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エピローグ 新人ダンジョン夫シャルロッテ

 その日俺はティルシアとシャルロッテを伴ってダンジョン協会に来ていた。

 シャルロッテを連れて来た理由は、彼女をダンジョン夫として協会に登録するためである。




 あの日、俺をダンジョンまで追いかけて来た男達を返り討ちにした俺は、空きっ腹を抱えながらダンジョンを出ると自分の家まで戻った。

 買い置きの保存食を腹いっぱい平らげた事でようやく人心地ついた俺は、一晩中ダンジョンで走り回った疲労から、自室のベッドで倒れ込むように眠りについたのだった。


 額に青筋を浮かべたティルシアに叩き起こされるまでは。


「どうして一人で勝手に帰って寝ているんだお前は!!」


 すでに部屋は薄暗くなっていた。

 どうやら俺は夕方まで眠っていたようだ。

 ティルシアの後ろには困った顔をしたシャルロッテの姿が見えた。

 彼女は今日一日ティルシアと行動を共にしていたようだ。


「私達がどれだけお前の事を心配したと思っているんだ!!」


 ティルシアはシャルロッテの仲間のアジトを強襲すると、そのままアジトに残って逃げ帰って来た連中の相手をすることになっていた。

 ちなみに、俺を追いかけてダンジョンに入っていたヤツらは全員俺が倒してしまったようで、ティルシアの所まで戻ったヤツは一人もいなかったんだそうだ。


 ティルシアは昼までそこで待機した後、シャルロッテを伴って一旦ボスマン商会へと引き上げた。

 商会でまだ俺が戻っていない事を知らされた二人は、心配してダンジョンまで様子を見に行った。

 幸い、ダンジョンの入り口を見張っていた駐留兵が俺がダンジョンから出た姿を目撃していた。その事を聞いた二人は、「もしや!」と思い、急いで家まで引き返したんだそうだ。


「そうしたらお前が散々食い散らかした挙句、グーグー寝ているじゃないか。どれだけぶっ飛ばしてやろうかと思ったぞ。」


 それだけは止めてくれ。階位(レベル)5のティルシアにぶっ飛ばされたら階位(レベル)1の俺なんかじゃひとたまりもない。

 せっかく腹の傷も良くなってきたっていうのに、今度は全身骨折で治癒のスクロールの世話になるのは御免だ。

 俺はまだプリプリと怒るティルシアの後ろに立つシャルロッテの方を見た。


「で? シャルロッテはいいのか?」


 俺は彼女の仲間を殺し、彼女の帰る場所を奪った。

 俺を恨んでいても当然だ。

 もちろん仕掛けて来たのはそっちなんだから自業自得だし、俺が気にかけてやるような事じゃない。

 だが俺にとってやはりシャルロッテはロッテで、どうも彼女を悪く思う事が出来ないのだ。

 彼女に迷惑を掛けられた所を見ていないせいで実感が湧かないのかもしれない。


「ああ。元々チームにアタシの居場所は無かったからね。」

「・・・そうか。」


 それでも頑なにチームの情報を教える事を拒んだシャルロッテは義理堅いヤツなんだろうな。

 人によっては彼女を裏切り者と呼ぶのかもしれないが、言いたいヤツには好きに言わせておけばいい。

 もしそれで不都合が生じるようならその時に何とかすればいいだろう。


「それで・・・あの、アタシ、行くところが無くなってしまったんだけどさ。」


 もじもじとしながら上目遣いに俺の方を見るシャルロッテ。

 何だろうか、どことなく見覚えのある仕草だ。


 ・・・ティルシアの入れ知恵だな。


 俺が横目でティルシアを睨むと、彼女も俺の方を見ていたらしく俺達は目が合った。

 どうやら二人の間にはすでに話が付いているようだ。


 ・・・だったら俺に何が出来るっていうんだ?


 俺は諦めると小さくため息を付いた。


「空いている部屋はいくらでもある。好きな部屋を使え。」


 パッと笑顔を見せるシャルロッテ。とティルシア。


「なっ! なっ! 私の言った通りだろ! ハルトは女のアレに弱いんだよ!」

「ありがとう姉さん! アタシも不安だったんだ!」


 いや・・・ティルシアよ、俺はお前の上目遣いにやられた事は一度だってないんだぞ。

 いつも仕方なく諦めているだけで、決してお前に媚を売られて喜んでいるわけじゃないからな。

 そしてシャルロッテはいつの間にティルシアの事を姉さんと呼ぶようになったんだ?


