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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-50 壁の裏6

「もしエルフに非があるとするならば……」


ナターリアの口調にもはや迷いはない。ゲオルグはアリーシアに重なるその姿に表情を引き締めた。


「私はエルフの代表としてドワーフに謝罪でも何でもしよう。それで全てのエルフが救われるならこの命は惜しまぬ」


「ですがそれは最後の手段です。探索者ハンターであったゲオルグ殿は体面よりも実利を優先するべきと合理的に判断されたのでしょうが、真実を軽んずる姿勢には賛同出来ません。ワタクシの面子などどうでもいいですが、エルフ全体が汚名を被るのを見過ごす事は出来ないのです。……そういう事情はコローナ殿を弾劾者の列から外そうとしたゲオルグ殿にも分かって頂けるのではありませんか?」


ナターリアとハリハリの言葉にゲオルグは傍らのコローナの必死な表情に目をやり、大きく溜息を吐いた。


「痛い所を突きますね。……しかし、今回は以前よりもしっかりと私の話を吟味して下さった、ならば今は引きましょう。ですが、時間がないという事だけはお忘れなきよう」


ナターリアが口先だけで語っているのでは無いと感じたゲオルグは一礼し、踵を返しかけ、一つの問いを投げかけた。


「そうだ、最後に一つだけお尋ねしても宜しいですか?」


「構わぬ、申せ」


「殿下は真実をお求めですが、この国でそれを求めるのは困難です。その事に付いては一体どうお考えですか?」


「それは……」


ナターリアに覚悟はあるが策は無い。だが、ゲオルグの疑問は既に昨夜悠達が答えを出した疑問であった。


「ワタクシ達が直接ドワーフの国に赴きます。今日はそれを殿下にお伝えするつもりでしたので」


「ハリー先生!?」


「何を仰いますか!? そんな危険な真似はおやめ下さい!!」


「そ、そうですよ!! ハリー様はドワーフにとって陛下に次ぐ標的なのですよ!! 生きているなんて知られたら……」


案の定『六将』全員から猛反対に晒されたハリハリであったが、ハリハリは首を振った。


「口先だけで信を得る事は出来ません。各々方にもワタクシが本気であると知って頂かなければ。赴くに当たっては『擬態の指輪』で人族に化けますし、ユウ殿達も一緒ですから大丈夫ですよ。もう決めた事です」


穏やかながらもハリハリから不退転の意志を感じ取ったナルハ達は説得の言葉を見失い黙り込んだ。こういう物言いをする時のハリハリが退かない事を、知己の者達は知っていたからだ。


「……せめて、もう少し共の者を……」


「普通のエルフの者達ではドワーフを前にして平静を装う事は出来ません。それに、万一の時に魔法しか戦闘手段が無いのでは逃走もままなりませんからね。もしエルフであると知れたら魔法を封じられて殺されます。……ゲオルグ殿、ご納得頂けましたか?」


半ばハリハリの行動を予測していたナターリアがそう持ちかけたが、話題を切り替えゲオルグに尋ねると、ゲオルグはニヤリと相好を崩してハリハリの前に跪いた。


「大賢者は健在でしたな。非礼の数々、何卒ご容赦願います」


「ゲオルグ殿なりに国を憂いての事と承知しています。探索者ギルドへの用件とはドワーフの情報を教えて頂きたいというのが本筋でしたからね。それがゲオルグ殿への答えに繋がったのは偶然ですよ。……そろそろ敬語にも疲れて来たのではありませんか?」


「実は少々。という訳で詳しい話の続きはギルドでどうですかね?」


即座に砕けた口調に戻すゲオルグに苦笑し、小さく首を振った。


「まだこれからワタクシに面会を求める者は多いでしょうから、ギルドへはそれが終わってから行こうと思っていたのですよ。先に何人か行って見学させて貰ってもいいですか?」


