―3―
あの戦場で斬り結ぶ前から、その名を知らないはずがなかった。
年若く女の身であるにもかかわらず、《白の帝国》随一と謳われる剣士。若干にしてローゼンクロイツ家の家督を相続した、慈悲深い領主。蒼の王国で立ちふさがる者を尽く斬り殺すノヴァ・イスファリアが〝剣鬼〟と呼ばれれば、滅多なことでは刃を抜かないフレア・フォン・ローゼンクロイツを人は〝剣聖〟と呼んだ。
その剣聖が、俺に茶を淹れている。
「熱いから気を付けてね」
無論彼女のほうは俺が先日剣を交えた相手などとは知る由もなく、優しげな微笑とともに白磁のティーカップを差し出してくる。何とも家庭的というか庶民的というか、あの凄絶な剣技で俺を圧倒した剣士のイメージと合致せず、少し戸惑う。
何十人も座れそうな長大な食卓の端の席に、二人ぽつんと腰かけてしばらく茶を啜っていた。猫舌なのかしきりに息を吹きかけて冷まそうと努力していたフレアは、一口嚥下して小さく唸る。
「ちょっと苦いかな。ごめんね、私お茶淹れたりとかあんまり得意じゃなくて」
「あの、フレアさん」
「どうかした? えっと……」
一瞬彼女がなぜ口ごもったのかわからなかったが、すぐに俺の名前を呼ぼうとしたのだと気付く。そういえば自己紹介と言っておきながら、俺が勝手に彼女の名前を言い当てただけでこちらは名乗っていなかったのである。
「ノヴァ・イ――、いやノヴァです。姓はありません」
危うく名乗りかけて誤魔化した。蒼の王国ではそれなりに名が売れていた俺を、彼女が一度も聞いたことがないということはたぶんない。俺が名乗ったところで本人とは思わないだろうが、警戒はされるに違いなかった。
そもそも白の帝国の貴族である彼女の邸宅があるということは、ここは白の帝国内だ。戦争中の蒼の王国の剣士を名乗るのは、考えるまでもなく危険だった。
「ノヴァ、ちゃんか……」
ぽつりと呟いて、フレアはティーカップに目を落とした。ゆらゆらと立ち上がる湯気が、彼女の表情を隠す。わずかに垣間見えた表情は、なにかとても悲しげに見えた。けれど彼女は俺が見詰めていることに気付くと、あわてたようにその表情を消す。
「あ、なんでもないんだよ。ちょっと最近関わりのあった名前だったから、つい」
「関わりがあった、とは?」
「ひと月前に蒼の王国との大きな戦いがあったのは知っている?」
俺の知っている限り、ひと月前にはまだ国境付近での小競り合いしか起きていなかったはずだ。それはおそらく、彼女の言うひと月前が俺の思い浮かべているひと月前とは違う月だからだろう。すなわち俺は死んですぐにこの身体で目覚めたわけではないようだ。昨日剣を交えたばかりのフレアが自国に帰還している時点で、いくらか時間が経っていることは予想していた。それがひと月というのは長いのか、短いのか。
「あの戦いで、私は死にかけた。キミと同じノヴァという名前の剣士と戦って。で、結局私が彼を殺した。そういう関わりだよ」
きっとあの戦いでフレアは俺以外の人間もたくさん殺したろう。それが戦争であり、俺たち剣士の宿命なのだから。その中で俺のことを特別に覚えてくれていることが、嬉しかった。
「同じ名前の人が死んだなんて、嫌な話しちゃったね。ごめんね」
「いや、そんなことはない――です」
気を抜くと素のしゃべり方が顔を出しそうになる。さすがに少し不自然だったか、フレアは怪訝そうに俺を見た。けれど素知らぬふりをして目をそらすと、彼女も視線を外していった。
「ええと、それでなんだったっけ。そうだ、ノヴァちゃん、何か言いたいことがあったんじゃなかったかしら」
「ああ、単純に疑問なんだが――なんですが、使用人とかいないんですか」
