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その5 階位《レベル》上げ

 翌日。俺は剣鬼の弟子、マルハレータと彼女の護衛の女騎士を連れてダンジョンに向かっていた。


 ちなみに女使用人は家に残している。正直あの女を一人で残すのは不安だが、まさかただの使用人をダンジョンに連れて行くわけにもいかない。

 俺はダンジョンに入る前に女騎士に尋ねておく事にした。


「あんたの階位(レベル)はいくつなんだ?」

「私の階位(レベル)は5だ」


 誇らしげに答える女騎士。

 横ではマルハレータが少し悔しそうな顔をしている。

 彼女の階位(レベル)は4だからな。


 階位(レベル)5か。思っていたよりも高いが、貴族の娘の護衛に付けるんだから、それくらいの階位(レベル)があっても当然か。


 女騎士は俺が驚かなかった事が不満だったようだ。

 まあ実際に階位(レベル)5の人間というのは中々いないからな。普通は驚くものなんだろう。


「そこの獣人共。お前達の階位(レベル)はいくつだ?」


 女騎士に聞かれてティルシアが答えた。


「私は階位(レベル)5です」

「なにっ?!」


 思わぬティルシアの階位(レベル)の高さに女騎士が驚きの声を上げた。

 いや、マルハレータの方も驚いているな。

 自分と同年代(のように見えるだけなんだが)の獣人の少女が、自分の護衛の騎士と同じ階位(レベル)だと知って驚いたのだろう。

 逆に今度は女騎士の方が悔しそうな顔をしている。さっきドヤ顔を決めたのを思い出して、ばつが悪い気持ちを味わっているのかもしれない。いい気味だ。


「アタシは階位(レベル)3です」

「そ、そうか?! いや、その若さで中々だな」


 シャルロッテの返事に、自分よりも下の階位(レベル)の者がいる事を知って嬉しそうにする女騎士。

 その時マルハレータが俺に聞いてきた。


「ダンジョン夫。あなたの階位(レベル)はいくつなのですか?」

「・・・それよりもダンジョンが見えて来たぞ。準備は整っているのか?」


 俺は適当な事を言って誤魔化した。

 馬鹿正直に階位(レベル)1と言って揉めるのもイヤだし、もしこの場で嘘をついても、俺が階位(レベル)1なのはダンジョン協会では有名な話だ。どこで本当の事が彼女達の耳に入るか分からない。

 こんな事でつまらないリスクを背負う必要はないだろう。


「当たり前だ! この方をどなただと思っている! あの剣聖クラーセン様が認めた唯一の弟子だぞ!」


 激昂する女騎士。 

 あっさりと誤魔化せて俺は内心で安堵のため息を漏らした。

 しかし剣鬼は剣聖とも呼ばれているのか。似合わないな。




 ダンジョンに入った俺は、今朝の打ち合わせ通りにここでティルシア達と別れる事にした。


「じゃあティルシア、シャルロッテを見てやってくれ」

「分かった」

「行こうか、ティルシア姉さん」

「ちょっと待て。お前達はどこに行く」


 女騎士が不思議そうな顔をして聞いて来た。


「彼女達は仕事だ。軽く上層を回ってから、中層に向かうことになっている」


 マルハレータの階位(レベル)上げの付き添いくらい俺一人で十分だ。

 護衛ならこの女騎士がいるしな。

 ティルシアは普通に仕事を、シャルロッテは彼女に付いて回って勉強だ。


 ティルシアも中層の仕事は始めたばかりだが、一応もう一人で回れる程度には教えている。

 それにティルシアも人に教える事で学ぶ事もあるだろう。これはこれで悪くないタイミングだったのかもしれない。


「あなた達も私の階位(レベル)上げを手伝いなさい」

「はあっ?!」


 しかしこのマルハレータの思わぬ一声で、俺達の予定は大きく変わる事になった。



「彼女達が一緒にいても階位(レベル)上げの役にはたたないぞ」

「うるさいぞ貴様! マルハレータ様が決められた事だ! 口答えをするな!」


 コイツめ・・・ しかしマルハレータのヤツ、一体何を考えているんだ?


