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その9 群体百足

「彼の今の階位(レベル)は23です。」


 マルティンの声に男達は静まり返った。

 ダンジョンの中に群体百足の蠢くカサカサという音と、グチャグチャという元人間が百足のエサになる音が響く。


 チッ・・・マルティンめ余計な事を言いやがる。


 やはりマルティンは俺を鑑定していたか。

 俺の視界の片隅にティルシアの驚愕している姿が映った。


 ティルシアも大分俺のことを怪しんでいたようだが、流石に階位(レベル)10超えとは思わなかったようだ。

 ウサギ耳の毛が逆立って一回り大きくなっている。こんな場面で俺を笑わせるつもりか。


「バカな! 階位(レベル)は10までと決まっている!」


 指揮官の取り巻きが叫んだ。

 そういえば取り巻きの数が2人に減っているな。俺が突き飛ばしたヤツはどうなったんだ?

 死んだのか気絶したのか。まあ今はどっちでもいいか。


階位(レベル)は伝説の剣豪が9であったという記録が残っているだけで、10になった者が確認されたことはありません。ならなぜ階位(レベル)が10までと言われているのでしょうか?

それは同様に階位(レベル)の存在する魔法アイテム、スクロールが階位(レベル)10までしか存在しないからです。」


 まあそういうことだ。

 階位(レベル)は1つ上がるたびに次の階位(レベル)に上げるための経験値がバカみたいに必要になる。

 現在知られているダンジョンでは、何年も最下層に籠ってモンスターと戦い続ける、みたいな非常識な方法でも取らない限り、普通の人間は階位(レベル)7とか8とかまでしか上げられないのだ。

 ちなみに階位(レベル)はサボってたり歳を取ったりすれば普通に下がる。

 要は肉体の衰えで下がるのだ。

 この辺はゲームとは違うところだ。ほとんどのゲームは上げたら上がりっぱなしだからな。


「貴様が言う通り階位(レベル)10の人間は確認されていない! なのに階位(レベル)23とは非常識だ!」


 指揮官の男がツバを飛ばしながら叫んだ。

 きたねえな。口の端からこぼれたツバが泡になって自慢の髭にこびりついていやがる。

 非常識もなにも、実際にここにいるんだから仕方がない。

 だがまあコイツの言いたいこともわかる。

 なぜ階位(レベル)1の俺が今は階位(レベル)23なのか。

 それこそが俺のスキル、ローグダンジョンRPGの能力なのだ。




 ローグダンジョンRPGというゲームジャンルを知っているだろうか?

 その名前は聞いたことが無くても、ゲームを遊ぶ人間なら「風来のシレン」というゲーム名くらいは聞いたことがあるだろう。

 入るたびに自動で作られる「自動生成ダンジョン」の中をひたすら先の階まで潜って行くというタイプのゲームだ。

 RPGというゲームは戦闘を繰り返すことでプレイヤーキャラクターがレベルアップして強くなっていく。

 だが一度ダンジョンから出て町まで戻ると、またザコのうろつく1階から始めなくてはならなくなる。一度辿った道のりをまた最初から繰り返すのは非常に面倒だ。

 大抵のゲームはその煩わしさを避けるため、すぐに元いた階までたどり着くための何かしらのショートカットが用意されてある。ユーザーに対する救済措置というやつだ。


 ローグダンジョンRPGの面白いところは、そういう救済措置を一切用意していないところだ。

 その代わりダンジョンの外に出てしまうと、どんなにレベルを上げていても1まで戻されてしまうのだ。

 これによってダンジョンに入る度に自分のレベルに応じた敵と常に緊張感を持って戦っていくことになる。

 もちろん毎回レベル1から始まるため、普通のRPGと違ってレベルはガンガン上がる。

 そのため、普通のRPGと違ってレベル上げにかかる戦闘数は非常に少ない。

 というか、大抵のローグダンジョンRPGでは空腹という行動を起こすたびに減るパラメータを用意してまで行動回数に制限を設けることで、プレイヤーが無駄なレベル上げに時間をかけられないようにしている。


