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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
985/1111

10-53 異論差し挟むべからず1

鍛練場に集まった探索者ハンター達はこれから始まるという訓練について意見を交し合っていた。


「気にくわねぇ……」


「あのね、男のクセにいつまでもグチグチ言うのやめてくれない?」


「そうだぞ、皆で話し合って納得して決めた事だろう?」


「フン……オレは納得したつもりは無いね。いくら強かろうが人族を信じるなんて頭がおかしいぜ」


探索者パーティー『叡智の後継』の若手であるオルレオンの悪態にパーティーメンバー達はまたかと呆れた表情を作った。このオルレオンは実力は確かなのだが、大のドワーフ嫌いかつ人間嫌いなのだ。ドワーフ嫌いなエルフは特筆に値しないが、人間をドワーフと同じくらい嫌いだというエルフは少数派である。


その理由は彼の父親がフェルゼニアス家との戦闘で命を落としている事に起因していた。アルトが父の仇だと言うつもりは無いが、すんなり仲良く出来るほど割り切れもせず……要するに、まだ若いのである。その蟠りを同じ人族である悠達に拡大してしまう程度には。


「とにかく、パーティーリーダーの決定には従って貰うぞ。気に食わなくてもしばらくは大人しく……お、来たな」


リーダーであるルースの忠告が終わらない内に、ゲオルグが悠達を伴って現れると場に静寂が満ちる。


そのままゲオルグから一言あるのかと思いきや、ゲオルグは悠達の背後に居たロメロやミルヒと共に地面に座る探索者の方に移動し、そのまま座り込んだ。


代わりに残ったコローナがざわめく探索者に語りかける。


「静粛に! ……コホン、今回の訓練にはギルド長であるゲオルグ様も参加します。今はギルド長と言えど一探索者として扱いますので皆さんもそのつもりでいて下さい。また、訓練に当たって血筋やランクは考慮されません。各人、自分の能力に沿った指導を受けられますよう」


「そういう事だからよろしくな!」


当のゲオルグに明るく言われては反対も出来ず、逡巡している間に悠は全員の注目を集める中央に立ち、バローはその隣に控えた。


「映像越しに見ていた者は多いと思うが自己紹介しておこう。俺は冒険者のユウ、『異邦人マレビト』だ。隣に居るのがバロー、剣士であり、この講義の後に希望者に剣を教える事になっている。まず最初に言っておくが、訓練中は俺達2人に逆らうな。それが了承出来ない者は構わんから帰れ。やる気の無い根性無しが最後まで五体満足で居られるような生易しい訓練をする気は無い」


『異邦人』という珍しい存在に探索者達の目が引き付けられるが、高圧的な悠の物言いに少なくない数のエルフ達が反感を抱いた。その中でも特に強く負の感情を燃やしていたオルレオンはパーティーメンバーが止める間もなく立ち上がり、悠に食ってかかったのである。


「テメェ何様のつもりだ!?」


「貴様に発言を許可した覚えは無い。気に食わんのなら消えろ」


「テメーが消えやがれクソが!!」


喋りながらも高速で編まれていた魔法陣が『炎の矢ファイヤーアロー』を数発紡ぎ出し悠に向けて発射される。距離3メートル、オルレオンならば目を瞑っていても外しようがない距離だ。




ヒュパンッ!!




――だが、その内3つほどが破裂音と共に掻き消え、2つが悠の手に握られているのを見た時、オルレオンの頭が真っ白になった。


「あ……?」


何が起こったのか分からないオルレオンの眼前で『炎の矢』が握り潰され、気がついた時にはオルレオンは宙を舞っていた。


そして、激突。


「ガハッ!?」


立て続けに起こる不可解な現象に脳の処理が追い付かないオルレオンの頭に重圧が掛かり、恐ろしいまでの頭痛がオルレオンを苛み始めた。


「グガアアアアアッ!!!」


「その長い耳は飾りのようだな。死ぬか?」


更に強まる圧力にオルレオンは失神しかけるが、それを痛みが覚醒するというループに脳が焼け付くような焦燥と恐怖を感じて意味を成さない言葉を喚き散らす。


「イギアガガガガッッッ!?」


「ま、待ってくれ!! オルレオンの非礼は謝る!! それぐらいで勘弁してくれ!!!」


茫然自失から我に返ったルースは踏み潰され半分白目を剥いているオルレオンの前で悠に謝罪したが、その目を見、ゾッとして地面に尻餅をついた。


この暴虐に何の躊躇いも無い無感動な瞳はルースの心の奥まで見透かしているような気がして、ルースは思わず後退りする。


(な、んだ、この男……本当に人族か!?)


