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第一話 慈愛のアルターエゴ

初めまして。飴宮サトウと申します。

普段は別名義で花札遊戯屋さんの大乱闘ゲームの二次創作を書いています。

新たなる試みである一次創作、飽き性な自分がどこまで続くか分かりませんが楽しんでいただけると幸いです。

 いつも通りの夕暮れだった。

 荷物をまとめて、一人の少女は帰る準備をしていた。

 ――校庭から、部活動をしている少年少女の声が聞こえてくる。

 しかし、これは少女にとって他愛もない事だと、すぐに聞き流した。

 少女がカバンをもって席を立とうとした――その瞬間だった。


 窓の外に、一筋の光が見えた。

 それは――空中ではじけると、無数の小さな光となって降り注いだ。

 ――この明けの宮高校の校庭も、例外ではなかった。


 こちらに向かってくる光。

 少女は、慌てて窓際の席から荷物をもって離れた。

 ――窓ガラスが割れる。衝撃が走る。

 たまらず、少女は転んでしまった――




 どれくらいの時が経っただろう。

 割れた窓から外を見ると、所々に黒煙が立ち上っている。

 うっすらと、少女は目を開ける。

 二つの黒い影が、視界に入った。


 目を凝らす。

 黒い影は、武器のようなものを持っている。

 巨大な刃物だ。――きっと、こいつらは。


「うわああああああああああああああああ!」


 たまらず、少女は叫んだ。

 すかさず立ち上がって、そこから逃げた。

 ――足の痛みなど気にもしないで。


 走る。走る。走る。

 息が切れようが、足が痛もうが、彼女には関係ない。

 ただ、無我夢中で廊下を走り、階段を駆け下りた。

 走って、走って、走って。

 昇降口にたどり着いた――が。


「あっ!?」


 バランスを崩し、少女は転んでしまう。

 よく見ると、脚にはガラス片のようなものが刺さっている。

 きっと、窓ガラスが割れたのに巻き込まれたのだろう。


 ――逃げたと思ったんだけどな。


 ふと、走って来た道に目をやる。

 黒い影は、もうそこまで追いついていた。

 ――一人の影が、刃物を振り上げる。


 もうだめだ。ここで、ころされるんだ。

 少女は、そう思って目を閉じた――


 が。


 ずしゃり。

 人肉が斬られるような、不愉快な音がした。

 しかしそれは、目の前から聞こえてきた。


 ゆっくりと、少女は目を開けた。

 ――そこには。


 血まみれの白衣を纏い、口を覆うタイプの黒いガスマスクを着けた少女が、先端の錆びた巨大なメスで影を切り裂いていた――


「え――」


 まるで訳が分からなかった。

 それはとても恐ろしい光景だった。

 それなのに、どこか安心できるのはなぜなのだろう。


 切り裂かれた影が、床に伏す。

 そうして、光の粒子になって消えていく。

 もう片方の影も白衣の少女に襲い掛かるが――


「はぁっ!」


 白衣の少女は、どこからともなく巨大な注射器を取り出し、黒い影を突き刺す。

 そうして、どろどろとした紫の薬品らしきものを注入すると――黒い影は、爆ぜるように四散した後、光の粒子となって霧散した。

 ――ふう、とため息を吐いて、白衣の少女はガスマスクを外して首にかける。


 少女は、目の前の光景を呆然と見ていた。

 理解が出来なかった。

 まるで自分が、物語の世界に迷い込んだような――そんな錯覚を感じていたのだ。


「大丈夫ですかー?」

「うわあああ!?」


 が、目の前の白衣の少女の声に、これはまぎれもない現実なんだ、と叩きこまれたような感覚を覚える。

 ――次の標的は自分だ。間違いなく殺される。

 そう思った少女は、思わず思いのたけを吐き出した。


「お、お願いですから殺さないでください! 僕を殺しても……どうにもならないから!」

「……ふっ、あっはは」


 少女は必死に命乞いをした。

 しかし、そんなことすら笑い飛ばすかのように、白衣の少女はからからと笑う。


「なーんか勘違いしてません? 命の恩人に――ましてや自分のアルターエゴにそんな言い草とは聞いて呆れますよ」

「え――?」


 ――命の恩人? アルターエゴ?

 ――この子は――何を言ってるの?


 少女の頭は混乱していた。


 ――さっきから非現実の連続で頭が痛いような気がする。本当に僕、物語の世界に迷い込んじゃったのかも。

 ――あるいはこれが全部僕の妄想で、神様が悪戯で僕の妄想を本当にしちゃった――とか?


