その場を収めてくださいました。

私はお父様に支えられなければ、怒りで殿下やあの女に手を上げてしまいそうでしたわ。

素手は痛いから扇子なら大丈夫かしら。

あぁ、そうでしたわ。扇子は折れてしまったのだわ。

残念ですこと。



翌日、静かに怒るお父様からカルバン様との婚約が解消できたと伝えられました。

解消されたのは喜ばしいのですが、叩きのめせなかったのは残念ですわね。

悔しさに俯いた私に、お父様は新しい婚約者のお話を持ち帰ったのです。


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