「本当に人間か、とでも言いたげだな」


「なっ!?」


内心をズバリと言い当てられたルースは更なる恐怖を感じたが、悠は首を振った。


「別に心を読んだ訳では無い。単純化された思考くらい場数を踏めば読み取れるというだけの話だ。……これ以上時間を浪費しては差し支える、次からはこんなに優しく・・・諭すような手間は掛けんぞ」


オルレオンの頭から足をどけ、鳩尾を軽く蹴り飛ばすと、オルレオンは激しく咳き込みながら覚醒した。


「ゲホッゲホッ!!!」


痛む頭を押さえ悠を睨もうと顔を上げたオルレオンだったが、悠と目が合いかけると体は金縛りに遭い、口は沈黙を選んで凍りついた。


刻み込まれた恐怖が、オルレオンを呪縛したのだ。


「……見ての通り、俺はこういうやり方だ。話を聞かん馬鹿は叩き潰すし、やる気の無い屑は叩き出す。今は亡国の瀬戸際、状況判断すら出来ん低能をすくい上げている時間は無い。エルフの探索者が人族の冒険者以下だと証明したいなら好きにしろ。誇りなど偉そうなお題目は川にでも投げ捨てて逃げ続ければいい。臆病者には似合いの生き方だ」


恐怖に染まり掛けていた探索者の心に、再び怒りによる活力が満ちた。見え見えの挑発であると分かっていても、エルフの、そして探索者のプライドを巧みに煽る悠にゲオルグは内心で口笛を吹いた。


(……こいつ、教官の仕事に慣れてやがるな? 恐怖と怒りを自分に向けて集中させようって腹か。人族にここまで言われちゃ引っ込みが付かねぇな)


「……誰も出て行かないのなら早速始めるぞ。コローナ、『浮遊投影』」


「ひ、ひゃい!」


近くに居ただけで竦んでしまったコローナは裏声で反応し、探索者達の前に『浮遊投影』が浮かび上がる。


鍛練場の壁に鞄から取り出した白い布の端を投げナイフで突き刺して留め(石壁に無造作に突き立てたので密かに探索者は慄いた)、即席のホワイトボードを作ると悠は探索者に向き直った。


「これより『機導兵マキナ』の特性、能力、有効と考えられる戦術を伝授する。覚えられる者は聞いて覚えろ。自信の無い者は書いて覚えるように」


悠が言葉を切ると、探索者達は慌てて筆記用具を取り出した。冒険者や探索者にとって筆記用具は必須の道具である。


多大な緊張感を孕んだ講義は些かも緩む事無く進んで行くのだった。




「……つまり、『機導兵』の魔法阻害効果は最大300メートルに達し、距離が縮まる毎にその効果は増大する。また、複数体が同時に存在する事で阻害効果は重複し、戦場にバラ撒かれたと仮定するとほぼ戦場の全ての場所で放出系魔法は使用不能となる。この時点でエルフの大軍は存在意義を失い、ただの的となった事は想像に難くない。陛下が命を長らえたのはいち早く魔法封鎖を見切り、オーニール湿原に退いた英断があればこそだ。逆に魔法に固執した『火将』と『闇将』は討ち取られ擦り潰されたのだから、戦場での判断の早さがどれだけ重要かは探索者であれば理解出来るだろう」


前回の戦争の解析に探索者達は自然と引き込まれていた。軍人であり指揮官であった悠の解説は詳細で説得力に富み、まるで戦記を紐解いているかのように理解し易かったのだ。


「陛下の判断が正しかった理由だが……」


悠は傍らの鞄に手を掛けると、中からスクラップになった『機導兵』を取り出し、バローに保持させる。


初めて見る『機導兵』に探索者からどよめきが上がったが、悠が一睨みすると慌てて口を噤んだ。かなり調教……もとい、教育が行き届き始めているのを確認し、悠の解説は続く。


