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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-63 世捨て人2

王宮にメンバーが勢揃いしたのは夕刻になってからの事であった。最近は個々に割り振られた仕事が忙しく、夜に多少顔を合わせるのが精々で、ゆっくり話し合う時間も無かったのである。


「どうしたんですか、バロー殿? いつにもまして傷だらけですが……」


「あー……ま、色々あってな……」


「……」


目線を逸らすバローと微妙に膨れっ面のミルヒを見て、ハリハリは悪魔的な直感で何があったのかを察した。


「……なるほど、また・・女性絡みのトラブルですね!!」


「断定すんなバカ野郎!! 女絡みのトラブルならお前だって似たようなモンだろうが!!」


「ワタクシは流血してまで手を出したりはしませーん」


「貴様ら、馬鹿話はいい加減にしろ。ただでさえ馬鹿なのに余計に馬鹿に見えるぞ」


「シュルツ、男とは節操のないものだよ。そしてそれが手柄だと思っているフシがある、全く救い難い悲しい生き物なのさ。……要約すると馬鹿でいいが」


「……」


「アルトに余計な事を吹き込むな。そんな事より各自の話を聞かせろ」


居心地の悪そうなアルトを見て悠が話題を変えると、まずハリハリが語り出した。


「兵の割り振りや兵站の目処はつきました。ですが、報告で聞く限り地方の状況は良くないですね。明日以降はセレス殿とベム君に遠征して貰おうと思います。盗賊の退治と食糧の配布を進めれば下火になっていくでしょう。貴族連中も今は抑制が利いていますし、八割方は従うでしょうね」


「人間との交流の解放は出来そうか?」


問われたハリハリはアルトの方に視線を向け、アルトは頷くと口を開いた。


「完全な自由往来はまだ難しいですが、まずはアザリアと王都シルフィードの間で試験的にやってみる事になりました。人の行き来に関しては国が問題はないと認めた人物に限って限定的に許可し、徐々に拡大していくという事で」


「妥当な所だな」


「ハリハリ先生とナターリア様に口添えして頂いたお陰です。僕は何も……」


自嘲するアルトだったが、ハリハリは些か表情を改めて首を振った。


「いいえ、確かにワタクシと姫もそれを後押ししましたが、それはアルト殿の誠実な対応があってこそです。あの試練は無駄では無かったという事ですよ」


アルトに対するエルフ達の感情が変化してきているのは確かである。最も大きな要因が『千変万化(シェイプシフター』戦での奮闘にある事は疑いようがないが、アルトはそれを全て自分の手柄だと勘違いするほど楽観的な性格はしていなかった。


特に探索者ハンターや兵士にアルトを偏見の目で見る者が少ないのは、悠達がそれとなくアルトの事をフォローしてくれているからに違いない。その前提を無視して手柄を誇るなど思いもよらない事である。


「兵と探索者はどうだ?」


順調なハリハリ、アルトとは違い、ギルザードとシュルツの表情は冴えない。


「……力不足で申し訳ないと思うが、殆どの兵士は『機導兵マキナ』と1対1で戦えるようにはならないな。基本は仕込んだが、ここから剣に熟練するまでに個人差はあるが早い者で1年はかかると思う。国の兵士は魔法戦闘に慣れ過ぎていて意識の切り替えが難しいんだ」


「探索者は多少マシですが、それでも魔法抜きならば一対一で『機導兵』と戦えるのは数人でしょう。何より、体力が無いせいで長時間の訓練が出来ません。意気込みはあるのですが……」


「基本的に集団戦を仕込むしかあるまい。何とか戦争が始まるまでに一般兵士は5対1、高位探索者は3対1で互角以上に戦えるようにしておかねば数で押し切られるぞ」


「残っているのは『水将』軍、『光将』軍、『土将』軍の三軍ですが、『水将』軍は救出の際に数を半数近くまで減らしていますし、『土将』軍は工兵がメインで直接戦闘には向きません。帰還兵と新兵を加えても、戦えるのは無理して2万5千という所でしょう。そこに探索者を加え、ユウ殿の理想通りに鍛えられたとしても……」


2万5千の兵で相手を出来る『機導兵』は5千体、高位探索者は3百人で百体。その他の探索者が千人で2百体。計5千3百が考え得る限りの対応上限だ。プリムの諜報では『機導兵』は魔銀ミスリル製のものが千体、鋼鉄製のものが5千体という事なので、悠達が倒した分を除いてまだ5千5百は存在するだろう。おまけして互角だとしても、ドワーフ本隊と戦う戦力などどこにも残ってはいないのである。


加えて詳細は得られなかったが切り札の存在も匂わせており、現状ではエルフの劣勢は覆し難い。


「ついでに言えば、エルフの体力では近接戦闘はフォローしあっても3時間ほどが限度でしょう。野戦は自殺行為ですね」


「『機導兵』の活動時間は12時間でその間、疲労せん。拮抗は出来ても決め手に欠けるか……」


「前回のようにドワーフは『機導兵』を先陣に据えて進軍してくる事が予想されますが、拮抗状態が長く続けば本隊を投入して来る可能性が高いです。そうなれば抗する手段はありません」


