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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-48 壁の裏4

「全く……ギルドの財源は無限じゃ無いんですよ!? たとえ銅貨一枚であっても倹約を旨とし、探索者ハンターに還元して生存率を高めより困難な依頼をこなせるようにサポートするのが運営側の目指すべき姿であって、それによってギルドもまた潤うという好循環を生み出すのが……」


「おーおー、ロメロをちっさくしたみてーなうるせーガキだな。隠し子か?」


「「違うわバカ者!!!」」


「ハッハッハ、息もピッタリじゃないか。いいお兄さんが出来て良かったなコローナ」


「下克上しますよこの野郎!!」


「勝手に弟を捏造するな!!」


自由奔放なバローとゲオルグの会話にいちいち突っ込むコローナとロメロは端から見ても息が合っていたが、ロメロの発言にコローナは憤怒の表情でロメロを睨み付けた。


「な、何だ?」


「……ロメロ様、コローナは胸も背丈も色気も足りませんが、生物学上の分類としては辛うじて女の範疇で御座いますので妹と称するべきかと愚考致します」


「回りくどく貶めてんじゃねーですよ!!」


沈痛な表情で語るゲオルグにコローナの拳が放たれるが、ゲオルグが片手で頭を押さえると空を切った。


コローナの身長は140センチであり、177センチのゲオルグとは絶望的なまでにリーチ差があるのだ。


「それは……申し訳無い、許されよ」


コローナが女性だと知ったロメロは真剣に謝意を示し、コローナは軽く困惑しながらもそれを受け入れた。


「わ、分かって下さればそれで……」


「こう見えてコローナは超優秀なんだぜ。まだ120歳なのにギルド長の補佐をやってるくらいだし、コローナが居なけりゃ俺はギルド長なんてやれんよ。……中々言う機会が無かったが、いつも助けてくれてありがとうな」


ゲオルグが打って変わって微笑みながらコローナを褒め称えると、コローナは真っ赤になりながらも薄い胸を反らせた。


「そ、そうです、私が居ないとギルド長は何も出来ないんですからね!! も、もっと褒めてもいいくらいですよ!!」


「本当にそうだな。ほら、高い高ーい」


「わぁい……って、子供扱いするなっつってんでしょーが!!」


脇を持ち上げられたコローナの怒りの蹴りを首だけでかわし、ゲオルグはつまらなそうにコローナを下ろした。


「相変わらず全然肉付き良くねぇな。そんなんじゃ将来陛下みてぇになれんぞ?」


「あんなぼいんぼいんのエルフがそうそう居て堪りますか!!」


「でもロメロんとこのローリエさんはデカかったな。流石ロメロとミルヒを育てた乳だぜ」


「き、貴様、ローリエをそんな目で見ると許さんぞ!! そもそも何故ローリエが乳母だと知って――」


「昨日酔っ払った兄さんがローリエの胸について力説したからですよ。ああいうのは身内として恥ずかしいのでもうしないで下さい」


「……」


ロメロは酒量を控えようと決意して押し黙った。


「それにしてもよ、首都にある探索者ギルドって言うんなら本部かそれに準じる規模だろ? そこのギルド長と補佐が揃って王宮にって事は、あんたらの意見が探索者ギルドの総意と思っていいのか?」


「構わんよ。完全に一枚岩とは言わんが少なくとも俺はそれを殿下に伝えたくて来たつもりだしな」


「ゲオルグ様から詳細は聞いていませんが、ギルド長が決めた事であれば私達は従います。こんなのでも一応私達のトップですから。それは先ほどの探索者達の様子からもご理解頂けるのではないかと」


バローの質問にゲオルグとコローナは共に肯定を返した。冒険者ギルドは本部統括を筆頭とした組織であるが、探索者ギルドは各ギルド長の合議制であり、シルフィードでギルド長を務める者が最も格上と見なされるのだ。そういう意味ではゲオルグは統括という立場に等しい発言力を持つのである。


「……それにしても……」


人族が相手だというのにまるで態度に表さないゲオルグにバローは声を潜めて尋ねた。


「もしかして人族と話すのは初めてじゃねぇのか?」


「……さぁ、どうだったかな? 何分人族に比べて長生きなんでね」


軽く肩を竦めるゲオルグの様子から、バローはゲオルグの事情を察し同じ様に肩を竦めた。否定しなかった・・・・・・・のがこの場で言える精一杯の答えという事であろう。


一行が王宮に入ると、悠は先にアリーシアの診察と治療を済ませ、その後改めてナターリアと対面を果たした。


「これは珍客だな。私が知る限りでは探索者ギルドの長『幻影ミラージュ』ゲオルグが王宮を訪れた事は就任の際の一度しか無かったと思うが?」


「アリーシア陛下はあまり探索者がお好きではありませんでしたので控えさせて頂いておりました。……いえ、探索者がというよりは私の事がと言った方が良いかもしれませんが」


「私は貴公の事をよく知らん。が、何も聞かない内に追い出す様な事はせぬ。言いたい事があるなら申してみよ」


冒険者ギルドと国が不干渉であるように、探索者ギルドも国から独立した組織であった。いや、その交流の少なさから言えば冒険者ギルドよりも距離を置いていると言ってもいい。


それもゲオルグがギルド長になってからである。それ以前は探索者隊が組まれる事もあったのだが、アリーシアの治世となってからは廃止され、戦争に参加するのは正規兵だけになったのだ。


「……この場にいらっしゃる方々の口は堅いと思っても差し支えありませんか?」


「それは保証する。『六将』はもちろん、私もハリーティア様も無闇に吹聴したりはせん。そこに人族の客人も含めるか?」


「いえ、彼らにはどうせ後でギルドに来た時に話すつもりでしたから。先に謝らせて頂きますが、愉快な話ではありません、現に私は就任時にアリーシア陛下にこの話を切り出して出禁にされました」


アリーシアの気分を害したどころか絶縁とまで言い渡されたとなると穏やかでは無く、ナターリアの隣に立つナルハの眉が顰められた。


「……もし殿下に無礼な真似をするようならたとえ『幻影』でも五体満足では帰れんぞ?」


「無礼を働くつもりは毛頭ありませんが、結果として無礼な物言いになってしまう可能性が高いとお断りしておきましょう」


ナルハの威圧にもゲオルグは慇懃な態度を崩さず言い返した。そこにはどうせ王家との関係は悪いのだからこれ以上悪くなりようが無いという開き直りがある。


「それでもお聞きになりますか、殿下?」


僅かに挑発の気配すら見えるゲオルグに隣で跪くコローナの額からは大汗が滴り落ちるが、ナターリアは顎をしゃくって話の先を促した。


「言ってみろ。だが、私が陛下よりも忍耐力があると思われては困るぞ?」


「正直怒らせない自信がありませんが……まぁ、話自体は短いものですよ。すなわち……」


静まり返った謁見の間にゲオルグの独白が流れた。




「そろそろこの無駄な戦争を止めましょう。いい加減、民は先の見えない戦争に飽き飽きしているんですよ。ドワーフが好きな訳じゃありませんが、殺したいほど憎んでいるのかと言われると、そこまでの情熱を我々は持ち合わせていないのです。殺し殺され数百年、そろそろ潮時ではありませんかね?」




堂々と言い放ったゲオルグに謁見の間の空気が凍り付いた。


神経が太いギルド長ゲオルグ。


頭はいいけどチョロ可愛いコローナ。


次回はバトル、かなぁ?

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