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エピローグ 原初の神

 俺は階段を下りると扉の前に立った。

 この場に似つかわしくない、流麗な装飾の入ったバカでかい扉だ。

 ここに来るのも随分と久しぶりな気がする。

 実際は一ヶ月も経っていないのだが、最近はマルティンを助けたりと色々あったからな。

 俺は扉に手をかけた。

 重厚な扉がゆっくりと開いた。



 部屋の中は相変わらず何も無かった。

 真っ白、でもなければ、真っ黒、でもない。

 突然視力が奪われたような「何も無い」である。

 最初はかなり慌てたものだが、もう慣れたものだ。

 俺は真っすぐ前に歩いて行く。

 もちろん何も見えない以上、本当に真っすぐ歩いているのかは分からない。

 だがこの場では歩くという行為自体に意味があるのだ。


 やがて目の前にポツンと幼女が現れた。

 まるで人形のような整った容姿をした無表情な幼女だ。


 俺は背中の荷物を下ろすと、中から小さめの布の袋を取り出した。

 俺はその袋を彼女の前に放り投げた。

 袋は放物線を描いて飛び、くぐもった音をたて地面に落ちた。

 その衝撃で袋の口が緩み、中から金貨がこぼれ落ちる。

 幼女は無表情にそれを見つめた。

 すると幼女の目の前で、金貨は袋ごと消えてなくなった。

 正直袋は返して欲しいが仕方がない。

 彼女の近くに行く勇気が俺には無いからだ。


「少しは力が取り戻せたか?」


 幼女はごくわずかに頷いた。

 それだけのことで俺の体に戦慄が走る。

 階位(レベル)45のこの体が、だ。


 そう、ここはダンジョンの最深部。

 最下層といわれている9階層のさらに先。


 ”現在の”最下層、40階層である。




 あの日、スキル・ローグダンジョンRPGに目覚めた俺は、ひたすら奥まで階層を進んでいった。

 正直、特に理由はない。

 進めるだけ先に進んでみる。その程度の感覚でしかなかった。

 そして俺は最下層といわれている9階層の先、最深部となる10階層に到達したのだった。


 なぜ昔の調査隊は9階層を最下層としたのかは分からない。

 調査不足で実際にそうだと思ったのか、領主に報告はしたが俺達一般人には9階層までと偽ったのか。

 どのみちそれ以来誰も9階層に入っていないため、誰もが9階層が最後だと思い込んでいたのだ。

 だが現実に10階層目はあった。


 階段を下りた先にあったのは冒頭でも説明したように扉だった。

 いや、あのころの扉は今よりもっと小さくみすぼらしかったと思う。

 中に入るとガランとした殺風景な大広間。


 その真ん中に石で出来た台座?があり、一抱えほどもある半透明の球が乗せられていた。


 ダンジョンコアか?


