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その19 逆襲

 ティルシアの説明を聞き終え、俺は困惑を隠せなかった。


「それで、ロッテ・・・シャルロッテは俺達に何も言わないと言うんだな?」


 口を真一文字に引き結んで頷くシャルロッテ。

 仲間は売れないと言うことか。・・・強情だな。

 ティルシアは俺に判断を預けているのか、入り口の所まで下がってドアに体を預けている。

 やれやれ面倒な事を押し付けてくれたものだ。


 とはいえつい先日、自分の口から「俺を頼れ」などと言ってしまった手前、ここで文句を言う事も出来ない。

 俺はシャルロッテの方に向き直ると彼女に話しかけた。


「じゃあ言える事だけ答えてくれればいい。俺を刺した男はお前の仲間なんだな?」

「・・・そうだ。」

「仲間は後何人・・・これは言えないのか。目的・・・もダメだろうな。だったら・・・」


 ちなみに俺を刺した男はすでにティルシアによって返り討ちにされているらしい。

 敵討ちの相手を無断で奪った事を申し訳なさそうに告げたティルシアだったが、俺としては犯人が死んでくれただけで十分だ。自分の手で殺さないと気が済まない、とまで思えないのは俺が甘いのだろうか?


 さて、シャルロッテに対する質問を探り探りしているうちに、俺はだんだんと煩わしくなってきた。

 正直今更、ロッテはシャルロッテで敵の一員だ、などと言われても俺には全くピンと来ないのだ。

 シャルロッテが敵として俺の前に立っているならともかく、シャルロッテはどう見てもあのロッテだし、そもそも俺にとってシャルロッテは最初からこうしてしおらしい態度で全然敵に見えやしない。

 俺がどうしていいか混乱するのも無理はないだろう。


 ・・・そうだな、これだけ聞いておけば十分か。


「もし俺がお前を自由にしたら、お前はチームとやらの下に帰りたいのか?」


 俺の質問が余程予想外だったのか、シャルロッテは目を見開くとしばらく俯いて考え込んだ。


「もし自由になれば・・・アタシはチームに帰らなければいけない。けど帰りたいかと聞かれれば帰りたくはない。矛盾しているようだがそれがアタシの本心だ。」


 別に矛盾している訳じゃないな。帰りたくなくても帰らなきゃならない、やりたくなくてもやらなきゃならない、そんな事は世の中にいくらだって溢れている。

 つまりシャルロッテは立場としては俺達の敵だが、本人の心情的には俺達を敵だと思っていないんだ。

 ならそれだけ分かれば十分だ。


「分かった。だったらお前を自由にするわけにはいかない。わざわざ敵を増やす理由は無いからな。」


 俺の言葉に明らかにホッとした様子を見せるシャルロッテ。コイツもたいがいに面倒なヤツだな。


「だが、せめて敵が俺とティルシアのどっちを狙っているのかくらいは知りたいが・・・」

「その事だが、シャルロッテが持っていた鍵だ。」


 『鍵』という言葉に俺はポケットの中の漆黒の鍵を思い出してドキリとしたが、ティルシアが取り出したのは俺が見慣れたアーティファクトの鍵だった。


「これは、俺の家の部屋の鍵じゃないか! どうしてお前がコレを持っているんだ?」

「どうやらシャルロッテがお前の部屋から盗んだらしい。部屋の中も見たようだぞ。」


 アレを見られたのか?! 俺は一瞬シャルロッテに対して殺意が湧いたが、アレを見た話を聞いたにしてはティルシアの態度が普通過ぎる。

 どうやら撒き餌であるミスリル製の装備に目がくらんで、その奥に隠してあるアーティファクト製の扉までは気が付かなかったみたいだ。

 ミスリルの装備も俺が持つにはたいがいヤバい代物だが、あれはかつてティルシアにも見せた事がある物だ。

 ボスマン商会のマルティンに極秘に卸せる目途が立った今、そこまで神経質になる必要は無い。


「ふうん。コイツを大事に持っていたという事は、チームとやらの目的は俺のため込んだ装備か。」


 俺の言葉に無表情を貫くシャルロッテだが、俺は彼女の頭のネコ耳がピクリと動くのを見逃さなかった。

 獣人がこういう時に表情より耳に出やすいのはティルシアで良く知っている事だ。

 図星と見て間違いないだろう。


 それにしてもどうやってコイツは俺の持つミスリル製の装備の事を知ったのだろうか?