悠達がその場に居られるか不透明な以上、エルフだけで拮抗出来る手段を探らねばならないが、このままでは厳しいというのが今の所のハリハリの結論であった。


「……バロー、裏との交渉は?」


「王都の治安維持には協力するとよ。ついでに探索者として百人ほど回すって言ってるぜ。魔法が使えない奴が多い分、武器の扱いは探索者より上らしいな」


「魔法が使えない、とは?」


事情を知らないハリハリが聞き返すと、バローはレインとの交渉の経緯を語った。エースロットの隠れた行動に、ハリハリの目に憧憬が浮かぶ。


「そうですか……なんともエースらしい事です……」


「ありゃあエースロットに惚れてんな。色んな意味で怖ぇ女だったよ。ブッ殺されるかと思ったぜ」


「しかし、そういう事情なら話次第でどうにかなりそうですし、礼を尽くして協力して貰う事にしましょう。悪ではあっても妥協点はありそうです」


エースロットの蒔いた種ならばハリハリはその行く末を見届けたいと感じていた。これは今後のエルフィンシードの運営にも関わる事だ。


「ユウ殿はどうでしたか?」


「俺は物資の受け取りだけだったからな。多少、魔物モンスターに襲われたりはしたが、無事に受け取れたぞ」


悠とロメロはアザリア山頂で追加の物資の受け取りに赴いていたのである。パーティーメンバーの選定に一悶着はあったが、一週間ぶりに会う悠に蒼凪などは本気で涙ぐんだものだ。


「その割にはロメロ殿はぐったりしているように見えますが……」


「……ハリーティア様、半日でアザリア山を行き来すれば普通のエルフはこうなります……ましてや、巨人ジャイアントの群れに襲われる事を多少で済ますユウがおかしいのです!」


「それは……ご苦労様です。しかし、ユウ殿が一緒ならやはり多少の事に思えるのはワタクシも毒されてますかね、ヤハハ」


「わたしも目を突っついてやったの!! こう、えいって!!」


「流石はプリム殿、勇敢です!」


悠の肩の上で槍を振るうプリムをハリハリは手放しで褒め称え、ロメロはがっくりと肩を落とした。投石攻撃に防御を固めていたロメロを助けたのは悠では無くプリムだったのである。質量差一万倍以上にもなろうかという巨人に果敢に突きかかるとは、プリムの勇気は全く底無しであった。


「後は効果的な戦術を探る為にドワーフに詳しい者に話を聞くという事だったが……こんな時間に訪ねて大丈夫なのか?」


「アスタ自身の指定ですから構わないでしょう。むしろ、夜以外は会わんと言われてしまいましたからね。全員を連れて来いという条件と共に」


今夜全員が集まった最大の理由は近況報告会ではなく、エルフの中で最もドワーフについて詳しいと言われているエースロットの兄であるアスタロットと会う為である。


このアスタロット・ローゼンマイヤーという人物に関する人物評は人によって多岐に渡る。天才、落ちこぼれ、深慮、異種族マニア、飽き性、凝り性、控え目、図々しいなど、とっちらかっていて容易に人物像を掴ませないのである。


ハリハリはアスタロットに対し肯定的な評価を下していた。変人奇人の類である事は間違いないが、その頭脳は間違いなく一級で得難い才能の持ち主であると確信しているのだ。


その証拠の一つがハリハリの耳を飾るピアスだ。


これは単なる装飾品では無く、アスタロットが基本設計を施した魔道具である。用途は『魔法鎧マジックアーマー』の収納と一見大した事は無いように感じるものだが、魔力マナを流す事で内部に収納された鎧が装備状態・・・・で出現するという画期的な機能を持っていた。いつも鎧を着ているのは色々と不便だが、これがあれば一瞬で鎧の着脱が可能になるのである。アスタロット曰わく「本人の身体データを刻み、出口を体の表面に変えただけ」らしいが、その発想が既に常人のものではないとハリハリは感心した。


反面、アスタロットを蔑んでいる者も少なくはない。あくまで自分の好きな研究しかしないアスタロットにもっと国に尽くすべきではないか、才能を役立てるべきではないかと考える人々だ。そこにはアリーシアやサクハ、ナルハなども含まれている。


ハリハリが自身の才能をもって国に尽くした事は誰もが知っており、同じく才能を持つアスタロットにそれを求めたのは当然と言えば当然だったが、エースロットの死後、アスタロットは王都近くの自分の屋敷に引きこもって滅多に人前に現れなくなってしまったのである。弟の死に打ち拉がれた兄と同情的に見る者も居れば弟の仇討ちをしようとしない不義者と言い切る者も居て、ここでもアスタロットの評価は二分していた。


そのような経緯で半ば世捨て人と化していたアスタロットがようやくハリハリの言葉に応え、面会を承諾したというのがここまでの流れであった。

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