「あー、理解できないって感じですね? まあ非現実なことですし、気持ちは分かります」


 コツ、コツと靴音を鳴らし、白衣の少女は少女へと近づいてくる。

 そうして、しゃがみこんで――少女の脚の一点に視線を向けた。


「あ、脚にガラス刺さってますねー。ちょっと動かないでくださいよー。治しますんで」

「え? え!? ちょっと!?」

「動かないでくださいねー」


 そうして、白衣の少女は――どういうことか、少女の唇を奪った。

 ――時が止まったかのような錯覚。そのまま、少女はカチンと凍り付いたように固まってしまった。


「よし、この隙にっと」


 白衣の少女は、少女の脚に刺さったガラス片を抜き、止血処理をして――傷口にガーゼをあてがい、包帯をぐるぐると巻いていく。


「できましたよー……ってありゃ」


 ぎゅ、と包帯を縛り、白衣の少女は少女の顔へと視線を移す。

 相も変わらず、彼女は凍り付いたように固まって動かない。


「あー、麻酔効かせすぎちゃいましたかねー……?」


 流石にやり過ぎたかも。

 そんな表情を浮かべる白衣の少女。

 それから程なくして、少女の意識が戻った。


「もうわけわかんないんだけど!」


 と、思った矢先に少女は白衣の少女の肩を掴み、まくし立てた。


「わけわかんない黒い奴は襲ってくる! わけわかんない女の子つまり君が僕を助けたと思ったらファーストキスを奪ってくる! 何が起きてるのか教えてくれたっていいんじゃない!?」

「あー……もっと早く説明するべきでしたねー。ごめんなさい」


 流石にこれは堪えたようだ。白衣の少女は一瞬目をそらし、そして真剣な表情で少女に向き直った。


「まず最初に、貴方は剣城玲徒(つるぎれいと)で間違いありませんか」

「え? え、そうだけど……それが何か?」


 白衣の少女に訊かれるまま、少女は戸惑いつつも自らの名前だと答える。

 剣城玲徒。少女の名前。なるほど、と一言言うと、白衣の少女は頷いた。


「ふう。ってことは私のエゴイストで間違いないみたいです」

「だからそのエゴイストとかアルターエゴって何なの!」

「おっと失礼。私は貴方の願望から生まれた慈愛のアルターエゴ、レティシアって言います。気軽にレティでいいですよー。今後ともよろしく」


 そういって、白衣の少女――アルターエゴ・レティシアは玲徒へと手を差し伸べる。

 が――玲徒はその手を振り払ってしまった。


「まずエゴイストとかアルターエゴとかについて説明して」

「あら、そうですかー。説明してくれたら私のこと信じてくれます?」

「信じる。だからそれまで君のこと信用しないからね」


 疑念深い眼差しで、玲徒はレティシアを見つめる。

 レティシアは少し考えた後、昇降口の出口に向かって歩き出した。


「合流するべき人がいますんで、彼女と合流したらでいいですかー?」

「いいけど、説明するからにはちゃんと説明してよ」

「はいはーい。きちんとついてきてくださいねぇ」


 歩き出すレティシアに続くように、玲徒は靴を履き替えて彼女の後を追う。

 そうして、校門付近へとたどり着いた。

 ――そこには。玲徒にとって、よく見慣れた顔があった。


「玲徒ちゃん!」

理来(りく)! ってことは、理来もアルターエゴとやらにあったの!?」

「ああ。っていうか、隣にいる」


 茶色の無造作な短髪。澄んだ水色の瞳。見慣れた学ラン。

 ――玲徒の同級生にして幼馴染の、浅海弥理来(あさみやりく)だった。

 彼の言う通り――その隣には、現実離れした薄黄緑の髪をポニーテールにした、緑の瞳のエプロンドレス姿の女性が立っていた。


「彼女はルチア。アルターエゴ……なんだって」

「アルターエゴ……レティシア以外にもいるんだ……」

「当然ですよー? 抑圧された感情の持ち主だけアルターエゴはいるんですから」


 ルチア。そう呼ばれたアルターエゴの女性は、柔らかな笑顔を玲徒たちに向けた。

 そこで、ある違和感が玲徒を襲った。


 ――なんか理来のお母さんに似てる、ような――?


「ルチアさんはですね、母性のアルターエゴなんですよー」

「ってか知り合いなの、レティシア。僕は初対面なんだけど」

「まーそんな認識で構いませんよ。あとなるべくレティって呼んで欲しいです」

「あー、はいはい」


 何処か自慢げなレティシアを軽くあしらい、玲徒は今か今かと説明を待ち望んでいた。


 ――さっきから何が起きているのか理解できない。もしかしたら、理来のように僕と同じ境遇に遭ってる人もいるのかも。


「ってことで役者もそろいましたし、説明に入りますか」

「ええ、そうしましょう」

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