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その8 ダンジョン研究家フロリーナ スタウヴェンの町へ

◇◇◇◇ダンジョン研究家フロリーナの主観◇◇◇◇


 私の名前はフロリーナ・フェルヘイ。

 以前の名前はフロリーナ・デル・ケーテル。この辺りを領地に持つケーテル男爵家の次女です。

 家を出た今は母方の姓を名乗っています。


 家を出たとはいうものの別にケーテル男爵家と折り合いが悪いというわけではありません。

 大人になったので自分の道に進んだだけなのです。

 それに今までも父とはよく連絡を取り合っています。

 むしろ連絡をしないと心配して家まで尋ねて来かねませんね。

 家にも迷惑でしょうからそれだけは避けないといけません。



「お前が望むならいつまでだってこの家にいていいんだぞ。」


 私が屋敷を出たあの日も父はそう言って私を引き留めようとしました。

 でも私はすでに自分の夢に向かって進むことに決めていたのです。


「そうか、ではその夢を叶えたら帰ってくるんだな?」


 いや、帰りませんよ? そうなったら結婚して旦那様の家に入るに決まっているじゃないですか。

 真っ白な抜け殻になった父を残して私はケーテル男爵家を出たのです。




 私の夢はダンジョンの秘密を解き明かすことです。


 この世界には種族の垣根を越えた神話が根付いています。

 それは三つの神の神話です。


ーーーーーーーーーー


 この世界には大昔一柱の神がいました。


 神は何も生み出さず、ただそこに佇んでいるだけの石のような存在でした。


 そこに海を渡って第二の神々がやってきました。


 第二の神々はこの世界に大地を作り出すとその下に最初の神を閉じ込めてしまいました。


 さらに第二の神々はこの世界に太陽と月を作ります。これがこの世界の一日の始まりです。


 次に第三の神々がやってきます。第三の神々に敗れた第二の神々は海の彼方へと去っていきます。


 第三の神々はこの世界に草木を生やすと、次に動物を創り大地に解き放ちます。


 やがて世界が我々の良く知る世界へ姿を変えると、第三の神々は自分達の元いた世界から我々の祖先を連れて来ます。


 第三の神々は我々の祖先にこの地を支配するように告げると自らは元いた世界へと帰って行きました。


ーーーーーーーーーー


 我々人間が共通の言語を話すのは第三の神々の世界にいた共通の祖先を持つからだと言われています。

 全てはこの神話が元になっているのです。


 ちなみに現在我々が信仰している神は全て第三の神々です。当たり前と言えるでしょう。私達にこの世界を与えて下さった神様なのですから。

 例外として僅かながら第二の神々を崇める者達もいます。

 彼らは、第二の神々がいつか海の向こうから戻ってきて再びこの世界を支配する、と言っています。

 そんな内容ですから第二の神々を崇める者達は邪教信者扱いされています。


 しかし、そんなふうに第二の神々を崇める人達すらいるというのに最初の神を崇める人はいないのです。

 我々に対して何もせず石のようにただそこに佇むだけの存在には信仰心が刺激されないのでしょうか?