「ならば高位の冒険者を寄越して貰いたいですね」


「でしたらユウ殿とバロー殿にお願いしましょう。残念でしょうがアルト殿は立場上ここに居て下さい。それと、シュルツ殿とギルザード殿はこの場で用心棒を宜しくお願いします」


ハリハリが素早く人員を振り分けると、アルトは多少気落ちしながらも頷いた。アルトは親善の使者としてエルフィンシードに来ているという名目があるので自由に動き回るという訳には行かないのだ。悠の同行にバローを選んだのは他のメンバーには無い交渉力を見込んでの事である。


「ロメロ、ミルヒ、お前達も同行するんだ。市井の意見を聴くいい機会になろう。可能な限りユウ達に便宜を図るように」


「「畏まりました」」


お目付役無しに自由行動とは行かないという事でナルハは引き続きロメロとミルヒを悠達に付けた。それで自重を促したいという意味もあるが、監視が居る程度で自重する2人かと言えば、さて……。


「また近い内にお話が出来る事を願っていますよ。……さ、帰るぜコローナ」


「後でちゃんと説明して貰いますからね!」


「アルト、因縁付けられても引くなよ。政治ってのは頭だけじゃねえ、時には気合いで押し切るのも必要なんだからな。ローランを見習いな」


「はい、頑張ります!」


「シュルツ、ギルザード、アルトを頼むぞ」


「お任せ下さい」


「むしろ街中の方が危険は多いだろう? 手加減するようにね」


既に何らかのトラブルに巻き込まれると全員が確信している手際の良さを嘆けばいいのか頼もしく思えばいいのかナターリアは表情の選択に苦労したが、悠ならたとえ一人でこの国の真ん中に放り出されても大丈夫だろうと考えるのをやめた。昨日の戦闘を見て喧嘩を売れるほどの者が居れば逆にスカウトしてもいい気かもしれない。……五体満足で居られればであるが。


「ゲオルグ殿、少々お耳を」


「はい?」


ハリハリが何事かをゲオルグに耳打ちするとゲオルグはふんふんとそれに頷きながら悠にチラリと視線を送ったが、取り澄ました表情で胸を叩いた。


「何人食い付くか見当もつきませんが分かりましたよ。では、また近い内に」


そうして悠とバロー、シュトーレン兄妹はシルフィードの街へと歩み出したのだった。




2人の目立つ事といったらミーノス以上と言って過言では無かった。なにせ道行く者達の10人中10人が凝視するのだから注目率は100%である。


「やっぱ目立つよなぁ……」


「エルフと俺達では容姿の特徴が異なるからな」


「いやいや、半分以上は昨日のユウの戦いを見たからだろ」


「だろうな。最近のエルフは嘆かわしい事に威力偏重主義だし、昨日のアレを見てりゃ嫌でも注目するよ。だからユウもあの魔法にしたんだろ?」


ゲオルグは悠が火炎竜巻を選択した理由を正確に察していた。人間がエルフの国で認められようとするならば善戦したという程度では足りず、『六将』クラスでも勝てるかどうかというくらいの力を見せつけねばならない。しかし、アルトのように相手が意志を表さない魔物モンスターならまだしも、大抵の相手にそれだけの大魔法を用いれば殺してしまう可能性が高かったので、普通のエルフでは無くエンシェントリッチと化していたデメトリウスが相手だった事は実は悠にとって幸運と言って良かった。『豊穣ハーヴェスト』があってもダメージが限界を大きく超過すれば精神が崩壊してしまうのだ。


