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その5 ダンジョンの出会いは間違えているのだろうか?

 俺とティルシアはカウンターの男の依頼を受けて中層を歩いている。

 幸い他のダンジョン夫達は違うエリアを調査しているみたいで今のところ誰にも出くわさない。

 日頃この辺りを徘徊しているモンスターもいないことから、さっきまでこの辺で戦っていたのかもしれない。

 だとすれば今は別の場所に移動したのだろう。

 どちらにしろ俺としては助かった。この分だと余計なトラブルに巻き込まれずに依頼が果たせそうだ。


「おおっ! なあハルト、これってアーティファクトじゃないか?!」

「マジかよ。ツイているな、コイツは割と良い値で売れるぞ。」


 ティルシアが見つけたのは鞄ほどの大きさの魔道具。

 ダンジョンの中ではこういう魔道具が完成状態で手に入ることがまれにある。

 それらはアーティファクトと呼ばれる。

 ちなみにティルシアが見つけたコイツは言ってみれば魔道具版・扇風機だ。

 中層では滅多にお目にかかれない大物だ。

 見つけたヤツは厄除けに協会で全員に一杯奢る習慣がある。


 ちなみにこの扇風機型魔道具は金持ちに高く売れるし大手の商会も店に置きたがる。

 その上、可動部のあるタイプのために使っていればどうしてもいつかは壊れる。

 つまり常に需要のある魔道具ということだ。


 ティルシアはホクホク顔で魔道具をロープで縛ると肩に担いだ。

 しかし、ダンジョンに入って数回でこれほどの大物を引き当てるかね。

 もちろん俺が下りるような深層のさらに先(・・・・・・・)に行けばこの程度の魔道具はゴロゴロ転がっている。

 だが中層で見付けるとなると話は別だ。

 例えるなら俺が10連課金ガチャを回して手に入れるアイテムを、ティルシアは数回ノーマルガチャを回しただけで手に入れたようなものだ。

 俺は世の中の不条理に厭世的な気分に囚われそうになる。

 その時、誇らしげに揺れていたティルシアのウサ耳が何かにピクリと反応した。


「ハルト、誰か近づいてくるぞ。」


 ちっ、マズいな。

 俺はとっさにどうにかしてティルシアの魔道具を隠せないものかと考えた。

 難癖を付けられて絡まれることを恐れたのだ。

 だがティルシアの実力を考えれば、最初からそんな心配をする必要はなかったのだ。

 長年の習慣で俺はついそういう発想をするようになってしまっていたようだ。


 俺が無用な心配をしている間にそいつは真っすぐこちらに近付いて来た。

 すぐそばの角から無造作に顔を覗かせる。


「! アンタは!」

「あらっ? ええと・・・貴方達は。」


 現れたのはワンレングスの髪形のOL風の女。数日前ダンジョンで出会ったフロリーナ・フェルヘイ。

 デ・ベール商会のダンジョン研究家の女だ。




「貴方達って前にダンジョンで会いましたよね? やっぱりダンジョン夫だったんですね。あれ? でも雇われた人達の中にはいなかったような。あ、ひょっとして後から依頼を受けて追いかけてきたのかしら?」


 女ーーフロリーナは俺達を前に一人でまくし立てた。

 何ともやり辛い女だ。俺の苦手とするタイプだ。

 会話のきっかけを失い黙り込む俺に代わってティルシアが強引に口を挟んだ。


「そんなことよりどうしてお前はこんな所に一人でいるんだ?」


 フロリーナはティルシアの言葉にポンと手を打つと


「そうそうそうでした。さっきまで皆さんと一緒にいたんでした。あら? でもどうしたんでしょう、また私一人になってしまいました。私これでもしっかりしている方なんですけどたまにこうやって・・・」


