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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-64 世捨て人3

夜の鐘が鳴る少し前に悠達はナターリアに挨拶に出向き、出発を告げた。


「そうか……アスタ伯父様に……」


ナターリアにとってアスタロットは父の兄なので本当の意味で伯父である。だが、そんなナターリアですらアスタロットと顔を合わせるのは数十年に一度あるかどうかであった。


「伯父様も昔はもっと社交的な方だったのだが……今では私達とも滅多に会っては下さらぬ。伯父様にとって父上とはそれだけ大きな存在だったのだろう。ハリーおじ様が生きていらっしゃったと知って少しは心境に変化があったのかもしれんな。母上もアスタ伯父様には会いたがらなかったが、その能力には一目置いていたようだし……」


意識を失う前にアリーシアがサクハに言い残した言葉の中にはアスタロットに相談するようにという文言が残っていたくらいである。表面上はどうあれ、アリーシアがアスタロットを認めていた事に疑いはない。ナターリアは部屋にある父母の肖像画に目を細めた。


「シアがアスタに会いたがらなかったのはもう一つの理由が大きいと思いますがね……」


ナターリアの視線を追い呟くハリハリの台詞を拾ったのは悠だけだったが、ハリハリはほんの少し悲しみを含んだ笑顔で首を振った。口が無言で「会えば分かります」と言葉を紡ぐ。


「それでは行って参ります」


「ナターリアが気にしていたと言付けをお願いします。本来なら伯父様が玉座に座っていてもおかしくはないのですから」


「アスタは玉座には興味が無いと思いますよ」


アスタロットが王位を狙うならエースロットの戴冠前と死後の二度、その機会はあったが、いずれも全く興味を示さなかった。若い時分から常々「王位はエースロットに継がせるべきだ」と公言して憚らず、自分は趣味に没頭していたのだ。今更王位に執着が無いのはアリーシアが倒れた現在も何のリアクションも起こしていない事で十分に察する事が出来る。


その後、ナターリアに見送られ悠達は暮れなずむシルフィードを離れて一路アスタロットの屋敷を目指したのだった。




「やれやれ、王族なら街の中に住めばいいのによ」


「他人と触れ合うのが煩わしいんですよ。だからこそユウ殿達を連れて来いという書状には意外感を覚えましたが……」


夜道で馬車を走らせながらの話題はやはりこれから向かうアスタロットであった。話を聞けば聞くほど普通のエルフとの印象がかけ離れて行くのも興味深い所だ。


「天才肌で変人の兄と苦労性で善人の弟かよ。反面教師って奴か?」


「意外かもしれませんが兄弟仲は良かったですよ。しばしば常識の枠をはみ出すアスタでしたがエースは事ある毎に庇っていましたし、アスタも無条件に自分を慕ってくれるエースには出し惜しみせずに知識を伝えていましたからね、理想的な兄弟だったと思います」


「じゃあお前とはどうなんだ?」


バローの質問にハリハリは僅かに苦笑を浮かべた。


「エースは親友でしたが、アスタとは意見を戦わせる事が多かったので……」


「似た者同士という事か」


「そう言われると反発したくなりますが……喧嘩友達とでも言うべき間柄なんでしょうね」


当時から同じ様な評価をエースロットから度々受けていたハリハリはその指摘を渋々と受け入れた。


「ハリハリ、屋敷が見えて来たぞ!」


御者を買って出てくれたギルザードの声にハリハリは表情を改めた。


「後は話してみれば分かるでしょう。準備は宜しいですか?」


全員が頷くと馬車が止まり、悠達は順に外に出た。既に辺りは暗く肉眼で先を見通すのは厳しかったが、屋敷から漏れる僅かな灯りが周囲を淡く照らし視界は確保されている。


「在宅なのは間違いないようですが、手入れが行き届いているようには見えませんね。門番も居ませんし……」


ハリハリの言う通り屋敷は壁の至る所に蔦が無造作に生い茂り、頻繁に手入れがなされているようには見えなかった。庭の草も不揃いで、荒れているという評価の一歩手前である。錆の浮いた門は悠ではなくても一発で蹴破れそうで、とても王族が住んでいるとは思えぬ廃墟モドキであった。


