予言者の末裔 1
俺は今、悩みがある。
いや、今やさっき悩み始めた悩みではない。
記憶の混濁。失われた俺の記憶。
その時、なにがあったか思い出せないのだ。
その時というのは中学二年生の頃だ。
しかも、限って夜の9時から10時にかけての記憶だけ。
「そんなの覚えていなくても平気」と思う人もいるだろう。
しかし俺にとっては大事なことだ。それが「毎日」だったから。
中学二年生の頃、しかも決まって夜の9時から10時きっかり。
絶対何かがおかしかった。いや、勘違いかもしれないけど。
でもやっぱりおかしい。何かが引っかかるのだ。
こんな悩みを抱えてはや二年、俺は中学を卒業し、高校二年生になっていた。
朝、いつも通りの登校ルートを歩いていると前から一人の女性が歩いてきた。
「ごきげんよう、歌留多さん」
「あ、おはようございます。会長」
「今日は入学式ですね、新一年生がどんな子たちか楽しみですね」
「は、はい、そうですね」
僕が会長と呼んだ彼女の名はシュララ・パルマーア・エリス。
見た目は金髪碧眼。生粋の外国人だ。
うちの私立楠学園の生徒会長だ。
「今年も我が楠学園にいっぱい入学してきてうれしいですね!」
喜々と話す会長様。愛らしい。
「ええ、そうですね。うちは中々のマンモス校ですけど、新入生が多いともっと活気がでていいですね、文化祭とかの行事が楽しみです」
いや、お世辞とかじゃなくて本当に楽しみだ。前の文化祭も凄かったけど今年の文化祭も期待できそうだ。
「ええ!楽しみですね・・・あっ、そろそろ私、行きますね?生徒会長としての責務を果たさねばなりませんから。では、先に行ってますね?」
会長は手を振り、こちらに微笑んだ。なんて愛らしい笑顔なんだ。現実世界にもあんな会長素質がいらっしゃって本当にうれしい。金髪碧眼の生徒会長とかめっちゃ珍しいからなぁ。
そして何より、彼女には俺の記憶の事について相談を時々している。真剣に聞いてくれて、真面目に返してくれる。本当に俺からしてみれば女神だ。
「っと、そろそろ俺も行かないとな」
腕時計を見ればもう8時、遅刻ではないがたらたらしている暇はない。俺は学校へ向かった。
学校につくと体育館に誘導された。おそらくこのまま入学式を執り行うのだろう。
「続きまして、在校生代表、生徒会長、シュララ・パルマーア・エリスさん、お願いします。」
金髪をなびかせ、壇上へ上がっていく生徒会長。さっきのほわわーんとした感じではなく、きりっとした凛々しい姿でしゃべり始めた。さすがは生徒会長、俺にはよくわからないけどなんかすごい難しい事言ってる!あ、春になり新芽が~っとか、そういう奴をすらすらと原稿なしで読み始めたんだよ。本当にすごいと思う。なんていうか、まずオーラが違う。
こんなことを考えていたら会長が壇上から降りていく。もう終わってしまったのか。少し残念に思いだながらも新入生や在校生が拍手しているのをみるとなんだか誇らしく感じた。そのくらい、会長の存在は大きいのだ。
そんなこんなで入学式は終わり、クラスの発表がされた。
俺は2年5組。同じクラスだった奴は4人だった。
友達を作れるか不安だが、大丈夫だろうか・・・。
教室に入るとあまり人がいない。なぜだろう。
見回すと教室の後ろで揉め事が起きていた。
「アァ!?ンだよてめぇはよォ!?」
「それはこっちの台詞よ!そんな不要物持ってこないで!」
様子を見るに、不良グループみたいなのがいて、そのグループが持ってきた物を不要物と認識した正義感あふれる奴が注意してる感じだった。
「雑誌を持ってきて何が悪いんだよ?あ?」
「ここ楠学園は不要物の持ち込みに関しては厳しいの知ってるでしょ!?いいから、その雑誌はしまうか捨てなさい!」
ほう、なるほどな。確かにここは後者の方が正しいな。
「うるせぇなぁ!」
「っ!!」
そのグループの不良がそいつの胸倉をつかんだ。
「・・・あんた、女に手を出す気?」
「おまえが俺をムカつかせたのが悪い」
なんて理不尽なんだろう。こいつ。とりあえず、止めといた方がいいよな。
「おいお前らー、そろそろ先生来るから座っとけよー」
「ムカつかせた?私は規則について喋っているだけだけど?」
「ぺらぺらと御託並べやがって・・・」
こいつら、聞いてねぇな・・・。
「お前らさぁ、今日からクラスメイトじゃん?お互い仲良くしようぜ?な?」
「てめぇもうるせぇよ!!」
そういうと不良は俺に殴りかかってきた。こういうのが一番いやだなぁ・・・。関係ない奴が勇気を出して割り込んで喧嘩を止めようとしてるのにさ?
そして鈍い音と共に俺は倒れた。意識も徐々に朦朧となっていく。
意識が遠のいていく狭間、聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
目を覚ますとそこは保健室、しかも午後2時。帰宅は午前中だから学校中は静かだった。
「目が覚めましたか?」
ここでひょこっと出てきたは金髪碧眼の美女・・・生徒会長だった。
この状況から見て察するに、僕は理不尽な暴力で倒れて、保健室に運ばれ、ずっと寝ていた。そして会長が学校が終わったら看護してくれていたって感じか。
「ありがとうございます会長。看護してくれてたみたいで」
「いいえ、私は歌留多さんを看護なんてしてませんよ?」
いやいや、この学校に僕によくしてくれるのは会長くらいだから会長のはずなんだけど・・・。
「あなたをずっと看護していたのは彼女よ?」
会長は保健室のカーテンを開けると、そこには一人の少女が立っていた。
「彼女、転入生なのだけれど、知ってるかしら?」
「い、いえ、知りません・・・」
すると彼女はおもむろに僕に告げた。
「歌留多・・・また会えたね」
・・・は?
それが俺と花蘭の再びの出会いだった。