見たところフレアの屋敷は典型的な貴族の別宅といった様子で、小さいとはいえない立派さだ。にもかかわらず、俺はここに入ってから一人の使用人の姿も見かけていなかった。普通メイドの役目であるお茶くみも、この屋敷の主人たるフレア自ら行った。
「そうだね、少なくともこの屋敷では雇っていない」
当然のことを言うような軽い調子でフレアは答えた。俺は驚いて彼女を見つめる。料理をたしなむ物好きな貴族の令嬢はいるようだが、掃除や洗濯まで手を出す貴族など聞いたことがない。それも、これほど広い屋敷をである。
「ここには私一人しか住んでないから使う部屋は限られてるし、掃除はそんなに大変じゃないよ。雑巾掛けとかは足腰の鍛錬にもなるし」
ライトアーマーを外して装飾のない質素な白いワンピース姿になった今の彼女から、《剣聖》と呼ばれるような鋭さはほとんど感じられない。けれどその発言だけはやはり剣士らしかった。
「でもそれじゃ、洗濯や料理まで自分でする理由にはなりませんよ」
「鋭いね。本当のところ、私人としゃべるのってあまり得意じゃなくて。だから周りに執事とかメイドとか、そういう人たちがいると落ち着かないの」
「え? でも俺……じゃない、わたしとは普通にしゃべってるじゃないですか」
フレアはぴくんと跳ねて目を見開いた。俺に言われて初めて自覚したらしい。戸惑うように俺と自分を見比べて首を傾げた。
「そう、だね。言われてみればその通りだ……」
自分が他人と普通にしゃべることができたのが、よほど衝撃的だったらしい。フレアは口の中でぶつぶつ呟きながら、お茶をぐいぐい飲み干している。まだかなり熱いが、猫舌だったのではないのか。
「ええと、フレアさん?」
「たぶんノヴァちゃんが私を尊敬してないからだよ!」
「はぁ⁉」
突然顔を上げて、しかもなぜか笑顔で俺を指さすフレア。いやまあ確かに、俺が彼女を尊敬していないというのは事実なのだが……。剣士として、あるいは戦場であいまみえた相手として彼女に畏敬の念は抱いている。だが一応敵国の貴族である彼女を目上の存在とは思っていないし、そもそもおそらく俺のほうが年上だ。しかしそんな素振りはおくびにも出していないつもりだった。
「わかるよ、そのくらいはね。全然かしこまってないし、口調も時々崩れてるもの」
どちらも俺の本来の性格である。俺は国王の前でもかしこまることなどないし、気を使ってなどしゃべらない。だがよく考えてみれば、国王のことも尊敬などしていなかった。俺よりも弱いのにふんぞり返って命令ばかりしてくる老人のどこを尊敬できるというのか。すると俺はフレアに限らず、誰一人として尊敬などしていないのかもしれない。
「その……なんというか……すみません」
さすがにこれだけ世話になっておいて、まるで敬意を抱いていないのがばれてしまっては立つ瀬がない。割と本気でしょぼくれて謝罪すると、フレアは慌てて手を振った。
「わわ、違う違う。それを責めようってことじゃないの」
「はい?」
「責めるどころか、むしろありがとうって言いたいくらいで――」
思わずぽかんとしてしまった。それから黙って目をそらす。被虐趣味を暴露し始めた剣聖から、全力で目をそらす。
「あーっ‼ 違うよ、違うの、気まずい空気にならないで! そういうことじゃないの!」
「フレアさん、大丈夫ですよ、たぶん。誰にでも人に言えない趣味嗜好の一つや二つくらいあります。今後は人に言わないように気を付けましょう。それでは俺はこれで――」
「行かないでッ!」
フレアは必死の形相で俺の右腕をつかむ。無言でにらみ合う俺たち。双方一歩も動かないながらも、水面下では全力の力比べが行われている。しかし俺がどんなに腕を引いても、フレアに掴まれた部分だけが空中に張り付いたようにぴくりとも動かなかった。さ、さすがは剣聖……、俺と違って見た目通りの細腕ではない。