 ・・・まあそれは今考えても意味は無い。

 それよりこの情報をどう生かすかだ。


 俺の財産を狙い、俺を刺したチーム(連中)

 俺は無意識のうちに腹の傷に手を当てていた。


 殺すしかないか。


 今の俺はこの異世界フォスに来た当初の無力な中学生じゃない。

 フォスのヤツらが俺から何かを奪おうとするのなら、それ相応の対価をくれてやれるだけの手段がある。

 俺は心を決めるとシャルロッテの方を向いた。

 俺の目に何を見たのかビクリと身を竦ませるシャルロッテ。


「さっきは自由にしないと言ったが、事情が変わった。お前には仲間の所に帰ってもらう。」


 俺の言葉にシュンと耳がしおれるシャルロッテ。

 だが俺の話はまだこれからだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ティルシアに殺されたとばかり思っていたロッテが帰って来たのは町も寝静まった夜の事だった。

 暗殺者集団の者達はティルシアを見張っていたメンバーから、既にベックとロッテの死を報告されていた。


「どういう事だロッテ?」


 裏切りを警戒してロッテに剣を向ける小柄な男。

 仲間と共にデ・ベール商会に潜入していたカルである。


「ベックはティルシアに殺された。ほとんど即死だったよ。アタシが殺されなかったのは獣人同士の決闘だったからだ。ティルシアはそういうのに拘る女なんだよ。」


 胡散臭そうな目でロッテを見る仲間達。


 ーーやっぱりコイツらは仲間じゃない。


 ロッテはチームメンバーの態度に自分の気持ちを再認識した。


「剣を下せ、カル。最後までロッテに話させてやれ。」


 部屋の奥で重々しく告げる髭の中年の男。

 そのリーダーの言葉にカルは不満をあらわにしながら剣を収めた。

 ロッテはリーダーに促されて話を続けた。


「ティルシアはハルトを襲撃した男の情報を得るためにアタシを生かしていたんだ。」


 ロッテの説明によると、ティルシアとの一騎打ちに負けたロッテはティルシアに拘束されたのだそうだ。

 例のアーティファクトの鍵もその時に見つかって取り上げられてしまったのだという。

 ロッテに例の部屋の情報がバレたと知ったティルシアは、ハルトと今後の対応を打ち合わせるためにロッテを伴ってボスマン商会に向かった。

 その後ロッテは見張りの目を誤魔化して商会の建物から脱出、どうにかここまで逃げ延びて来たのだった。


「例の鍵を奪われたのか?!」


 鍵の秘密を知るリーダーは怒りに顔を真っ赤に染めた。

 他の仲間達は突然のリーダーの剣幕に驚いて目を見開いた。


「す、すまない。けど、アイツらは鍵を持って今からダンジョンに向かうと言っていたんだ! 直ぐに追えばまだ間に合うよ!」


 ロッテの懸命な言葉に体を震わせながら怒りを堪えるリーダー。


「リ・・・リーダー?」

「いや、何でもねえ。ボスマン商会を見張っていたヤツから何か連絡は?」


 しばらくすると一人の男がやってきてリーダーに耳打ちをした。

 固唾をのんで見守るメンバー達。


「半時(一時間)ほど前に家の男とティルシアが商会の建物を出てダンジョンに向かったそうだ。ダンジョンに入った所までは別のメンバーが確認している。」


 ザワッ


 男達の間にざわめきが広がる。


「リーダー! ここは俺に任せてくれ! ティルシア達がダンジョンで何をする気なのかは知らないが、みすみす好きにさせる必要はねえ!」


 小男カルがいきり立つ。

 カルの階位(レベル)はティルシアと同じ5。このチームでは死んだベックとリーダーを除けばカル以外は全員階位(レベル)3だ。

 ティルシアの相手はカルがやるものだと誰もが思っていた。


「いや、俺も行こう。」


 だからリーダーが重々しくそう告げると、メンバーの間には驚きのどよめきが上がった。


「なっ・・・なにもリーダー自らが行くこたあねえぜ!」

「いや、ティルシアはロッテの”獣化”を軽くあしらったという。お前でも油断は禁物だ。ここは万が一の用心で俺とお前の二人がかりでいく。」

「アタシだってまだやれるよ! 連れて行っておくれ! 借りを返してやらなきゃ気が・・・」


 懸命に訴えるロッテをリーダーはジロリと睨み付けた。

 その冷たい眼差しにロッテは気後れして思わず言葉を飲み込んでしまった。


「お前は”獣化”の疲労が残っている。連れて行かねえ。ここで休んでいろ。おい、誰か付いていてやれ。」


 言葉の内容こそロッテの体を労わっているように聞こえるが、リーダーがミスをしたロッテの能力を疑っていることは一目瞭然であった。いやそれよりも悪い。リーダーはロッテの裏切りを疑っているのだ。見張りを残したのがその証拠だ。

 口にこそ出さないものの、メンバーの誰しもがリーダーの考えを察していた。ロッテに侮蔑の視線が注がれる。

 

 正に針の筵の状況に、あまりの口惜しさに歯を食いしばるロッテ。だがミスをして仲間に醜態をさらしたという自覚はあるのか黙って何も言い返さない。

 その惨めな姿が益々仲間の嘲りを買う。


「カル、ダンジョンに関してはさっきまで入っていたお前が一番詳しい。ティルシアを見付けるまではお前が全体の指揮を取れ。」

「! おうよ! 任せてくれリーダー! テメエらダンジョンの中は広いぞ! 俺達のチームは20人ほどしかいねえんだ、全員でかかるぞ!」


 カルの掛け声で立ち上がるメンバー達。

 ロッテは一人うなだれたままジッと床を見つめているのだった。

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 『戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ』

 『私はメス豚に転生しました』

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