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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
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10-46 壁の裏2

あの日、エースの首が我が国に届けられた日。使者として現れたドワーフは言いました。


「王自らを暗殺者として送り込むとは、やはりエルフは勝つためならば何をしてもいいと考える畜生共であるとこの首が証明したわ! 和平交渉を装ってゴルドラン様と相討つとはな……! 跡を継いだドスカイオス様は貴様らエルフを決して許さんと仰せである!! ……だが、亡きゴルドラン様の御遺言ゆえ首だけは返してやろう!!」


当然、我々は大混乱ですよ。エースが単身グラン・ガランに赴いた事を掴んだばかりだというのに、その本人が敵国の王と差し違えたと言うのですからね。


身内贔屓では無く、エースは争いを好まない穏やかな性格の持ち主でした。単身和平交渉に赴いた事は信じますが、豹変してゴルドラン王を襲ったなど当時の首脳部は誰も信じませんし今も信じていません。我々はゴルドラン王こそがエースを襲い、エースはそれにやむなく抵抗したのだろうと主張しましたが、ドワーフは聞き入れませんでした。むしろエースロットを嘘吐きの卑怯者と詰る彼らとの和平など成立するはずも無く、小競り合いだった戦闘は全面戦争に突入したのです。


……以来、ドワーフはエルフを嘘吐きで狡猾な種族と罵り、エルフはドワーフを人の話に耳を貸さない血に飢えた野蛮な種族として蔑んできたのです。


つまり、我々が不倶戴天の敵となったのは両国の王が殺し合った事に端を発していると言えましょう。




「公的にはエースの死は病死として伝えられましたが、一定以上の年齢のエルフの貴族にとっては公然の秘密として記憶されているでしょうね。陛下が姫を戦場に出したがらなかった最たる理由はエースの死の真相を知られる事を恐れたからかもしれません。そしてワタクシはエスカレートする両国の戦争に嫌気が差し国を出て今に至りますが、やはりエースがゴルドラン王を襲ったなどとは信じてはいません。そんな短絡的な手段を取るほどエースは愚かでも暴力的でもありませんでした」


「「「……」」」


エースロットとゴルドラン。2人の王の死は今も両国の関係に暗い影を落としているのだと語られ、場に沈黙が満ちた。


「……つまり、ドワーフは自分達の王を殺したのはエルフの奸計だって言い張って、エルフは自分達の王を殺したのはドワーフに襲われたからだって信じてるんだな?」


バローの総括にハリハリを始めとしたエルフ達は一斉に首を縦に振った。


「私も当時の事を覚えていますが、エースロット先王陛下は非常に気さくで慈悲深く、よく自ら各地に赴き国内の問題解決に努めておられました。あの時代は歴代の治世の中でも最も穏やかで平和であったと今も懐かしく思い出されます。私もお言葉を交わした事が御座いますが、あの誠実で見識高いエースロット様が敵対しているとはいえそのような無謀で汚い真似をなさるはずはありません」


「でも、ドワーフの人達もウソを吐いてるようには見えなかったよ?」


「な、何だっ!?」


妖精族フェアリー?」


ローリエが自信を持ってハリハリの言葉に追従すると、悠の鞄からプリムが飛び出して口を挟んだ。驚くロメロやミルヒの前でくるりと一回りすると、プリムは悠の肩に腰を下ろす。


「わたしは水精族ニンフのプリムだよ。ユウのパートナーなの!」


「プリム殿にはドワーフの天幕に偵察に行って貰ったのですよ」


「まあ、愛らしいのに勇敢なのですね」


「うん!」


ローリエの言葉に気を良くしたプリムが胸を反らせ、悠がプリムの発言を補足した。


「プリムには先入観を持たせずに偵察して貰ったから偽情報を掴まされたという懸念は無かろう。つまり、ドワーフはエルフこそが先に不義を為したと今も信じているという事だ。もし戦争の口実として用いたのであればドワーフしか居ない場ではもっと違う言動になるだろうし、そもそも種の存亡を掛けてまで戦争を続けたりはせん」