 ティルシア達は大人しく成り行きに従うつもりのようだ。

 この中で俺だけが納得していないらしい。


「本当に彼女達がいても関係ないんだぞ」

「いいから早く行け!」


 くそっ! いちいちうるさいなお前は!


 だがこれ以上ここでゴネていても仕方が無い。

 俺なんかがいくら言ってもマルハレータは自分の言葉を取り消さないだろう。

 俺は仕方なく先頭に立って歩き出した。




 ここはダンジョンの中層。

 俺は上から襲い掛かって来た大きな蝙蝠を叩き切った。

 蝙蝠のように見えてコイツはモンスターだ。噛みつき蝙蝠と呼ばれている。


 この噛みつき蝙蝠は中層を代表するモンスターで、四階層から六階層まで割とまんべんなく出現する。

 階層をまたいで出現するモンスターは、このダンジョンではコイツくらいしかいない。

 そういう意味では何気に珍しいモンスターなのだ。


 噛みつき蝙蝠の肉は食用として一定の需要がある。俺達ダンジョン夫にとっては良い小遣い稼ぎになるモンスターだ。

 とはいえ今日の俺はマルハレータの階位(レベル)上げの手伝いに来ている。

 少々残念だがここに放置していくしかないだろう。


 ちなみにここに来るまでダンジョン調査隊には出くわしていない。

 今、このダンジョンの上層は面積にして以前の10倍近くにまで広がっている。

 調査隊がダンジョンの隅々まで散らばって調査している以上、そうそう出会う事はないのだろう。


「おい。何でお前ばかり戦っているんだ。ここにはマルハレータ様の階位(レベル)上げに来たんだろうが」


 女騎士が文句を言って来た。

 マルハレータも少し不満そうにしている――のか?

 コイツの表情は良く分からん。


 何でも何も、それは俺の階位(レベル)を上げるためだ。

 流石に階位(レベル)1で中層に下りる度胸は俺には無い。


 俺は率先して先頭を歩く事で、出くわすモンスターを倒して階位(レベル)を上げているのだ。

 ちなみに今の俺の階位(レベル)は5。

 本来、マルハレータが上げる予定の階位(レベル)に、既に到達している事になる。

 もしこれを知ったら、この女騎士は烈火のごとく怒りだす事だろう。


「マルハレータ、様の相手はコイツらじゃない。こんなザコの相手は俺に任せてくれ」


 俺が露払いをしている、と言われては文句が言えないのか、女騎士は案外大人しく引っ込んだ。

 いや、マルハレータの方は何か気になる事があるようだ。


「何であなたはさっきからずっと何かを食べているのです?」


 そう言われて俺は口に含んだ保存食を飲み込んだ。

 言うまでもない。極端なレベルアップの副作用ともいうべきエネルギー不足を補っているのだ。

 とはいえここでそれを馬鹿正直に言う訳にはいかない。


「それは・・・ 気にしないでくれ。俺のストレス解消法は食う事なんだ」

「すとれす? 何ですかそれは?」


 どうやらこの世界にはまだストレスという言葉が無いようだ。

 ・・・概念自体が存在しないとか言い出さないよな?