「来てもいいってんなら入ってもいいだろ。……呼びつけておいて歓迎されてないとは思いたくないがね」


そう漏らすバローは柄に手を置いた臨戦態勢に移行していた。というより、ミルヒとロメロを除く全員が、だ。


「どうした、何か居るのか!?」


「草むらの中に何か居ます!」


アルトの指摘と同時に風によらず草むらが不自然に揺れ、白い影が幽鬼のように次々と立ち上がった。


幽鬼のように? いや、それは誤りだ。


何故なら立ち上がった影は幽鬼のようにではなく、幽鬼そのものなのだから。


「スケルトン!?」


「しかも戦士種ですね。エルフの土地で自然発生するとは考えにくいのですが……」


スケルトンは基本となる種以外に武装の有無で様々な亜種に分類される魔物モンスターである。知性は無いが、痛みを感じず精神異常や毒にも完全な耐性を持つ不死の魔物だ。その中でも近接武器を持つ者を戦士ウォーリアー騎士ナイトと呼ぶのである。弓を使うエルフの場合、弓兵アーチャーとなる事が多いのであまり戦士種は生まれない。


「魔物に占拠されたとかいうオチじゃねぇだろうな!?」


「まさか、スケルトンは精々Ⅲ(サード)の魔物ですよ。他の魔物に使役されているような魔物に……」


と、ハリハリの脳裏に骨というカテゴリーでその最上位たる存在が浮かんだ時、『浮遊投影フロートビジョン』が頭上に現れた。


《……それは侵入者撃退用の門番なのでね、壊すのは止めて貰えるかな?》


「この声は……!」


聞き覚えのある声にアルトが視線を頭上に向けると、投影されている人物はカタカタと嬉しそうに笑った。


《やあアルトクン、とその他の諸君、いらっしゃい。今この屋敷の主人は手が放せないので代わりに私が挨拶しよう。この偉大なるデメトリウス・ティアリングがね!》


「なんでコイツが居やがるんだよ……」


呆れた声を出すバローだったが、デメトリウスは気障な仕草で指を振ってみせた。


《誤解はして貰っては困るな。私とアスタロットは百年来の知人同士、研究室があるここに居ても何も不思議は無いのだよ。こうして門番を貸しているくらいなのだからね。》


「デメトリウス殿がアスタと知り合いとは存じませんでした。同じ研究のともがらですか?」


《内容に関しては話せないよ。それが研究者の最低限の良識だからね》


世間に秘されていたデメトリウスだが、こんな所で研究をしているとは誰も思わなかったらしい。仮にも王族の屋敷であり、捜索の手が入りにくい事を思えば灯台下暗しという事かもしれない。


デメトリウスが手を掲げるとスケルトン達は整列し玄関までの道を明け渡した。その様子からデメトリウスの制御下にあるのは間違いないようだ。


「しかし、スケルトンを門番にするなど、悪評のもとになりませんか?」


ミルヒが多少嫌悪感を込めて囁いたが、ハリハリは苦笑して首を振った。


「もっと凶悪な魔物を使役していれば王族といえども叱責程度では済まなかったでしょうが、スケルトン程度なら生理的嫌悪感を催すくらいで済みます。むしろ、屋敷も含めてそうやって他人から忌避感を持たれる事が目的なんですよ。こんな薄気味悪い所にわざわざ来たいと思う変わり者はそうは居ません。だからスケルトンの素材もエルフでは無く人間の物なんでしょう」


《大賢者は慧眼だね》


しっかりと囁きを拾っていたデメトリウスがハリハリの言葉を肯定した。弓を使うスケルトンが居ないのは、わざわざ人間の骨を使っているからだ。いわばただの脅しであり、舞台装置であった。


《とは言え、今回は人族が居るのだから不快な思いをさせてしまったかな?》


「文句はアスタに直接言いますよ」


ギィィィィ……。


諦めて肩を竦めたハリハリの視線の先で玄関のドアが軋んだ音を立てて開いていく。こんな所まで凝って作り込んでいるアスタロットにハリハリの思いを全員が共有していた。


「さて、ダメ兄貴の顔を拝むとするか」


「鏡ならここにあるぞ、髭」


「ウルセーバーカ!! ロメロの顔でも映しとけ!!」


「どういう意味だオイ!!」


ここには兄が多数存在する。悠、バロー、ロメロ、アルト(最近兄になった)に加えアスタロット、デメトリウスも兄に属するのだ。そのため鏡を向ければ高確率で兄が映るのである。一口に兄と言っても色々だなとアルトは生物の多様性に含み笑いを漏らした。


これから会うアスタロットとはどんな兄なのだろうか……。

次で千話のようですね。本編だけで言えばまだ数十話くらいかかると思いますが。


何か特別に書き下ろそうかと思いましたが、最近忙しくて更新速度が落ちてしまっているので……。


アスタロットの屋敷はバイ○ハザード1の屋敷を想像してくれると近いです。最初は銃が当たらなかったなぁ……。

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