 ですが神話を良く読んで下さい。


 第三の神々は元いた世界に帰って行きました。

 第二の神々も海の彼方へ去って行きました。

 最初の神は第二の神々によって大地に閉じ込められました。


 そう、最初の神だけは今でもこの世界に残っているのです。


 私はダンジョンこそ、この最初の神に関わりのある”何か”ではないかと予想しています。

 そして私のスキルはその秘密を解き明かすために天から与えらえれた物だと確信しているのです。




 私は幼い頃、ちょっとした出来事がきっかけで、あるスキルを得ました。

 それはスキル:観察眼というものです。

 これは大変便利なスキルで、このスキルのおかげで私は大きなケガもしたことがなければ他人に騙された事もありません。

 このスキルで困ったことがあるとすれば、私は周囲からスキル頼りで物事をしっかり考えない娘だと思われがちなことくらいでしょうか。

 決してそんな事はないんですけどね。私はこう見えてもしっかりしていますから。



 母の実家に帰った私はこのスキルを活かして「ダンジョン研究家」としてやっていくことにしました。

 具体的な内容は決めていませんが、私の夢であるダンジョンの秘密を解き明かすことを叶えながらそれを仕事に出来る一石二鳥なお得なお仕事です。

 画期的なアイデアに私は内心夢中になっていましたが、残念なことに仕事の依頼はどこからもきませんでした。

 ダンジョン研究家としての私の仕事は最初から暗礁に乗り上げてしまったのです。



 しばらく家で暇を持て余していた私でしたが、どうも父が見かねて手を回してくれたみたいです。

 私はスタウヴェンという町のデ・ベール商会の所有するダンジョンの調査の仕事を受けることが出来ました。

 え~と、町のダンジョンであって、デ・ベール商会のダンジョンでは無かったかもしれません。

 まあどちらだったとしても私には関係のないことですからね。

 9階層しかない小さなダンジョンだそうです。

 私としては若干の物足りなさを覚えましたが、最初の仕事はこのくらいの方がむしろ手ごろなのかもしれません。

 私は気持ちを切り替えて調査に専念することにしました。



 スタウヴェンの町は父のケーテル男爵領の端にある小規模な町でした。

 ダンジョン自体は昔から見つかっていたものらしく、そのダンジョンを産業として割と古くからある町なんだそうです。

 古いダンジョンですか。新しい発見は期待できそうにありませんね。

 切り替えたはずの気持ちが早くも萎えるのを感じました。

 

 お店に案内されてお会いしたデ・ベール商会の当主さんは私とさほど年齢の変わらない切れ長の目をした男性でした。


 ああ、貴族にもこういう人はたまにいましたね。


 これが最初に彼と出会った時の私の感想です。

 私はスキル:観察眼で子供のころから多くの貴族を見てきました。

 デ・ベール商会の当主さんは若手貴族の方にたまに見るタイプの人物でした。


 上昇志向の強い自惚れ屋さんです。


 自分に才能があると信じ込んでいて他人を常に自分より下に見ている人ですね。

 商会の当主にもこういう人がいるとは思いませんでした。

 商人って大抵もっと他人に対して割り切って、一線引いている人が多いんですけどね。

 相手を”人間”ではなく”客という人間”として見ていると言うか。

 この人はちょっとギラギラしすぎているというか、権力志向が強すぎです。

 こういう人が当主でこの商会は大丈夫なんでしょうか?

 まあ私には関係のないことですけどね。


「あなたのお噂はかねがね耳にしていますよ。今回の調査には期待しています。」


 大変慇懃かつ紳士的な対応ですが、私のスキルは誤魔化せないんですよね。


 貴方私をバカにしていますよね?


 そうでした。このスキルの問題点はこういう人の侮りや悪意に気が付いてしまう事です。

 私が年頃になってからは男性の性的な好奇の視線も気になりましたね。

 もうあまり気にしないようになっていましたが、しばらく母方の屋敷に引きこもっていたので忘れていました。



「”えれべーたー”ですか?」

「ええ。ボスマン商会ではそう呼んでいるようです。」


 デ・ベール商会の当主さんの話に私は大変驚きました。

 凄いことを考える人がいるものです。


 デ・ベール商会ではダンジョンの天上に穴を空けて地上から直通する道を作る計画があると言うのです。

 道、というよりは井戸のような縦に長い穴を空けて、そこに水桶の代わりに人間の入る籠をたらして、地上からダンジョンの奥に直接人間を送り込もうと言うのです。

 今回の調査の目的はそのための下調べだということです。


「ボスマン商会のアイデアを使うのは業腹ですが。」


 この仕組みは”えれべーたー”と言うそうで、この奇天烈なアイデアは王都で急成長しているボスマン商会が考案したものなのだそうです。

 すでに一部の港で実用済みの仕組みだそうで、デ・ベール商会はボスマン商会から技術者を引き抜いて今回の計画を立案したのだそうです。


「あなたの護衛をする者達を紹介しましょう。」


 当主さんの合図に入ってきた男の人達ですが・・・


 あ、これダメな人達だ。

次回「ダンジョン研究家フロリーナ ダンジョンの出会い」

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 『戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ』

 『私はメス豚に転生しました』

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