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その1 青木晴斗

 俺の名前は青木晴斗(はると)

 名前から分かる通り、俺は日本からこの異世界にやってきた転移者(・・・)だ。


 当時中学生だった俺は気が付いたらこの世界に飛ばされていた。

 それからこの世界の様々なクソッタレな洗礼を受けたわけだが、いちいち思い出すのも不愉快なので説明は勘弁して欲しい。

 俺はボロボロになったところをこの町の孤児院に拾われた。


 俺はそこで2年ほど過ごした。いい加減孤児院を出なくてはいけない年齢になった俺は、この町のダンジョン協会に所属した。この世界に何の後ろ盾もない俺には、他に就ける職業も無かったからだ。


 この世界は俺たちが想像するゲームのような世界だ。

 魔法もあればモンスターもいる。

 モンスターを倒せばレベルアップもする

 そしてダンジョンもある。


 ダンジョンもゲームでよくあるダンジョンを想像してもらえばいい。

 迷路があり、罠があり、モンスターが徘徊している。

 下の階層に降りれば降りるほど強い敵が出てくる。そんな場所だ。


 ダンジョン協会に所属している者は「ダンジョン夫」と呼ばれる。

 炭鉱で石炭を掘るのが炭鉱夫、ダンジョンでモンスターを倒したり、資源を集めたりするのがダンジョン夫だ。


 ダンジョンは町の外れにある。

 建前上は誰でも入ることができるが、暗黙の了解でダンジョン協会に所属している者しか入れない。

 ダンジョン協会はそのためにこの町の領主に高い税金を払っているのだ。要は利権の独占だ。

 従って協会のダンジョン夫以外がダンジョンに入っているところを見つかったらトラブルは免れない。



 この世界にはレベルアップがあると言ったが、スキルというものもある。

 レベルと違って、スキルは必ずしも全員が持っているわけではないが、本人の資質に合った行動を取っていれば生えやすい傾向にあると聞く。

 孤児院の俺の仲間は「料理人」というスキルを生やしたヤツもいる。

 料理を作るのが得意だったヤツだ。

 そいつは今は町の料理屋で働いている。


 ダンジョン夫になり、初めてダンジョンに入った時、俺は言い知れぬ衝撃を受けた。

 突然俺のなかにスキルが生えたのだ。


 それがスキル「ローグダンジョンRPG」である。




 商人マルティンがダンジョン内で行方不明になったらしい。

 あいつには孤児院時代に借りを作っている。

 今まで借りっぱなしだったが、返すつもりがないんじゃない。その機会がないので仕方なく借りてやっていたんだ。

 いつまでもそのままにしておくつもりは無かった。

 俺はこのクソのような異世界が大嫌いだ。

 だからここに住む人間に借りを作ったままにしておきたくない。


 俺は協会の建物を出ると、ダンジョンに入る準備を整えるために一度家に帰る事にした。

 ところが、なぜか獣人の少女も俺の後を付いてくる。

 マルティンの奴隷、ウサギの耳を持つ少女だ。

 日本でいえば中学生くらいの少女だ。


「何か用か?」

 

 俺は足を止め、少女に尋ねた。

 さっき礼を言っただけでは足りなかったんだろうか?

 この世界の奴らは強欲だ。情報料を要求するつもりかもしれない。

 それは少し困る。俺は貧乏だ。


「ご主人様を助けに行ってくれるのですよね?」

「無事なら助ける。死んでいたなら遺品くらいは持って帰る。流石にダンジョンから人一人の遺体を持って帰ることはできないからな。」


 死体を背負ってダンジョンを歩いて帰るなんてゴメンだ。

 ゲームのように、インベントリーに丸ごと仕舞ったり、ダンジョンの奥に直通するエレベーターがある、というわけじゃないんだ。


「なら私も付いて行きます!」


 何を言っているんだコイツは?