 とはいえマルハレータも、最初からそれほど興味があって聞いたわけではないようだ。

 マルハレータは俺が返事に困っている間に、俺との会話に興味を失ってしまったらしい。

 今はダンジョンの中を警戒するティルシア達の方を見ている。


「最初に言ったが、目的地は深層の手前、六階層になる。それまではゆっくりしていてくれ」

「・・・任せる」


 何か言いたげにしながらも、マルハレータは俺の言葉を了承するのだった。




 俺達は無事、六階層の階段までやって来た。この階段を下りれば七階層――深層と呼ばれる階層になる。

 俺は一度階段に入って休憩を取る事にした。


「一先ずこの階段をキャンプとしよう。ここから下は深層なので間違っても下りないように」


 俺の言葉に神妙な顔つきで頷くマルハレータ。

 どうやら勝手に深層にチャレンジする気はないようだ。その表情からは緊張が窺われる。


「知っての通りダンジョンの階層間の階段はある種の安全地帯だ。だが、それも絶対では無いと思っておいて欲しい。つまり油断はするなという事だ」

「そんな事はもう知っている! いいから話を進めろ!」


 ――この女騎士はいちいち・・・ まあいい。確かにダンジョン調査隊のコイツらに今更言うような事でも無かった。今のは俺の蛇足に違いない。


「分かった。少し準備をしてくるから、しばらくここで待っていてくれ」

「ハルト、どこかに行くならアタシ達も手伝おうか?」


 シャルロッテのせっかくの申し出だが、これは階位(レベル)3のお前には荷が重い。


「いや、みんなとここで待っていてくれ。四半時(30分)もかからずに戻って来る」


 俺はそう言うと背中の荷物を下した。

 今更ながら大量の荷物にマルハレータが不思議そうな顔をする。

 この中身が全部保存食と知ったらどんな顔をするだろうか?

 おっと、そういえば――


「こっちの袋にはまだ食える部類の保存食が入っている。置いて行くので何なら食べながら待っていてくれてもいい」


 俺はそう言い残すと六階層に戻り、モンスターを探して走り出すのだった。




「いた! 今日に限って見つからないので、どうしたものかと思っていたぞ」


 俺が見つけたのは数メートルもある巨大な百足。


 この六階層の要注意モンスター”群体百足”である。


 俺を見つけた群体百足が襲い掛かって来た。

 俺はナタを一閃。群体百足の胴体を切り飛ばした。


 ザワザワザワ


 群体百足の動きはまだ止まらない。コイツは胴体を切り離したくらいでは死なないのだ。

 確実に殺そうと思ったら頭を潰さないといけない。

 そうと知っていながら何故俺はそれをしなかったのか。


 カチカチカチ


 群体百足が顎を鳴らした。やがてダンジョンの通路の奥からザワザワと何かが這いまわる音が聞こえて来た。

 俺はそれを確認すると踵を返して走り出した。


 そう。俺が今からやろうとしている事は、モンスターの引き連れ(トレイン)である。



 この群体百足はデカさの割にその強さはそれほどではない。

 そんなモンスターが何故要注意なのか。それはうかつに攻撃するとこうしてどんどん仲間を呼ぶからだ。


 以前マルティンを捜しにティルシアと深層まで下りた時、俺達はその帰りにこの群体百足の群れに遭遇した。

 それは代官の所の駐留兵が迂闊に招いたトレインだったのだが、今回俺はわざとそれを起こそうとしているのだ。


 ドラゴンク〇ストのマド〇ンド稼ぎ。Wiz〇rdryのグレーター〇ーモン稼ぎ。ゲームの中では昔から、仲間を呼ぶモンスターを使って効率よく経験値を稼ぐ方法が知られている。

 いちいちモンスターを探してダンジョンをうろつくのも時間がかかるし、相手によって戦い方を変えるのもある意味手間だからだ。

 稼ぎプレーにおいては、同じモンスターをただひたすら狩り続けるのが一番の効率が良い方法という事だ。


 その点この群体百足はうってつけだ。個々の強さはさほどでもないし、こうしていくらでも仲間を呼んで来る。

 数の調整が出来るかどうかだけが不安だが、まあいざとなれば俺が手伝えばいい。

 そのためにここに来るまでに十分に階位(レベル)を上げているのだ。

 今の俺の階位(レベル)は10。少し不安はあるが俺以外にもティルシアもいれば女騎士もいる。こちらの戦力に不足はないだろう。


 俺は背後の群体百足の群れを引き離さないように注意しながら、マルハレータ達が待つ階段へと走った。

次回「群体百足再び」

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