しばらく不毛な戦いを続けてから、結局俺が折れた。強く握られすぎてやや感覚が失われた右腕をもみほぐしながら、再び着席する。フレアは満足げににこにこと笑っていた。喧嘩に勝った子供のようだな、と思う。正直、戦場で剣を交えた時と印象が違いすぎて、本当にあの『剣聖』かどうか疑いたくなる。
「剣聖、なんて重すぎる」
俺の心を読んだように、フレアがぼそりと呟いた。ともすれば独り言かと思うほど低いトーンの短い一言。それなのにその言葉は妙にずしりと、俺の心にのしかかった。フレアの群青の双眸は静かに停滞していた。底の知れない深淵を覗くのが恐ろしいように、俺は彼女の瞳を直視することができないでいた。
「剣が上手いからってそれだけでみんなが私を怖がって、祭り上げて、嫉妬する。誰もが〝剣聖〟フレア・フォン・ローゼンクロイツを見て、ただのフレア・フォン・ローゼンクロイツに興味なんてない。そんな当たり前のことがさ、少しだけ寂しかったりするんだ、私は」
決して自嘲的にではなく、ただ儚くフレアは笑った。気弱な少女のようなその笑みに、不覚にも俺は見惚れてしまった。
「だから嬉しいんだ、ノヴァちゃんみたいに無条件に尊敬してこない人がいるのって」
だからね、ノヴァちゃん――、そう続けてフレアはずいと身を乗り出す。ヘカテのように異常な近距離ではないが、反射的にのけぞる程度には近い位置に顔があった。
「しゃべり方、無理しなくていいよ」
「む、無理なんてしてないでございますですよ⁉」
「そんなに年も違わないでしょ、敬語使わなくていいって。さっきだって『俺』とか言ってたしさ」
俺は硬直した。いつだ、いつ口が滑った。男口調はがさつなしゃべり方で押し通せないこともないが、『俺』はまずい。そんな風に自分を呼ぶ少女など、少なくとも俺は出会ったことがない。
「ねぇ、もしかしてノヴァちゃんって――」
冷や汗を垂らして静止してしまった俺を怪訝そうに見ていたフレアが、おそるおそると口を開く。まさかバレた⁉ いや、まさか、俺がノヴァ・イスファリアだなどということを思いつくはずがない。しかし剣聖と呼ばれるほどの彼女ならあるいは――。
「もしかしてわざと男口調にしているの? 馬鹿にされないために」
「え? あぁ……はい」
予想外の言葉にほっとすると同時に困惑し、思わず肯定してしまう。フレアはすべて理解したとばかりに訳知り顔でしきりにうなずいた。
「そっか、やっぱりノヴァちゃんも剣士だったんだね」
彼女が何に納得してそんな結論に至ったのか、さっぱりわからない。俺の格好と剣を持っていたことから考えれば、剣士見習いか何かだと予想するのは当然だ。けれどどうもフレアは別の理由からそれを確信したように思われる。
「女が剣術なんて、って私もさんざん言われた。試合をしても女だからって本気でやってもらえなくて、悔しかったな」
フレアは小さくため息をついた。それを聞いて俺はようやく彼女の考えを理解した。
剣聖フレアという存在がいるせいで忘れがちであるが、女性の兵士というのはとても珍しい。男性と比べて身体能力の劣る女性が苛烈な戦場で生き残るのは男性兵以上に困難であるし、そもそも武術を習う女性などほとんどいない。俺が蒼の王国で所属していた蒼炎騎士団にも女性の団員はたった一人しかいなかった。
そんな状況なのだから、当然のように女性兵士は差別を受ける。フレアの体験然り、蒼炎騎士団の女性団員も稽古に付き合ってくれる団員がおらず難儀していた。それを彼女たちはそれぞれの発想で跳ね返そうとする。フレアはおそらく圧倒的な強さで、件の団員は髪を短く刈り男性のような恰好をすることで。