 と、やはりまくし立てた。


 ・・・ダメだ、俺はこの女と相性が悪すぎる。


 俺はこの場から逃げ出したい気持ちを抑えるのに精一杯で、フロリーナの話は右から左に聞き流して全く頭に入ってこなかった。


「ふーむ。つまりお前はみんなとはぐれて迷子になったんだな。」


 ティルシアはフロリーナの言葉にふむふむと頷いた。

 俺は愕然とした。

 ティルシアが俺と違ってちゃんとフロリーナの話の内容を理解したことにも驚きだったし、あれだけ喋ったくせにたったそれだけの内容だったことにも驚いたのだ。


 ティルシアが判断を求めるように俺を見た。

 ダンジョンの中での事は俺に任せるということだろう。


 正直言って関わりたくない。


 だが放っておくことも出来そうにない。

 俺はしぶしぶフロリーナの前に立った。


「あ~と、フロリーナさん?」

「あら? 私自分の名前を言いました?」


 フロリーナが首をかしげる。

 しまった! 俺は自分の迂闊さに舌打ちをしたい気持ちを堪えた。


「それとも他のダンジョン協会の人達に聞いたのかしら? え~と、それで何かしら?」


 どうやら彼女の疑問は彼女の中で瞬時に解決したようだ。

 俺はそのことに安堵すると共に気持ちを引き締めた。


「俺達はアンタの依頼と別口の依頼でダンジョンに入っている。」

「ええっ?! でもヘールツさんはこの町のダンジョン協会の方達全員に依頼をしたって言ってましたよ?」

「俺は・・・その、依頼の条件を満たしていないんだ。だから声がかからなかったんだ。」


 するとフロリーナはさも意外そうにこう言った。


「おかしいですね。貴方はこの町で一番階位(レベル)が高い人なんじゃないんですか?」



 

 フロリーナのひと言に俺は呼吸が止まった。

 俺の背後のティルシアも俺同様に衝撃を受けたようだ。

 見ないでも彼女の緊張が伝わってくる。


「あれっ? でもおかしいですね。」


 俺達の反応などお構いなしにフロリーナは言葉を続けた。


今日は(・・・)違うみたいですね。おかしいな、以前に会った時はこうじゃなかったような・・・私の勘違いだったのかしら。」


 フロリーナの言葉に俺は背中に嫌な汗が噴き出すのを感じた。

 確かに今日の俺はあの日の俺とは階位(レベル)が違う。

 あの日の俺は確か階位(レベル)12だったはずだ。

 だが今日の俺はここまで一度しか戦闘をしていないため階位(レベル)2でしかない。


 この女は危険だ。


 今この場で殺しておくべきだ。


 自分の安全のためにはそうした方が良い。いや、そうするのが最善手だ。

 俺達はなぜかたまたま彼女が一人の時に限って出会うものの、おそらくいつもは階位(レベル)5の男、ヘールツが護衛に付いているはずだ。

 町に戻ると手が出せなくなる。

 俺のスキル:ローグダンジョンの力であれば、ダンジョンの中でならいくらヘールツ達が護衛していようがまとめて皆殺しにすることは可能だ。

 だがそうした場合俺は間違いなくデ・ベール商会に目を付けられる。

 

 こうなってくるとここまで戦闘を避けてきたことが悔やまれる。

 階位(レベル)2の戦闘力程度では殺し切れずに逃がしてしまう危険性がある。

 せめて階位(レベル)5以上は欲しかった。


 俺の緊張がティルシアに伝わったのだろう。彼女が息を呑む気配を感じた。

 俺はなるべく自然に見えるようにゆっくりとフロリーナとの間合いを詰める。

 フロリーナはまだ何か喋っているようだが、すでに俺には彼女の言葉は意味のない音の羅列にしか聞こえない。

 それほど神経を研ぎ澄ませているのだ。



 その時、ふとフロリーナは言葉を切ると俺をじっと見つめた。


 猛烈に嫌な予感を感じて俺は動きを止めた。

 理屈ではない、直感だ。


 フロリーナはそんな俺に対して訝し気に首を傾げた。

 俺は彼女の視線から目を反らす。

 俺の額に汗が浮かぶ。

 フロリーナはそんな俺の顔をじっと見ている。


 緊張を強いる時間は長くは続かなかった。フロリーナを捜す男達の声が聞こえてきたのだ。


「あ。みんなが捜していますね。ではご機嫌よう。」


 フロリーナは軽く微笑むと来た道を戻って行った。

 俺は息を吐くと額に浮かんだ汗を拭った。


「ハルト、お前あの女を殺すつもりだったな?」


 ティルシアが俺に尋ねる。硬い声だ。俺を非難しているのか?


「ああ。だが出来なかった。」

「? 大して階位(レベル)が高そうにも見えなかったが?」


 俺は振り返らずにティルシアに答えた。


「あの女は間違いなく俺の殺気を読んでいた。彼女のスキルの力だ。一刻も早くあのスキルの正体を知らなければいけない。そうしなければいずれ俺の秘密は丸裸だ。」


 それだけは何としてでも避けなければならない。

次回「フロリーナのスキルの正体」

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もしもこの小説が気に入って貰えたなら、私の書いた他の小説もいかがでしょうか?

 

 『戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ』

 『私はメス豚に転生しました』

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