 俺がそう思ったのも無理はないだろう。

 ゲームや小説では、ダンジョンの奥にはそういうモノがあってダンジョンの管理をしているのだ。

 こういう時、大抵はダンジョンコアを守護するモンスターなりダンジョン・マスターなりがいて、侵入者に対して戦いを挑んでくるのがセオリーだ。


 しかし、ここには俺以外誰もいなかった。


 俺は恐る恐る台座に近付いた。

 すると、俺の接近を察知したのだろうか、突然球に無数のヒビが入った。

 驚く俺の目の前で、球の中から現れたのは・・・


 何もない


 そう、現在この部屋に満ちている「何もない」だ。


 その球は原初の神を封印したものだったのだ。




 この世界にも神話がある。ぶっちゃけ俺は詳しくないし、よくある感じの話なのでざっくりと説明する。


 最初の神があった。

 その神が世界を作った。

 そこに新しい神々が海を渡ってやってきた。

 神同士は戦い、最初の神はこの世界を去った。

 戦いに勝った新しい神々(チャンピオン)だが、次の新しい神々(チャレンジャー)がやってきた。

 新しい神々(チャンピオン)は防衛戦に敗北、海の向こうに去って行った。

 勝った新しい神々(チャレンジャー)は、自分達のしもべ達をこの世界に招いて使用人として世話をさせる。

 やがて長い時がすぎ、神々はしもべ達にこの世界を譲り渡すと自分達は元の世界に帰る。

 そのしもべ達が我々人間の祖先である。


 この時の神のしもべに、獣人や他の種族を含むかどうかで宗派が分かれていたりする。

 まあそれはこの際どうでも良い。要はこの世界を作ったのは今の神様ではないということだ。

 最初の神様、原初の神。

 しかもこの世界の人類にとっての神ではない。



 原初の神は今は力を失っている。

 まあ一度負けて世界を乗っ取られているのだから当然だ。

 「何もない」から分かるように、神は物質に依存しない。

 幼女の姿も俺に合わせて見せているだけだ。


 ・・・いや、俺が幼女好きというわけじゃないぞ。


 人間でいうと今はこのくらいの力しかない、というのを、原初の神は俺にも分かるように視覚的に表現しているのだ。

 その理屈でいくと全盛期の力を取り戻すと、ムキムキのマッチョマンになるのかもしれない。


 そんな神の力を取り戻すには、”認知の力”が必要らしい。

 いささか観念論的な話になるが、みんなが自分を認めれば認めるほど存在が増す=力が強くなる、のだそうだ。


 原初の神は俺に言った。


 私は自分では昔の力を戻す手段を持っていない。

 だがお前がそれをやってくれれば、その力でこのダンジョン最下層をお前の元いた世界、”日本につなげてやる”ーーと。


 


 正直、言葉の内容だけを聞くとかなり胡散臭い。が、どうしたわけか俺にはこの言葉が真実にしか思えなかった。

 俺が信じたかっただけ? いや、今ならそうじゃないことが分かる。

 物質に依存しない神的存在には、自分の言葉というのは自分の存在に通じる重要な要素なのだ。

 嘘をついて真実を歪めれば自分の根幹も歪む。

 神といえど万能じゃないのだ。



 さて、神の力を取り戻すといっても、俺にはどう認知の力とやらを集めればいいのか分からない。

 俺のスキルが「新興宗教の教祖」とかだったら、原初の神教を立ち上げてこの問題は一発解決かもしれないが・・・


 そこで無い知恵をしぼって考え出したのがこれ(・・)である。


 現代人が何をあがめているか分かるだろうか?

 そう、お金だ。

 見た事もない、力を貸してくれているのかも分からない神様より、具体的に自分の力になってくれるお金の方がありがたいに決まっている。

 神様に頼んでもガチャでSSRカードは出ないのだ。お金に頼ればいつかは出るがな。


 原初の神に試してもらったところ、手持ちのお金から認識の力を得ることが出来た。

 直接自身の認識を得るのとは違い、お金という物質に宿った力を間接的に取り入れるため、どうしてもロスが多くなるようだが、そこは数で補えば良い。


 その日以降、俺はせっせとお金を稼いでは、ダンジョンの奥まで原初の神に貢ぎに来ているのだ。




 「何もない」この空間が振動した。

 俺の渡したお金で少し力を取り戻した原初の神が、ダンジョンの階層を増やしたのだ。

 これで、次にお金を渡すには50階層まで潜る必要がある。

 原初の神の説明では、おそらく100階層目で日本につながるらしい。

 そうなれば俺はそこを通って日本に帰るだけだ。

 日本では俺は10年も行方不明になっている。正直、この状況で帰ることには不安もある。

 だが俺はこの異世界が大嫌いだ。

 ここよりマシな世界ならどこでもいいとすら思っている。


 それにダンジョンが日本につながる時は、原初の神が元の力を取り戻した時だ。


 原初の神はこの世界の人類の神ではない。


 今の人類は、原初の神がいない間に勝手にこの世界に住み着いた神々のしもべの子孫だ。

 力を取り戻した原初の神がこの世界の人類をどうするつもりか俺は知らない。

 どうせロクなことにはならないだろう。知りたくもないな。


 俺は振り返るとこの場から立ち去る事にした。

 次にここに来るのはまた纏まったお金が手に入った時だ。

 振り返る直前、視界の端で幼女がニヤリと笑ったように見えた。

 だが俺は気にしないことにする。



 俺が日本に帰った後で、この世界のヤツらがどうなろうと知ったことじゃないからだ。

ここまでで第一章が終わりとなります。


多くの作品の中からこの作品を選んで、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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 『戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ』

 『私はメス豚に転生しました』

― 新着の感想 ―
[一言] このダンジョンが日本に通じたら通じたで…って思ったけどマナに依存している魔物は地上には出る事が出来ないから、神に侵略の意思が無きゃただの資源の宝庫か
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