 1階層くらいならともかく、3階層より下のダンジョンに潜ることになる以上、第三者に俺のスキルの効果を隠すことはできない。


 俺はこの世界の奴を信用しない。

 スキルは俺の最大の武器であり弱点だ。

 知られる危険を冒すわけにはいかない。


「さっきの奴らの話を聞いただろう。俺は階位(レベル)1のザコだ、お前を護衛する力は無い。」

「でも3階層のさらに下に行くんですよね? そこに行って帰って来る見通しが立つということは、安全なルートか何かを知っているのでは?」


 ちっ。頭の回るヤツめ。大抵のゲームだと獣人はAGIやSTRが高く、INTが低いというのが定番だが、この世界では獣人だからといって人間より頭が悪いということはない。

 むしろダンジョン夫の奴らは人間のくせに全員INTが低いくらいだ。

 要は本人の資質と幼いころの教育なのだろう。


「それを教えて俺に何の得がある? 情報は力だ。俺につきまとうな。」


 少女は少し驚いた顔をした。俺に拒絶されるとは思ってもいなかったのだろうか。

 虫の良い考えをするヤツだ。

 まだ幼いが顔立ちは悪くないし、奴隷にしては身なりも良い。

 今まで男からすげなく断られたことが無いのかもしれない。


「・・・どうすれば一緒に連れて行ってもらえますか?」


 いい加減面倒になってきた。コイツはここで自分が粘れば粘るほど俺の出発が遅れ、その分だけ主人の命の危険が増すとは思わないのだろうか?

 ・・・思わないからこうしてまとわりついて来るんだろうな。


 いっそのこと走って逃げるか、という考えが浮かんだが、俺は階位(レベル)1のクソザコだ。この少女は鍛えているようには見えないが、この年齢で階位(レベル)1ということはあり得ない。

 つまり俺は逃げ切れない。

 階位(レベル)1と階位(レベル)2の身体能力にはそれくらいの差があるのだ。


 その時、ダンジョンの方から鐘を鳴らす音が聞こえた。

 俺は少女に向け少し黙るようジェスチャーして耳を澄ませる。

 鐘は1・2・3、1・2・3、と打ち鳴らされる。


 このタイミングで三点打ちか。最悪だ。


 少女は俺の表情を見て首をかしげる。

 この町に住んでいても、ダンジョンの鐘が何を意味しているかなんて知らないのが普通だ。

 最近マルティンに付いてこの町に来たコイツが知らないのも無理はない。


 三点打ちは、俺達がダンジョンへ潜ることを禁止する合図だ。





 ダンジョンは領主が管理しているため、安全のため駐留兵が置かれている。

 彼らはダンジョンに出入りする人間を管理し、また定期的にダンジョンに入りモンスターを狩っている。


 ダンジョンのモンスターを狩るのはダンジョン夫の仕事じゃないのかって?


 俺達ダンジョン夫はガラの悪い荒くれ者ばかりだが、それでもただの一般人だ。

 兵士と違い、毎日戦う訓練をしていれば給料がもらえる、というわけにはいかない。

 鍛えても働かなければメシが食えないのだ。

 自然俺達の仕事は、いかにモンスターとの戦闘を避けてダンジョン内の資源を採取するか、というものになる。

 もちろん自衛のために武装もするし、モンスターと出会えば戦いもする。

 だが戦闘によってケガを負えば、明日からの食い扶持に事欠くことになる。

 そこが給料制の兵士と異なるところだ。


 三点打ちは、ダンジョンに駐留兵が入るという知らせだ。

 これが鳴らされるとダンジョン協会ではダンジョン夫がダンジョンに入ることを禁止している。

 薄暗いエリアや曲がり角などで、突然兵士と遭遇したダンジョン夫が兵士に切り殺される事例があったためである。

 日頃ダンジョンに入り慣れていない兵士は俺達と違って咄嗟の判断を誤るのだろう。

 いや、モンスターから逃げることを念頭に置いてダンジョンに入る俺達と違い、兵士はモンスターを殺すためにダンジョンに入っているのだ。

 日本でも山菜採りに山に入った人が鹿猟をしていたハンターに鹿と間違えて撃たれた事件があった。

 どの世界でも殺すつもりで武器を持った人間に不用意に近付くのは危険なのだ。


 俺はしばらくの間立ち止まって考えた。

 ここでの三点打ちとはあまりにタイミングが悪い。

 よほどマルティンは運が悪いのか、それとも・・・


 くそっ、胸糞が悪い。


 俺の想像通りなら今現在マルティンが生きている可能性はある。

 だがタイムリミットは近い。


 ーーー覚悟を決める必要がある。


 俺は少女に振り返った。


「あの鐘はダンジョンに駐留兵が入るという合図だ。これが鳴ると俺達はダンジョンに入れない。」

「そんな! それじゃ・・・!」


 だが、と、俺は言葉を続ける。


「お前が俺に命をよこすなら、お前を連れてマルティンを捜しに行ってもいい。」


 俺はこの女を殺す覚悟を決めた。

次回「探索準備」

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 『戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ』

 『私はメス豚に転生しました』

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