序章
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残照が頬を焦がす。表面が焼けるように熱い。じりじりと侵食しているようで思わず手で擦る。
「……坊主、見ねぇ顔だな。旅人か」
皺の刻まれた風格のある商人が一人の少年を見て問いかける。
無理もない。少年の格好はこの暑い国には相応しくのないローブを羽織っているからだ。
____それと、もうひとつ。
「……そこの焼きとうもろこし、もらっていい」
少年はその問いには答えずに抑揚のない静かな声でそう告げる。ぶっきらぼうな物言いに、商人は眉根を寄せながらも「ほらよ」と串に刺された塩気のある自慢の焼きとうもろこしを差し出した。
少年はなにやら小さく呟くと、懐から二枚の銀貨を取り出した。
「……じゃ」
「おい、釣りはいらねぇのか坊主」
少年はもう、日が反射して身を焦がす凹凸のある道を歩き出していた。商人はまいったなぁと荒っぽく髪を掻いた。
「……坊主の目、珍しい色だったな」
ポツリと、商人は譫言のように呟いた。
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「……やっぱり、フードはかぶってなきゃダメかな」
一口かじると、甘い果肉が口の中をいっぱいに満たす。
舌で甘味を転がしながら少年は肩越しにちらりと先ほどいた小店を振り返る。
「……まだ俺のことばれてないけど」
いずればれるか、と少年は続けた。そして少年は首後ろに手を回してフードを掴むと深く、深くかぶった。それはまるで闇に沈んでいくようであった。
__闇の奥で二つの紅い光が小さく瞬いたことに、気づく人は誰もいない。