このノヴァという少女が剣を握るうえでまとったそんな鎧が男口調なのだと、フレアはそう推測したのだ。見当違いではあるが、俺にとってはとても都合のいい勘違いだった。
「だからもうそれに慣れているのだったら、無理な言葉づかいをしなくてもいいよ。私はそういうこと、あまり気にならないから」
少しだけ逡巡する。願ってもないことであるが、フレアに対してそこまで警戒を解いてよいものかという迷いがあった。彼女のことを憎んでいるわけでも恨んでいるわけでもないが、俺を殺した人間には違いない。本来ならば、もっとも警戒してしかるべき相手ではないか。
「それならそうさせてもらうぜ、フレアさん」
しかし、俺はそう答えた。フレア・フォン・ローゼンクロイツは信用に足る相手だ、と俺の本能が告げていた。もしかするとこれまで出会った誰よりも信頼に値するかもしれないほどに。フレアは破顔する。
「うんうん、そっちのほうがやっぱり自然だよ」
「この外見でこんな言葉遣いは違和感しかないと思うんだが……」
「そうでもないよ。ノヴァちゃんの雰囲気とよく合ってるもの」
中身は口調のままの男なのだから当然である。フレアは嬉しそうにしばらく微笑んでいてから、不意に姿勢を正した。表情からも笑みが消え、真剣な瞳でこちらを見据えている。
「今日初めて会って、こんなことを言うのも変なんだけど――」
そう前おいて、フレアは言葉を選ぶように短い間を取る。彼女の次の言葉が全く予想できない俺は、ごくりと唾を飲み込む。
「もしよかったらなんだけど……、わたしの侍従になってくれないかしら」
フレアは本当に真剣な顔をしている。すると冗談などではなく、まじめなお願いなのだろう。しかしなぜ俺に。
そもそも侍従とは、騎士の傍らに控えて公の場や戦場での身辺の世話や、時には身を挺して主人たる騎士を守ることを求められる職務である。その多くは貴族の子弟から選ばれ、いわば一人前の騎士になるための下積み期間ともいえる。それゆえに剣聖とまで呼ばれるフレアならば、その侍従を務めたいと願う者は枚挙に暇がないに違いない。少なくとも路地裏で偶然助けた身元不詳の少女に頼む必要はないはずだ。
「言った通り、人と話すのが苦手だから。だから今までずっと侍従を持たずに来たんだけどね、さすがに周りがうるさくて」
騎士にとって侍従はある種、自らの威光を誇示する手段でもある。名のある偉大な騎士ならば、有力貴族の子弟や腕の立つ若者が侍従を志願する。一方で目立った功績もない騎士は、中小貴族や中堅程度の実力の者しか侍従に選べないという状況が発生する。したがって侍従の身分や実力が騎士の力を示す指標となるのは必然だった。
「悪いけど俺は大した家柄じゃない。姓がないのでわかるだろう? 俺なんかを侍従にしたら、あんたが笑いものになるだけだ」
「家柄はなくとも、キミには剣があるでしょう?」
まさしく剣聖。返す刀で心臓を抉り取るような痛烈で、唐突な一撃だった。
そうだ、かつての俺には剣があった。なによりも誇れる、心の底から生きる意味だと誓える剣の道があった。だがそれは失われた。場末のごろつきから命からがら逃げだし、惨めに泣きじゃくっていた俺に、もう剣はない。
「俺は剣士なんかじゃない。剣を握って喜んでいるだけのただの餓鬼さ」
フレアを説得するというよりは、自分に言い聞かせるためだった。この肉体が残酷に俺の道を阻んだ。もはや求めた剣の至高へとは辿り着けないと悟ってしまった。
だから、俺はもう剣を握らない。