「ああ。殺せば反感を買うが、殺そうとしても死なんくらいの相手で助かった。ああいう雑な戦闘はあまり好かんが……」


「物理攻撃が効かないはずのリッチを殴った時は呆れましたよ。特に最後はどっちが魔物か分かりませんでした」


「見せるモン見せたら店仕舞いってな。あの黒骨は強ぇが戦い慣れて無かったし、心を折ってバンザイさせりゃいいんだよ」


デメトリウスは強いが戦い方に緻密さが無かった。だからこそ悠は凄惨な泥仕合に持ち込んでデメトリウスの心を折りに行ったのである。


「勝つ自信があったという事か……ならばバロー、お前がもしティアリングの初代とやり合っても勝てたか?」


「当然だろ。ただ勝つだけならアルトだって死ぬ気でやりゃあ勝てるさ」


何でもないように断言するバローだが、これは過信では無い。本気かつ先手を取れれば今のパーティーなら誰であろうとデメトリウスに勝つ事は出来たのだ。


だが、初手で勝ってもあまり意味が無いのである。それだとデメトリウスがどの程度強いのかが見ている者に伝わらず、見てくれだけの虚仮威しだったと思われてしまう可能性が高い。それを回避するにはある程度デメトリウスの力を引き出し、強者であると知らしめてから勝たねば抑止力にはならないのだ。それを余裕を持ってこなせるのは悠かギルザードだけだった。


「そいつはスゲェ、まさに英雄様ご一行だな!」


「何をお世辞言ってやがる、お前もさっき光魔法を撃たれても平然としてやがったじゃねぇか。シュルツの奴が防がなくても『光将』の魔法だろうとどうにかする自信があったんだろ?」


「……さて、どうかな。案外あっさり死んだかもよ?」


「言ってろ」


ゲオルグは肩を竦めてそう口にしたが、バローも数々の修羅場を潜り抜けており、諦観に染まった自殺志願者かそうでないかの違いくらいは簡単に見分けられるのだ。


韜晦するゲオルグが詳しく話す気は無いと察し、バローは再び周囲の街並みに目を向けた。


「それにしても木の多い街だよな」


「エルフにとって森は故郷であり恵みであり最初の友だ。子が生まれると親は木を植え真っすぐ健やかに育つ事を祈願する。これは貴族でも平民でも変わらぬ風習なのだ」


「街中に木を植えるには十分な土地の確保と植樹税を払わねばなりませんから、貴族以外で街中に木を植えている者は比較的裕福と言って良いでしょう。それ以外の民は郊外の共同植樹場に植える事が出来ます」


「ついでに言えば植える木の種類も決まってるんです。伝説の聖樹ユグドラシル(世界樹)の末と言われる光陽樹サンリーフは魔物を忌避する効果が確認されており、天然の結界としてこの街を魔物の襲撃から守っています」


ロメロ、ミルヒ、コローナと口を変えながらなされる説明にバローがうんうんと頷いた。


「やっぱり現地の奴に解説して貰うに限るな。さっさと面倒な事は終わらせてぶらつきたいモンだ」


「面倒事ってのは大体やりたい事の前を塞いでるモンさ。……ホラ見えたぜ、我らが愛しき探索者ギルドだ」


街の中央からやや外れた場所を差すゲオルグの指を追うと、そこには背の高い木々に囲まれた建物が見えた。が、その奇観にバローは首を捻る。


「……なんだありゃ? 建物を木が貫いて……」


「エルフは滅多に木を切らないんだよ。だから敷地内の木を利用して柱にしてるのさ。木と木の間には橋も付いてるしな。つまり、あれも探索者ギルドの一部なんだよ」


「へええ……こりゃたまげた」


探索者ギルドは人工物と自然の融合体とでも言うべき姿をバローに晒していた。上を見れば木々の間に吊り橋が渡されており、垂れ下がるロープの用途は分からぬまでも、バローの少年心をときめかせる。まるで子供の頃に作った秘密基地の超発展バージョンのようだ。


「高位の探索者でも僅かな者だけが上の住居に住む事を許されてるんだ。探索者にとって本部に住む事は超一流の証なんだぜ」


「楽しみになって来たな、ユウ!」


「ふむ……樹上戦闘の訓練も出来そうだ。中々良く出来ているな」


「……お前、もうちょっと少年の心を持てよ……」


まるで観点が違う悠をバローが嘆いている内に、一行は探索者ギルドへと到着したのだった。

次回から探索者ギルドです。バローじゃありませんが、こういう入り組んだ構造物っていうのは心が躍りますね。

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