 俺は嬉しそうに話し込む女二人に対して何も言えず、己の無力さを噛みしめる事しか出来なかった。




 シャルロッテが協会に登録するための手続きと簡単な説明を受けている間、俺はティルシアに依頼表の見方を教えてやっていた。

 ティルシアにはすでに何度か説明してはいるのだが、「依頼表」には、階層、日付、報酬、依頼主、などが独自の記号で書かれており、板の形やかけられた場所にも意味がある。

 長年の慣習により積み重なったこれらの仕様は、とても一朝一夕で覚え切れるものではない。

 正直、初心者に対する嫌がらせ以外の何物でもないと思う。


 ちなみに、なんでシャルロッテがダンジョン協会に登録することになったかと言うと、他に仕事のあてが無かったからである。

 「最初に会った時「仕立て屋で針子の仕事が決まった」と言っていただろう」、と聞くと、アレは全部ウソだったんだと謝られてしまった。

 シャルロッテは針子どころか裁縫をした事すら無いらしい。

 彼女からそう聞かされて俺は呆れてしまった。

 なんでこんな簡単にバレそうなウソをついたんだ? ウソを付くにしてももっと他に無かったんだろうか。



「ハルト、これは何と書いてあるんだ?」

「?! これは!」


 ティルシアが指差した依頼は上層の地図の作成に関するものだった。

 彼女が知らないのも無理はない。こんな依頼、俺だって実際に見たのは初めてだ。

 ダンジョンの上層と中層の地図はもうずっと前に完成している。

 下層の地図こそまだ作られていないが、だれも下層まで下りなくなって以来、この手の依頼が張られる事は無くなったと聞いていた。


 俺は無意識にゴクリと喉を鳴らした。


 誰かが上層に出来た新しい通路に気が付いたのか。


 この依頼からは詳しい事は分からない。ただ、まだ事の重大さには気が付いていないようだ。

 もし気が付いていればこんな依頼の形は取らないだろう。

 それこそダンジョン協会を上げて調査の手が入るはずである。


 だがそれも時間の問題でしかない。

 やがて誰かがダンジョン上層の広がりがかなりの広範囲に渡る事に気が付くだろう。

 そして町の下までダンジョンが伸びている事に気が付くのだ。

 そうなってしまえばこの町に何が起こるか分からない。

 


 俺が依頼表を前に考え込んでいると、シャルロッテが嬉しそうにダンジョン夫の身分証である木札を振りながら歩いて来た。


「見てくれ姉さん! これでアタシも姉さん達の一員だぜ!」

「うむ。先輩ダンジョン夫として私が色々と教えてやろう。」


 自分も最近協会に登録したばかりだというのに、やけに先輩風を吹かせるティルシア。

 お前、ついさっきまで俺から依頼表の見方を教えて貰っていた立場だろうに。


「三人になったし私達のチームにも名前を付けた方が良いな。」

「ああ、確かに。じゃあ・・・”ヴィットダウフ”とか?」

「「何の名前だそれは?」」


 俺の買った家の名前(ヴィットダウフ荘)だった。というかそんな誰も覚えてもいない名前をチーム名にするのはどうだろうか。


「”獣人団”はどうだ? 強そうだろう。」

「・・・俺は人間だぞ。」

「ハルトがリーダーなんだからハルトにちなんだ名前を付けるべきじゃないかな?」


 俺の? チームジャパンとか? それじゃスポーツの日本代表チームみたいだな。


 結局、俺達のチーム名は”チーム・ローグ”に決まった。


 ティルシアはマルティンから俺のスキル名を聞いているからな。

 何となくこうなる予感はしていたんだ。


 こうして俺達三人は”チーム・ローグ”として活動を始める事になった。


 まず手始めとして、今日はティルシアが依頼表の見方をシャルロッテに教える事になった。

 自分がさっき俺から聞いたばかりの話を、さも前から知っていたかのように教えるティルシア。


 そんなティルシアの話を聞き流しながら俺は考えた。


 明日からはシャルロッテにダンジョン夫としてのイロハを叩き込まなくてはいけない。

 同時に彼女の階位(レベル)上げも行わなければいけないだろう。

 シャルロッテは階位(レベル)3だが、後々中層を仕事場にするなら階位(レベル)4は欲しいからだ。


 それと共にティルシアの新人研修期間もそろそろ終わりにしたい。

 今のまま二人で回っているのは採取の効率が良くない。

 彼女に出来る仕事を見極めて、順次それらを任せていくべきだろう。


 正直、考えなきゃならない事が色々と増えて面倒だ。



 ーーだが嫌な気分ではない。


 不思議とこの時、俺はそう思った。


 俺がこの異世界フォスに転移して来て10年。少しずつだが俺の心境に変化が訪れようとしていたのかもしれない。

 だがこの時の俺は自身の変化の兆しにまだ気が付いていなかった。


 俺がその事を自覚するのはまだ少し先の話である。

 ここまでで第三章が終わりとなります。


 この作品もついに20万字を超えました。

 何気に最新話を読み直して校正するために、毎回一番下まで画面のスクロールをさせるのが、若干面倒に感じる話数になりました。(笑)

 そしてブックマーク登録者数もついに100人を超えました。

 多くの方にこの作品を登録して頂き、大変ありがとうございます。

 一時は第一章で完結させようと思っていましたが続けた甲斐がありました。


 最後に、多くの作品の中からこの作品を読んで頂きありがとうございました。

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