特訓の日々
今回で、ようやくヒロイン登場です。お待たせしてすいませんでした。
その日から、クローグさん改め、師匠と、蒼冶の魔法の特訓が始まった。
朝早く、空が白み始めた頃に目を覚ます。澄んだ空気がピリピリと肌を刺すなか、最初の仕事である、洗濯をしに、近くの川に向かう。正直、オッサンの服など洗っても、嬉しくもなんともないが、仕事なのだからしょうがない。
洗濯が終わって戻ると、師匠が外でトレーニングをしている。見た目といい、この人は脳筋なんじゃないかと最近思い始めている。
「おう、坊主。おはようさん。」
軽く挨拶を済ませ、洗濯物を干し、朝食を作り始める。今日のメニューは、昨日捕れた鹿の肉を焼いて、黒パンに挟んだ物と、近くで取れた山菜のスープだ。(この辺りでは、黒パンを食べることが多いらしい。)片腕が無くなったから慣れるのに時間がかかるが、リハビリの為にこうして練習している。
硬くなった黒パンに、四苦八苦しながら朝食を終えると、次はいよいよ魔法の訓練だ。まず重要なのは、この世界の人間は、誰でも魔素の直接操作が出来るという点だ。最初は感覚が掴めず苦労したが、最近は人並みに出来るようになっている。その為、最近は師匠の得意分野である、魔法具の作成と、魔方陣についての訓練が多い。因みに、なぜか俺も魔法を使えるが、多分女神様の特典だろう。
「よし、今日は、今までの魔方陣を組み合わせて、少し複雑なやつを作ってみるぞ。」
家の玄関前に置かれた木の椅子に座り、師匠が、大声で話す。俺は、20メートル程離れた所で魔方陣を組み立てる。先程も言ったが、この世界の生き物は、魔素を直接操作することができる。しかし、魔法の使用には、はっきりと優劣が存在する。それは何故か。それは、魔素から現象を引き起こす、魔方陣を作れるかどうかだ。
魔方陣は頭の中で組み立てる。その為、能力さえ有れば、大規模な魔法をいくらでも使える。逆に、この部分が未発達だと、魔素を操れても、魔法は使えない。これが、魔法の才能の優劣が存在する理由である。また、脳内で魔方陣は平面上でしか精製できない。そして、面積が大きいほど処理に負荷がかかる。それが、魔法を使えないということだ。
魔方陣の構造自体は簡単だ。いくつか存在する、パーツを組み合わせてた簡単な魔方陣を組み合わせ、さらに複雑な魔方陣作る。今回は、塩水を作る。
「水を作って……塩を作って……混ぜ合わせる……」
頭の中で、魔方陣を組み立ててゆく。塩を作る魔方陣、水を作る魔方陣、そして、その二つを、適切に混ぜ合わせるようにして、目の前の空間に出現させる。一般的に、中級魔法と呼ばれる魔法らしい。今回は、塩水を噴出させる魔方陣は組み込んでいないので、目の前に水溜まりが出来ていくように見える。本当は、ウォーターカッターの様な事をしてみたいが、まだそこまで使えないので、今はお預けだ。
「しかし、お前は凄いな。すぐに無詠唱で出来るようになっちまった。普通は、声に出して魔法を使うものなんだがな。」
師匠は呆れて答える。きっと、これも転生特典だが、さすがにそれは言えないな。
そんなこんなで一週間が過ぎた。いつもどうり師匠と朝食を食べていると、師匠が話かけてきた。
「ソウヤ、実は俺の姪を呼んであるんだ。いい刺激になると思ってな。明日辺り来るから、準備しといてくれ。」
また突然だな。そういえば、数日前に師匠が独り言を呟いてたな。なにかと思ってだが、そういう事だったのか。でも、この世界の通信システムって、どうなってるんだろう。そんな事を考えながら、俺は朝食を食べる。
次の日の昼。師匠と昼食を食べていると、(基本、食事は家で食べている。)扉をトントンとノックする音が聞こえた。
「おっ来たか。」
師匠は扉を開ける。
「おお」
その少女は、透き通るような銀髪に同色の目。その目は澄みきっていて、どこか知的な雰囲気を感じる。肩まで伸ばした髪は後ろで、黒いリボンで結んでいる。黒いスカートを履き、上には紺色のコートを羽織っている。身長は150㎝程だが、背負ったリュックのせいで、もっと小さく見える。そして、ぺっちゃんこだ……。
「はじめまして、ソウヤさん、セリア·ユークリウッドです。セリアって呼んでください。よろしくお願いします。」
彼女、セリア·ユークリウッドは、ペコリとお辞儀をする。銀髪が揺れ、なんとも可愛らしい。
大人しそうな子だ。
「セリアはアルカスカの国立学校に通ってるから、色々教えてもらえ、魔法以外、常識とかもな。ソウヤは常識に疎いからな」
イライラするな
「あっ、そうだおじさん、これ頼まれてたやつだよ。」
そう言うと、セリアはリュックを床に置き、中から一辺20㎝程の白い立方体を取り出した。
「はい、おじさんに頼まれてたやつ。」
その立方体を師匠に渡す。
「師匠、何ですかそれ?」
「これは、弾丸生成魔方陣だ。アルファルグの基本装備は実弾銃だからな。今まで、補給が出来なくて困ってたんだ。これがあれば、半永久的に弾を使えるからな。」
おう。なんかファンタジーっぽい。というか、魔法で弾を作るって、チートじゃないか、ホントどうなってんだこの世界。でも、地球の現代兵器みたいな弾じゃなくて、丸い弾なんだな。
「どういう仕組み何ですか、それ?教えて欲しいです。」
「お、自分からとは良いことじゃないか。まあ、こいつは厳密には魔術機械って言うんだがな、この中に、鉛合金を作る魔方陣やら、弾の形を整える魔方陣が全部入ってる。ただ、起動には専用の魔法が必要だから、誰でもすぐに使える訳では無いがな。あ、勿論一旦起動したら魔法の才能関係なく使えるぞ。それにしても、これだけの物を作れるセリアは凄いな。まだ学生なのに。」
「えっ!?」
驚いた。そんな大層な物が作れる人がまさか学生だとは。
「ソウヤ、私の事いくつだと思ってたの?私は14歳、ぴっちぴちの学生ですよ。」
セリアは、少し頬を膨らませている。
「そう、これは私が作った。そもそもこういう魔方陣は複雑過ぎて、とても生身の人間じゃ使えない。だからこうして、代わりに魔法を発動する機械がある。」
彼女はそう言って、無い胸を張る。
「まぁ、そういう細かいことは、また後で聞けばいいさ。」
師匠はそう言って、手に持った機械をガレージに置きに、外に出る。そして、午後からはセリアも一緒に、いつもとはちょっぴり違った雰囲気で魔法の訓練をするのだった。
おとなしいイメージてで書いたのですが、セリアのイメージはちゃんと伝わりましたかね?
コメントくれると嬉しいです。