豚の世界
「ここはどこだ?」
気付いたら知らない場所にいた。
「学校返りだったはずなんだが...」
学校帰り、電車から下りたら知らない場所だった。
後ろを振り返ると、電車はもうない。というか、電車から見てた景色と、今俺がいるところが違う。
「ワープ?そんなもの本当に存在したのか?」
あまり信じられないが、とりあえず飲み込む。
「きっと電車の中で寝てて、今は夢の中なんだな」
取り合えず俺は歩くことにした。そしてしばらく歩く事数分。
「うーん、夢じゃないっぽいな。ほっぺつねっても痛いし。そもそも覚醒してる時って感覚でわかるもんな」
俺はこれが現実だという事を理解した。
「お、家がある、入ってみよう」
まずはあの家に行って情報収集をしよう。
インターフォンがなかったので、ドアを叩いた。
「すいませーん!」
「はぁい」
ドぶとい声が聞こえたが、おっさんか?
「はい、どなたですかー?」
そして扉を開くと。
「…な、なんだ!?」
豚が、いた。
なんだ、この豚は。
「あら人間じゃない。あなたー!食材よ、来てー!」
なんだ、なんだ。ブタがしゃべってる?
取り合えず逃げよう。
俺は走った。何となく身の危険を感じた。
そして、気味の悪いものを発見してしまった。
「に、にんげん・・・!?」
人間が、いた。
ざっと4,50人くらいだろうか。
大勢の人間が、素っ裸で鎖の中にいた。
まるで、家畜のように。
「なんだ、なんだなんだ!?」
めちゃめちゃ気味が悪い。なんだあの人達は。
「に、にげよう」
なんだあの人ら、まるで人じゃないと言うか。
とりあえず俺は身の危険を感じ、走った。
「はぁ、はぁ」
数百メートルくらい走っただろうか。
「な、なんだあれ」
豚が、いた。たくさんの豚がいた。
「バ、バーベキュー…?」
豚が、バーベキューをしている。しかも、人間の肉で。
「お、おいあの人生きてるぞ・・・?」
20歳くらいだろうか。若い男性が、素っ裸でまな板の上で寝ている。今にも包丁で切られそうに、寝ている。
「お、おい、まさか...」
そして豚は、男の首を思いっきり包丁で、切った!
「…!!!」
男の顔は、一瞬目が見開いたが、叫ぶ間もなく死んだ。
そして豚は男の手足を切り落とし、そして、まるで魚のように捌いた。
そして一口サイズにどんどん切っていき、そして、炭火の上で焼く。
そう、人間が、豚や牛の肉でバーベキューするのと同じように。
「き、気持ち悪い…。」
さっきまで生きていた男が。俺と同じ、人間が。
「おいあれ人間じゃねぇ…?」
「!?」
「あ、ほんとじゃん捕まえろ捕まえろうまそうだぁ!」
「や、やべ、あ!?」
豚に見つかってしまった俺は、考える間もなく。
「よし、捕まえた」
元の世界じゃ考えられないほど高速でこっちにやって来た豚に、捕まった。
「よし、調理するかー。」
「や、やめ…あ、あ助け・・・!!!」
俺はまな板の上に置かれ、そして豚に頭を思いっきり殴られ。
「まず頭切り落とすか―!」
そうか、人間も、食用のブタや牛を殺す際、意識を失わせてから殺すらしいな。
そうすることで痛みを感じさせないと。苦痛が生じないようにと。
意識を失った俺は、それから起きる事なく、豚に消化された。
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「はっ!?!?!?」
な、なんだ!?
電車の中。
「次は、◦◦駅です、お出口は左からー」
車内アナウンスが聞こえる。
「ゆ、ゆめか…!」
突然飛び上がった俺は、自分に集中する周りからの視線に居心地が悪くなり、その場に座って顔を埋めた。
よかった。本当によかった。てか何なんだあの夢は...。
「はぁ...」
そして俺は考える。
俺たちは、俺たち人間はこの世界で、食物連鎖の頂点だ。
豚肉、牛肉、鶏肉、魚。こういった食材は、元々生きてたものだ。俺たち人間はそいつらを躊躇いもなく殺し、そして食べている。
そもそも、世の中の人間に大半はそんな事考えずに食べているだろう。
豚は、人間に食われるために生まれ、人間がおいしく食べれるように育てられ、そして死ぬ。
牛や鶏もそうだ。
こいつらに自我があるかどうかは分からないが、もしもあるとしたら。
生まれてから死ぬまで、ずっと死の恐怖を感じているのだろうか。
もしくは何も考えていないんだろうか。
自分の仲間が、食肉センターに連れて行かれる姿を見てどう思っているんだろうか。
魚だってそうだ。
今まで普通に生きてたら、急に人間に釣り上げられたり、網にかけられたりし、陸上へ上がらされ。
そして生きたまま包丁で捌かれ。
よく芸能人なんかはテレビで、釣った魚を見て、「こいつきもいなあ!」とか言ってるが。
人間からしたら、魚は食材かもしれない。
そして、食材は腐れば捨てられる。スーパーや飲食店なんかでは食材の廃棄はとてつもない量だろう。
それは食材を無駄にしているんではない。
「命を無駄にしている」のではないだろうか。
さて、もしも人間が、豚の食材だったら。
あの夢の世界は、豚が人間を飼い慣らしていた。
人間が豚を調理するみたいに、豚が人間を調理して、そして食っていた。
俺はそれを見て、気持ち悪くなった。
だが俺たちだって同じ事しているじゃないか。
人間ってのは、同種である人間が殺されれば悲しむし、怒るし、ニュースになる。だが他の生物。人間じゃない生物が死んだって、よほどの事がなければニュースにもならない。
人間も、その他も生物も、「命」がある事には変わりないのに。
人間は、人を襲うライオンや虎がいれば、銃で撃ち殺す。
だが人間を襲う人間がいても、少なくても日本ではその場で殺したりはしない。
人間は海外の「犬食文化」や「猫食文化」に対して、「可愛そう」とは思うが、文化なんだから仕方ないよね、で終わる。
だが、人間だってちゃんと調理すれば食えるんだぜ?
でも人の肉を食ったりしたら間違いなく捕まる。
人間が作るルールってほんなクソやな。