剣鬼と呼ばれるほどに剣の道に執着し、果ては命さえ捨てたノヴァ・イスファリアは剣を捨てる。かつての俺を知る者たちが聞いたら、でまかせだと一笑に付すだろう。だが俺はそれほど、あの湿った路地裏で叩きのめされ打ちのめされ、傷つきはてた。
今までも幾多の挫折は経験してきた、当たり前だ。だがいつも俺を打ちのめしたものは、手の届くところにあった。執拗なまでに俺をいたぶった師は、二年後に血に塗れて死んだ。手合せで俺を打ち負かした奴は、いつも必ず次の手合わせで倒してきた。
だが今回は違う。俺を打ちのめしたのは、過去の俺自身。いつか届くというのなら、血を吐いてでも地を這ってでも進み続けよう。でも届かない。いや、正確には膨大な時間をかければいつか剣鬼と呼ばれた男と並ぶことができるかもしれない。しかし人の一生はそれほど長くはない。
俺は完全に負けたのだ。
フレアに敗北したとき、剣の道は潰えたのだ。それ以上、終わりなき道を歩むことはできない。ここにいるのはしょせんノヴァ・イスファリアの燃え滓にすぎないのだから。あるいはこの肉体を与えられたことすら、必然だったのかもしれない。
「私はそうは思わない」
フレアが穏やかに囁いた。それはもちろん俺の心の声に答えたのではなく、しばらくの沈黙ののち、先刻の俺の言葉に返したのだ。
「キミは剣士だ。立派な剣士だ」
「フレアさんは何か勘違いをしている。俺の剣技を見れば、すぐにわかることだ」
「ううん、わかる。剣技なんて見なくてもわかる」
本末転倒のことを言う。剣士を剣技を含めずに評価するとは、何たる矛盾か。
「だってノヴァちゃん、あの時剣を手放さなかったから」
あの時というのが、フレアに助けられた時だというのはすぐに分かった。しかしあれは意図して剣を持ち続けたというよりは、偶然手放さなかったに過ぎない。
「そうかな? 普通は剣なんて重いものは投げ捨てるか、相手に向かって投げるんじゃないのかな。それをずっと持っていたっていうのは、意味のある事だと私は思うよ」
「そもそも、剣を捨てなかったから剣士だっていう論理からしておかしいだろ」
「でも剣を捨てるような人は剣士ではない。違う?」
これには同意せざるを得なかった。戦場で剣を振るうからこそ剣士であり、剣士が剣を捨てるなどあってはならないことだ。ならばその逆も成り立つと、フレアは言いたいのだろう。
「剣士と名乗る人はたくさんいる。その中の何人が、命からがら逃げる時に剣を捨てずにいられるだろうね」
「悪いが――」
なおも言い募るフレアの言葉を遮った。彼女の言葉は甘い毒のようだ。その優しい肯定は俺を救うだろう。だが俺自身がそれを望んではいないのだ。剣の道を捨てた俺は、せめて苦しんでいたかった。そうでなければあのとき死んだ俺のすべてを否定することになってしまう。
「どんなに頼まれても俺はあんたの侍従にならない。俺はもう剣は握らない」
吐き出すように言って、ティーカップに澱んだ茶を一息に飲み干した。席を立とうとする俺の腕を、今度はフレアが掴むことはなかった。ただ穏やかな声で呼び止めただけだった。
「分かった、嫌なら仕方がないわ。でもそれならせめて、最後に一度だけ私と立ち合ってくれない?」
食堂の出口に向かおうとしていた足がぴたりと止まった。剣聖相手に立ち会いなど、さらに無様な姿をさらすだけに違いない。それなのに強く心惹かれる俺がいた。
もう一度、もう一度だけ、フレアと戦ってみたい。勝てるとはもちろん思っていない。ただ俺の剣の道を阻んだ最強の剣士の剣技をもう一度見てみたかった。それにフレアなら一方的にこちらを叩きのめしてこないだろうという打算もあったことは否めない。
結局俺は、もう一度彼女に敗北することで自らの剣の終わりとしようと決めた。