「見ての通りこいつらは金属の塊だ。サイズは決して大きくは無いが、エルフよりも大分重い。陛下はそれを加味し、ぬかるみで『機導兵』の足を鈍らせたのだ。圧倒的に不利な局面でこの機転を利かせられる者は決して多くはない」


納得で頷く探索者を前に、悠は小さく首を振った。


「だが、この時点で手詰まりだ。組織立った反抗を行うには既に戦力の絶対数が足りず、準備も無い。『機導兵』の防御力は……誰か剣術の使い手が居れば挙手しろ」


悠の指名に何人かの探索者が手を挙げ、悠はその中からルースを選んで呼び寄せた。


「こいつを斬れ。魔銀ミスリルの剣を貸してやる」


「は、はい!」


『機導兵』を差して命ずる悠に反駁する事なく、ルースは渡された剣を抜いて即座に『機導兵』に切りかかった。




ガキッ!!!




「くっ……か、硬い!!」


ルースの剣は刀身の半ばまで食い込んだが、そこでがっちりと止められて動かなくなった。Ⅸ(ナインス)の探索者として『魔法鎧』による身体強化が利いているルースに斬れないという事は、他の大多数のエルフにも斬れないという事を意味している。


「この通り、普通にやってもエルフの力で破壊するのは困難だ。鉄製の『機導兵』ならば斬れるかもしれんが、魔銀製の『機導兵』の装甲は非常に硬い。エルフがこれらを倒すには弱点の頭部を的確に狙う必要がある。……そもそも剣術の基礎が出来ておらんのでは話にならんが……バロー」


「あいよ」


腕の痺れに顔を歪めるルースから剣を取り上げ、悠がバローに剣を渡すと、バローは真っ直ぐに剣を振り下ろした。


カッという硬質な音が一つ鳴った瞬間、『機導兵』がゆっくりと左右に分断されて地面の上に転がるのを見て探索者から感嘆の声が漏れる。


だが、バローは忌々しそうに吐き捨てた。


「チッ、一発で刃ぁ潰してんじゃねぇよヘタクソが!!」


「うっ!?」


突きつけられた剣にルースの身が強張ったが、よくよくその剣を見るとバローの使った方は綺麗な直線を保っているのに対し、ルースが叩き付けた側の刃は凹み、歪んで見えた。


「剣は対象に垂直に当てねば真価を発揮出来ん。身体強化に任せて振るうなら棒でも振っている方がマシだ。午後の鍛錬ではその辺りの基本をしっかりと体得して貰うからな」


「安心しな、俺はユウより優しいからよ」


凄みのある笑顔でのたまうバローの言葉を信じる者は居なかったが、ルースが叩きのめされていないだけ真実だったかもしれない。


「それを踏まえて有効な攻撃手段を探る事になるが、そもそも動いている相手を捉えるのは難しいだろう。そこで効果的な戦術は陛下が用いたように相手の機動力を奪うのが最も有効だ。予め泥土を作っておき、そこに敵をおびき寄せる。投網、投げ縄を用いて行動不能に陥れる。罠を設置する。色々あるが、とにかく敵の足を止める方法を考え実践せねばならん。その上で敵にトドメを刺す手段を手に入れろ。重量武器を扱えんエルフに俺が勧めるのは刺突武器だが、そこは各々の判断に委ねる。剣を選ぶ者はバローに、それ以外の全員は俺が教える。ゲオルグ、訓練用の武器の準備は?」


「全員には行き渡らねぇかな……」


「ならば自分の武器がある者はそれで参加するように。1時間後、準備が出来たらここに戻れ。質問のある者はその間に済ませろ、解散!」


一通りの解説を終え解散を宣言すると、ようやく弛緩した探索者の間に流れたのだった。

人間相手の時より時間的な猶予が無いので若干高圧的です。


そういう飴の部分はアルトやバローに任せればいいと悠は思っていますので。

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