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その7 不幸な犬

 翌朝、ティルシアは陸に上がったトドのように転がってふうふうと喘いでいる。

 朝から食べ過ぎたのだ。


 というかコイツは昨日の晩メシでもこうなってしまったのを忘れたんじゃないか?

 こうなることを知っていて大量に作ってしまった俺にも問題があるのかもしれないが・・・


 だが俺の料理は孤児院時代のレシピで、大人数用の味付けしか知らないのだ。

 料理を作ったことのある人間なら分かると思うが、スープ料理は一人前や二人前の味付けより十人前の味付けの方が楽なのだ。

 何度か作っていくうちに俺が味付けに慣れるのが先か、ティルシアが食べる量を控えるようになるのが先か。

 どちらにしろしばらくはこの光景を見ることになりそうだ。


「じゃあ俺はダンジョン協会に依頼品を届けに行ってくるからな。」

「ぶひーっ。」


 俺の言葉にティルシアは奇妙な鳴き声で答えた。

 お前ウサギ獣人だろう。ウサギ成分はどこに行った?


 ティルシアがあの有様だと今日のダンジョン行きは中止だな。

 振ってわいた休みに俺は足取りも軽く昨日採取した素材をまとめた。

 ティルシアが見つけた扇風機型アーティファクトは置いて行くことにする。

 ぶっちゃけ二人分の素材は多すぎる上、コイツはティルシアが見つけた物だ。

 本人が売りに出すのが良いだろう。

 俺は苦労して荷物を抱えるとダンジョン協会へと向かった。




 カウンターの男は俺の運び込んだ素材を見て大喜びで出迎えてくれた。

 ご機嫌な男に向かって「今日はティルシアがダウンしているので依頼を受けずに帰る」と告げると愕然とした表情になった。


「1階層の依頼だけでも受けないか?」


 それなら一人でも受けられるが正直この二日ほど働きすぎだ。

 鬼の居ぬ間になんとやら。俺はすっぱりと男の依頼を断った。

 男は大袈裟に肩を落とす。

 そんなに依頼をこなして欲しいのなら他のヤツに頼めばいいだろうに。

 現役時代に親しくしていたヤツとかいないのだろうか?

 俺は男に背を向けるとダンジョン協会を後にした。




 ダンジョン協会を出た俺はぶらぶらと町中を歩く。

 何か目的があるわけではない。久しぶりの解放感を味わっているのだ。

 目についた店に冷やかしに入り、屋台の料理に目をやる。


 どうせ今後もたまに料理をするのなら、この機会に日持ちのする食材を買い置きしておいても良いかもしれない。


 そう思い付いた俺は干した野菜や豆類を売っている出店を梯子する。

 そうこうしているうちに、そろそろ昼も過ぎたころだろうか。

 予定より買い込んでしまった食材もいい加減荷物になってきた。

 俺はそろそろ買い物を切り上げて家に帰ることにした。

 俺は豆を買った店で煎ってもらった豆をかじりながら歩いていたが・・・


 通りを歩く二人の男の姿に足を止めた。




 二人の男はドレッドロックスの大男、ヘールツの取り巻きのうちの二人だ。

 片方はいつも最初に絡んでくる小者臭の強い男。もう一人は・・・印象には薄いが顔は覚えている。奴らの仲間に間違いはない。

 二人はなぜか犬を連れて町外れの方向に歩いて行く。

 犬は町の外の農家などでよく見るタイプの大型犬だ。


 ヘールツ達はダンジョン夫達とダンジョンの調査に入っていたんじゃないのか?

 いや、ヘールツともう一人は今でもダンジョンにいるのかもしれない。


 コイツらは一体何をする気だ?


 どうせろくでもないことに決まっているだろうがな。


 俺は男達に気付かれないように十分距離を取りながら尾行することにした。

 二人は特に警戒することもなくぶらぶらと町の外まで歩いて行く。

 流石に町から出るとは思わなかった俺は少し焦りを覚えた。


 まさか俺の尾行に気付かれているのか?

 だが、仮に俺の尾行に気が付いていたとして、わざわざ町の外まで俺を連れ出す理由が分からない。


 それはさておき、町中なら人混みに紛れて尾行も出来たが、町の外ではそうはいかない。

 俺はより慎重に距離を取りつつ奴らの尾行を続けた。


 やがて二人は大きな岩の向こう、町から見えない位置に回り込んだ。

 残念ながら周囲には身を隠すような場所はない。


 これ以上の尾行は無理か・・・


 危険を冒す必要はない。俺は町に引き返すべく振り返ろうとした。

 その時ーー


 犬の悲鳴が辺りに響いた。




 どうせろくでもないことに決まっているだろうがな。


 そう思った俺の考えは当たっていたようだ。嬉しくも無いな。

 それに、よもやこれほどろくでもないことだとは思わなかった。

 男達は犬をなぶり殺しにしだしたのだ。


 まさかわざわざ町の外まで犬を殺するために来たとはな。


 男達の趣味の悪さに俺は胸のむか付きを覚えた。


 この不愉快な行為に特にご執心だったのは例の小者男の方だった。

 犬の悲鳴に男達の下劣な言葉。

 犬の鳴き声が聞こえなくなったのは、一方的な暴力が振るわれて30分近くたったころだった。

 俺はその間気分が悪くなるのをずっと耐えるしかなかった。



 二人はゲラゲラと笑い合いながらなおも犬の死体を弄んでいるようだった。

 やがてその行為にも飽きたのか、奴らは俺が身を隠している木のそばを通って町に帰って行った。

 やはり俺の尾行には気が付いていなかったようだ。

 お楽しみの最中にそれどころではなかったのかもしれない。



 俺は男達が去ったのを確認すると岩の後ろに回り込んだ。


 そこにはズタズタにされた犬の死体がころがっていた。


 いや、犬の死体の一部分か。

 俺はあちこちに散らばった犬の体を集めた。

 それから苦労して固い地面を掘ると不幸な犬の亡骸を埋めてやる。


 これでようやく耐え難い長く不愉快な時間が終わった。

 だがあの二人が機嫌よくペラペラと語ってくれたおかげでデ・ベール商会の目論見を大体把握することができた。


 あいつらには直ぐに後を追わせてやる。


 俺は犬の墓に手を合わせて拝んだ。日本風だが勘弁してくれ。俺はこの世界の宗教に詳しくないからな。

 もう日も傾きかけている。流石にティルシアも復活しているはずだ。

 俺は立ち上がると不愉快な現場を後にする。

 俺はティルシアに説明するために、さっき聞いた話を頭の中で整理しながら家に向かうのだった。 

次回「ダンジョン研究家フロリーナ スタウヴェンの町へ」

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 『戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ』

 『私はメス豚に転生しました』

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