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その3 ダンジョン探索

 俺達は町のはずれにあるダンジョンへ向かった。


 俺の装備はいつもの「駆け出しダンジョン夫」風セットだ。

 腰にはナタを挿している。俺のメインウエポンだ。

 同行するのはウサギ系獣人ティルシア。

 ボスマン商会の若きやり手商人マルティンの奴隷だ。


 マルティンのヤツ、中学生くらいの少女を奴隷に買うとは・・・ マルティンの悪趣味さに思わず胸糞が悪くなるが、俺には関係ないことだと割り切って、あえてそのことは考えないようにする。

 それにティルシアはマルティンに虐待を受けている様子はない。

 俺が口出しする問題じゃないのだ。


 俺は荷物が多いせいもあってどうしてもティルシアに遅れがちになる。


「本当に階位(レベル)1なんですね。」


 ティルシアがボソリと呟いた。

 ちなみに「荷物を半分持つ」という彼女の申し出は最初に断った。

 ティルシアの階位(レベル)は5だ。実際階位(レベル)1の俺より何倍も体力がある。

 だが今、彼女の体力は少しでも温存したい。

 俺はいいんだ、いずれ問題なくなるんだからな。




 ダンジョンの入り口には代官の所の駐留兵が整列していた。

 30人ほどか。多分すぐに集められる最大人数なんだろう。

 今からダンジョンに入るところのようだ。

 全員、鋼の防具に鋼の武器。領主軍の標準装備だ。


 いや、一人だけミスリルの装備のヤツがいる。


 昔はひとかどの武人だった、といった雰囲気のオッサンだ。

 おそらく、今回の駐留兵を率いる指揮官だろう。

 俺は一度も見たことのないヤツだ。代官の子飼いの手下か何かだろうか。

 先ほどから部下に対して大声で精神論をブチかましている。

 絶対に俺が好きになれないタイプだ。


「これでは入れそうにないですね。」

「コッチだ。」


 俺はティルシアを連れ、ダンジョンから少し離れた古い小屋に入った。

 そのまま奥に進み壁を押すとーー


「隠し階段?!」


 壁が押し込まれると、トイレの個室程度の広さの隠し部屋が現れた。

 奥には木製の階段が見える。


 ダンジョンへの秘密の抜け道だ。


 昔ダンジョン協会が当時の領主に隠れて作った物らしい。

 なんでこんなモノを作ることになったのか、その理由は知らない。

 俺はある存在(・・・・)に聞かされてこの存在を知っただけだからだ。

 日常使いはしないが、見られるとヤバいモノをダンジョンから持ち出す際には重宝している。


 俺達は階段をきしませながらダンジョンへと降りて行った。




 スライムの核を俺のナタが捉えた。


「本当に階位(レベル)1なんですか?」


 ティルシアがダンジョンに入る前とは真逆の感想を漏らした。

 某国民的RPGではザコモンスターのスライムだが、この世界では案外厄介なモンスターだ。

 その半透明な身体に薄っすらと見える核が唯一の弱点なのだが、その粘り気のある粘液は切り込んだ刃先をそらし衝撃を吸収するためになかなか当てるのに苦労する。

 もっとも階位(レベル)が高ければ力押しでなんとでもなるのだが。


 最後の一匹となったスライムの核も切断。スライムは二つになった核を残し、ドロドロに崩れ去った。

 このスライムの残骸にも需要が無くはないが、たいして金にはならない。依頼でもされない限りわざわざ持って帰るダンジョン夫はいないだろう。


「コイツは見た目より良い武器なんだよ。」


 どうせ秘密にしていてもじきに分かるので教えてやる。


「ああ、プラス武器なんですね。」


 この世界の武器や防具にはプラス・マイナスの効果が付いたものがある。

 階位(レベル)1相当の武器でもプラスの数字が付いていれば、生半可な一つ上の武器並みに強力だったりするのだ。

 しかも有難いことに、いくらプラスの数字が多くても装備適正レベルが上がる事はない。


 ティルシアの防具を選んでいた時、例外があると言ったのがこれだ。

 例えティルシアが階位(レベル)の低い防具しか装備できなかったとしても、その防具がプラス防具なら、実質は上の装備の防御力になるのだ。

 今回の場合は彼女の階位(レベル)が十分に高かったので、特に意味はなかったのだが。



 プラス・マイナス装備はダンジョンで見つかるアーティファクトだが、ダンジョンで手に入るスクロールを使って後付けで作ることもできる。


「ウチの商会でもロングソード+1は人気商品ですよ、めったに入りませんが。」


 そもそも装備強化のスクロール自体が非常に見つかり辛い貴重品(レア)である上、確率で付与に失敗するので数が作れないのだ。

 しかも+を上げる度に必要スクロール数が増えるという鬼畜仕様。


「噂では王城の宝物倉にある宝剣はなんと+20なんだそうですよ。」

「それはウソくさいな。」

「あくまで噂ですからね。なんでもダンジョンの深層で見つかったプラスの剣にさらにスクロールでプラスを付与したという話ですが。」


 それならアリなのか?


