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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-51 壁の裏7

「さ、着いたぜ!」


地上部分は平屋建てに見える探索者ギルドの前でゲオルグが正面に取り付けられている大きなスイングドアを指し、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。


「まさか俺が紹介してやらないと入れないような腰抜けって事はないよなぁ?」


「ケッ、誰に言ってやがる! 俺は(もうじき)ランクⅨ(ナインス)のバロー様だぜ!!」


「……なるほど、入るぞバロー。ロメロとミルヒはここで待て」


「あ、おい……!」


挑発的な物言いのゲオルグに何かを察した悠は、ロメロ達が止める間もなく腰に手を伸ばすバローと並んで薄暗く内部の見えない内部に押し入った。


――瞬間。




ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュッ!!!




重なる風切り音に悠の手が霞み、バローが剣を閃かせると、カラカラと床に何かが散らばる。入り口近くのテーブルを悠が蹴倒し、飛び込んだバローは飛来物の一部を拾い上げた。


「いきなり射かけるかよ……!」


力を込めた手の中でペキリと折れたのは射かけられた矢であった。ゲオルグはこうなると知っていて悠達を先行させたのだろう。


しかし悠やバローも荒事にかけては人間の中でも右に出る者が居ない猛者である。悠はいち早く気配に反応し身構えていたし、バローも剣の柄に手を添えて不意打ちに備えていた。


「ユウ、何人見えた!?」


「カウンターに4人、柱の陰に2人、天井から3人、床下から3人、出所不明の矢がおそらく3人だ。……このギルドは要塞化されているな。天井や壁裏、床下にも移動スペースがある。バロー、お前は見える奴の相手をしろ、俺は下から行く」


飛んで来た矢の数と方向、人数を瞬時に把握した悠はバローに伝えると床板に指を差し込み、そのまま力任せに引き剥がした。


「2、1、行け!」


「おう!」


悠がテーブルを前方に蹴り飛ばすのに合わせてバローがその影を走る。その間に悠は床下に出来上がったスペースに体を滑り込ませたのだった。




悠達が突入すると、ゲオルグはギルドの壁に体を預けて座り込んだ。どうやら織り込み済みの行動らしいと悟ったコローナは呆れつつもゲオルグの隣に腰を下ろす。だが、収まりがつかないのはロメロだ。