 要は俺のスキルは


 毎回ダンジョンから出るたびにレベルが1に戻る。

 その代わりダンジョンの中では天井知らずにレベルが上がる。


 という能力なのだ。


 ちなみにレベルが上がると腹が減る。

 まあ、身体能力を底上げしてるんだからそれに使ったカロリーやらなんやらは必要だよな。




 グチャグチャペキペキという群体百足が獲物を咀嚼する音が次第に小さくなっていく。

 やはりこちらをロックオンしたな。

 敵意というか殺気というか、張りつめた気配を感じる。


「死にたくなければ、階段の奥まで下がって静かにしていろ。」


 俺は手を振って全員を下がらせた。

 ついでにマルティンを睨むのも忘れない。


 ーーこれ以上ソイツらにバラすなら、お前の「鑑定」もバラすぞ。ーー


 視線に脅しを混ぜてみる。

 俺の意図を汲み取ったのか、マルティンは顔面蒼白になった。

 ・・・いや、単に元日本人のメンタルには、床と壁一面の百足の群れはおぞましすぎて耐えられなかっただけなのかもしれない。

 ティルシアは前に出て俺と共に戦う意思を見せたが、俺の目を見て踏みとどまった。

 そう、お前はそれでいい。


「き・・・貴様ごときに命令されるいわれはない!」


 取り巻きの一人がお約束のセリフを吐いた。

 そう、この場にはまだコイツらがいるからな。

 ティルシアにはマルティンの護衛をしていてもらわなければならない。


 俺は隊長の取り巻き連中を見つめた。


 二人か・・・。ノルマ的に一人くらいは俺が引き受けておくべきか。


「よし、じゃあ今文句言ったお前、俺と一緒に行こうぜ。」

「なっ!」


 目にもとまらぬ速さで取り巻きの一人の後ろに回りこんだ俺は、そいつの両肩に両手を乗せた。

 突然現れた俺の姿に周囲の人間は驚愕の表情を浮かべた。

 俺は男を掴んだ手に力を込めるとーーー


「いっ・・・痛っっっ!」


 そのまま男を持ち上げた。


「「「「「!!」」」」」


 取り巻きの男は肩を襲う痛みに体を強張らせた。

 目の端から涙がこぼれる。


 大の大人をまるで洗濯物ように掴んだまま俺は階段を歩き出した。

 俺が一歩足を踏み出すたびに、その振動で掴んだブレストプレートの肩部分がミシミシと音を立てて今にも壊れそうだ。

 鋼の防具のくせに案外脆いな。


「痛・・・痛・・・は・・・放せ・・・。」

「ほれ、頑張れ、頑張れ。」


 俺は肩を襲う痛みに身動きの取れない男をぶら下げたまま、階段を上り切ると


 ガシャン!


 そこで男を開放した。

 男の視界全てを覆う群体百足の群れ。

 それはザワザワと蠢く黒い渦。辺りは夜のように薄暗い。

 あまりの百足の数の多さに、ダンジョンの壁の光が覆い隠されているのだ。


「さあ、行ってみようか。」

「ヒイイイイッ!」


 男は腰を抜かして座り込んだ。

 男の悲鳴に反応したのか、あるいは獲物からにじみ出る恐怖心に反応したのか。

 群体百足の小型種があっという間に男に襲い掛かった。

 半狂乱になって転がりまわる男。

 必死になって百足を払いのける。

 しかしそんな努力も数の暴力の前には焼け石に水。

 みるみるうちに男の全身は百足に覆い尽くされていく。

 百足は男の身体をはい回ると、やがて防具の隙間を見つけて次々と入り込み出した。


「はっ! はっ! はっ! やめ・・・助け・・・お願い・・・ぎゃひゃはああわあああああああっ!! 」


 身体を内側から食い破られる痛みに男は声の限りに絶叫する。

 さらに口から百足に入られたのか、両手で喉をかきむしった。


 男の絶叫はやがて意味のない音となり、男は絶望の中百足の渦に飲み込まれた。

 そうしてダンジョンにまた獲物を咀嚼する音が響き渡るのだ。


 ああ、胸糞が悪い。 

次回「群体百足との闘い」

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