「一度見てみたいですよね。」


 何やらうっとりとした様子の少女。・・・今後はコイツに装備の話題を振るのは止めておこう。

 俺は自分の愛用のナタを眺めた。


 鉄のナタ+99


 そこらの武器が裸足で逃げ出すチートレベルの武器だ。




 俺達が今いるのは3階層。

 ティルシアの主人である若き商人マルティンが落とし穴に落ちたと見られている階層だ。

 そのティルシアは2階層の途中あたりからずっと俺に不審な目を向けている。


 それはそうだろう。

 モンスターに会わない道のりを知っている、と思っていた相手が、最短距離を取って普通にモンスターを退治しながら進んでいるんだから。


 最初は、俺の持つ武器がプラス武器だから、その性能に助けられてなんとか出来ているんじゃないか、と考えていた様子だったが、俺が3階層のモンスターを相手にし出してからはあり得ない事態に困惑し出したみたいだ。


 無理もないだろう。階位(レベル)1の俺が何の苦もなくモンスターを倒しているんだから。


 実際、今俺が倒した灰色狼も、本来なら階位(レベル)3以上が相手をするようなモンスターだ。

 今回はたまたま単独だったものの、群れの場合は階位(レベル)4相当とまで言われている。

 年に一度はうかつなダンジョン夫が犠牲になっている、3階層の要注意モンスターだ。


 俺はまた荷物から保存食を取り出してかじる。

 保存することにのみ全振りし、それ以外の全てを切り捨てたかのようなクソ不味さだ。

 日本の美味しい食事が恋しくなる。


「また食べているんですね。」


 呆れたようなティルシアの声に、ふと足を止める。

 振り返ってティルシアの様子を窺うと、額に汗がにじんでいるようだ。


 知らない間にペースも上がっていたか。いかんな。


 他人とダンジョンに入る事自体が数年ぶりなせいか、階位(レベル)の違いの感覚がわからなかったみたいだ。

 そろそろペースを考えないとティルシアが俺の速度に付いてこられなくなる。


「先は長い、休憩にしよう。何か口にするなら出すが?」


 そう言って俺は荷物を下ろした。

 最初はしゃがんだ状態で背負い、ティルシアに手伝ってもらいながら何とか持ち上げていた荷物だが、今の俺は片手で持ち上げて下ろすことができる。まあ、さっきからしょっちゅう中身を口にしているので若干軽くなってはいるだろうが。


 俺は荷物の中から比較的マシな味がする保存食を取り出し、ティルシアに渡した。

 ついつい惜しくなって手渡す際に少しためらいが生じたことはとがめないで欲しい。

 まともに食えるものは少ないのだ。


 そのうち自作するのもいいかもしれない。

 俺はクソ不味い保存食を口に運びながら、そんな取り留めもない事を考えた。

 え、うそ、まだ食べるの?! というティルシアの視線はガン無視で。

 とにかく腹がすいて仕方がないのだ。俺の身体はカロリーを欲している。

 もしダンジョン内に入ってきた駐留兵と鉢合わせしたらと考え、モンスターとの戦闘を増やしすぎたのかもしれない。

 俺も焦っているのか。不味い飯でも食って少し落ち着こう。



 ゲームと同じようなダンジョンと言ったが、その例えで言うならここのダンジョンは洞窟タイプだ。

 昔の鉱山のような穴、とでも言えば少しはイメージしやすいだろうか?

 足元の岩が薄っすらと光っているため、松明やランプはいらない。

 1階層ごとに結構な広さがあり、階層の奥には次の階層に向かう階段がある。


 これらのことから分かるように実はダンジョンは人工物なのだ。


 昔、俺が読んだWeb小説では、ダンジョンの最奥部にダンジョンコアと呼ばれるダンジョンを管理している装置がある、という話があった。

 実はこの世界のダンジョンもそれに似た構造なのだ。

次回「3階層にて」

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