「おい、中で何をやっている!?」


「まあまあ、ちょっと手荒い歓迎会ですよ。大した事じゃありません」


「朝から何かコソコソと準備していると思ったら……」


「なに、魔法無しの襲撃くらいでオタオタするような奴らじゃねぇさ。それに別にマジで殺そうって訳じゃねぇのは矢尻が付いてないから分かるはず――」




「クソッ!! こいつら止まらねえぞ!! おい、もういいから矢尻付けて撃てよ!!!」


「もうとっくに撃ってるわよ!!!」


「あっ、お前毒まで塗って……!」




スイングドアの上から飛び出した流れ矢が地面に突き立ち、コローナが引き抜くと矢尻がヌラリとした光沢を放った。匂いからして魔物モンスターに用いる麻痺毒だ。


「「「……」」」


無言でゲオルグを睨む3人だったが、咳払いをしてゲオルグは仕切り直した。


「……ちょっと手強くて熱くなったかな……」


「全然抑制が利いていないではないか!!」


「おかしいな、エルリックに無茶はするなって言ってあるんだが……?」


首を捻るゲオルグの耳に中から再び怒号が届く。




「エルリックさんはどうした!?」


「矢を投げ返されて失神したよ!!」


「メンタル弱ぇな『流星雨スターフォール』!?」




「「「……」」」


それから十数秒ほどしてギルド内は静かになった。


「おーい、終わったぜー」


肩に剣を担いだバローがドアの上から声をかけると、ゲオルグはじっとりした目で睨む3人から目を逸らしつつ立ち上がり、尻を払った。


「……流石だな、俺は信じてたぞ?」


「何を信じてたのかは知らねぇが……」


バローの言葉が言い切られる前に、バローの剣はピタリとゲオルグの首に添えられていた。


「あんましとぼけてっと首と胴の間に仕切りが入っちまうぜ?」


口元には笑みがあったが目は笑っていないバローにゲオルグは久々に背中に冷たい汗を感じ両手を上げる。


「……悪い、矢尻は外せって言ったんだけどな、あんたらが予想外に手強いもんでつい熱が入ったみたいだ」


「……ったく、手加減しなけりゃならねぇこっちの身にもなれよな。修理代なんて請求されても払わねぇぞ」


強めに釘を差すと、バローは剣を戻して鞘に納めた。別に本気で怒っている訳では無かったのだろう。


だが、ゲオルグの背中はまだ冷たい汗で濡れていた。バローの剣に斬られる寸前まで反応出来なかった事に変わりはなかったからだ。


「相変わらず魔法のように剣をお使いですね、バロー殿は」


「俺は魔法は苦手なんでね、こっちを鍛えるしかなかっただけさ。……それとギルドの中は貴族も庶民もねぇんだ、そのバロー殿ってのはやめてくれよ」


そう言って中に引っ込むバローに合わせ他の者達もギルドの中へと入って行ったが、そこは惨憺たる光景が広がっていた。


蹴倒されたテーブルや椅子は序の口で、床にブチ撒けられた酒や割れたカップ、そこかしこに突き刺さる矢、剥がされた床板や蹴破られた壁、そして人物被害としては天井に空いた穴から気絶したままぶら下がる者、床の穴から這い出そうとして果たせず失神している者、カウンターに仲良く突っ伏す者、服の留め紐を切られて必死に押さえている者、そして悠に耳を抓られて悶絶している2名が見えた。


「イテテテテテッ!!!」


「は、放せよこらぁ!!!」


コローナよりも若干大きいが、人間で言えば成人前にしか見えない少年と少女の手から短剣が転がり落ちると、悠も耳を抓っていた手を放した。


「バロー、エルフは耳が弱点らしいぞ」


「おう、そんな気はしてたぜ。掴み易いモンな!」


「人族だって耳を捻られたら痛いと思いますけど……」


コローナの言う通りであろう。


そこにツカツカと歩み寄ったゲオルグは、床で耳を押さえて涙目になっている2人の前で立ち止まると、勢い良く両手で拳骨を落とした。


ゴゴンッ!!


「イッ……テーーーなッ!!!」


「何すんだよオヤジ!!!」


「何すんだオヤジじゃねーよクソガキ共!!! 俺ァ成人してねぇガキは参加すんなって言っただろうが!!! ギルド長ナメてっと資格取り上げんぞゴルァッ!!!」


先ほどとは打って変わって怒りの形相で怒鳴るゲオルグの剣幕に少年少女がビクリと体を竦めた。


「……ったく、ギルドを遊び場と勘違いしてんじゃねえ」


「なんだ、お前のガキか?」


「血は繋がってねぇけどな。全く、誰に似たんだかヤンチャで困るぜ」


「「「……」」」


全員の視線がゲオルグに集中したが、ゲオルグはさらりと無視して2人の頭を強引に下げさせた。


「手間かけて悪かったな。コイツらはデュオとコレットだ。おら、後は自分の口で謝りやがれ」


「俺は負けてねえ!!!」


「あたしだって紙一重だったもん!!!」


「耳抓られてビービー泣いてて負けてねぇも紙一重もあるか!!!」


親子で取っ組み合いを始めるゲオルグ達に毒気を抜かれたバローは溜息を吐いて椅子に腰を下ろした。


「やれやれ……いつになったら話が始まるんだか。なあコロ助、詫びにメシと酒出せよ」


「だーれがコロ助ですか!!!」


「おいテメーら、いつまでもゴロゴロしてねぇで起きろ起きろ!! それとエルリックのアホはどこだ!?」


「フッ、勇敢に戦った私をアホ呼ばわりとはご挨拶だね、ギルド長?」


髪を掻き上げながら登場したエルリックにゲオルグは冷たく言い放った。


「お前降格な」


「何故っ!?」


「Ⅶ(セブンス)のクセに真っ先に落とされて統率出来なかったからだよ!!」


ぐうの音も出ない正論だった。


「それは当然として、ギルド内の補修費はけしかけたギルド長に払って貰いますからね!」


ぐうの音も出ない正論だった(2回目)。


「くっ!? 屋内で無ければ私の華麗な弓技が彼らを射抜いたはずだというのに!」


「……ま、アホはほっとくとして、これでこの2人の実力に文句がある奴は居ないだろ?」


大げさに膝をつくエルリックを無視しゲオルグが周囲に向けて問いかけると、探索者達は納得して頷いた。これ以上悠達に難癖を付ければ制圧された自分達が惨めになるだけだ。


「あんたら強いな、参ったよ」


「ドワーフみたいに耐えるんじゃ無く、矢を掴まれたのは初めてだぜ」


「人族にも強いのが居たんだな」


切り替えの早さは冒険者と共通するのか、探索者達は少々ばつの悪い顔で悠達に手を差し伸べて来た。彼らにとっては悠達が信頼に値する実力があると自分の目で確認出来ればそれでいいらしい。


人格に関してはゲオルグの目に一任しているあたり、ゲオルグはギルド長として認められてはいるようだった。


探索者達と握手を交わす悠とバローにゲオルグが笑いかける。


「遅れたが、探索者ギルドへようこそ。歓迎するぜ、冒険者」

多分魔法も使って良かったんじゃないですかね。

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