「では……!」


「早まるな、エルフが嘘を吐いているなどと言っている訳では無い。今更ハリハリを疑うほど目が曇ってはおらんよ」


反駁しようとしたハリハリを悠が制した。


「だが、真実とは一面からだけ見ても判断出来ない事もある。一枚の壁にも表と裏があり、エルフもドワーフも片面しかそれを見ておらんのかもしれん。エルフが表を知るなら、裏を知るドワーフからも話を聞かねば全体像は見えんぞ」


「それぞれの王が死んでそこで思考停止してるんじゃねぇか? ドワーフがここまで抵抗を続けた事に疑問を持ってた奴は居ねぇのかよ?」


「「「……」」」


第三者である人間であるからこそ冷静に両者の言葉を比べる事が出来るのだ。しかし、それでも感情的なしこりはそう簡単に解消されるものでは無かった。


「……我々は間違ってはいない!! 勝手な理屈で先王陛下を弑したのはドワーフであって我々では無いのだ!!!」


「なるほど、こりゃ戦争が終わらねぇワケだ。どっちにも落とし所ってモンがねえ」


バローはお手上げと言わんばかりに軽く両手を上げた。土地や資源を欲してでは無くただ復讐の為に、しかも既に居ない者の為に戦っているのでは終結するにはどちらかが折れるか、でなければ滅ぼすかでしか無いだろう。そしてエルフは誇りによって、ドワーフは義によって立ち、折れる事は有り得ないのである。


「ならばやはり一度行かねばならんな、グラン・ガランに」


「やめておけ!! ドワーフの国になど行ったらどんな目に遭わされるか分からんぞ!?」


「エルフがドワーフの本拠地にゃ乗り込めないだろ? それなら俺達が行くしかねぇやな」


とんでもないとばかりに席を立つロメロだったが、悠やバローは既にそれを既定路線と決めているようであった。


「エルフとドワーフが譲れないなら、僕らが行くのが一番いいと思うんです。危険だとは思いますが、話を聞く事で光明が見えるかもしれませんし……」


「あの石頭共にそんな融通が利くならとっくに戦争など続けておらんわ!!!」


「何だよ、俺達の事を心配してくれてんのか?」


ニヤニヤとしながらバローがそう言ったのはロメロの反論を止める為であった。頑ななロメロであれば、こう言えば必ず否定すると確信していたからだ。


だが、ロメロの返答はバローの予測を裏切った。


「…………っ、し、心配して悪いか!?」


「……あれ? あ、いや、別に悪いとは言ってねぇけどよ……」


「バロー様、エルフはよく偏狭だ高慢だと他の種族から言われている事は存じております。ですが、自分が認めた者に敬意を払う事まで否定するものではございません。ユウ様が仰った通り、本当の誇りとは増長に繋がる物では無く、他者を認め、共に高みを目指すものであり、決して見下して悦に浸るものでは無いのです」


誇りの真意を語るローリエに、バローはロメロに向き直って頭を下げた。


「あー……済まん、茶化す気は無かったんだ」


「……別に謝罪をするような事では無い。だが、お前達はこの国の客人なのだ。あまり危ない事はするな」


「それでも」


ぎこちない空気を一刀両断するように悠の声が響く。


「アルトの言う通り誰かがドワーフの真実を知らねば殺し合うしか道は無い。俺達はこの国に観光に来た訳では無いし、危険があろうともそれを乗り越えなければならん」


「何も聞けずに嬲り殺しにされるかもしれんのにか?」


「そうなれば戦って切り抜けるだけだ。然る後に真実を吐かせる」


悠とロメロの睨み合いはロメロが視線を切る事で終結した。


「……短い付き合いだが、貴様がとてつもなく頑固な事は分かった。私がいくら言葉を並べても意見を変えんだろう……」


「悪いな」


「まあ、明日は情報を集めがてら王宮に顔を出してから街にでも繰り出してみましょう。探索者ハンターギルドとかは面白いかもしれませんよ」


「探索者ギルドって何だ?」


聞き覚えの無い単語にバローが尋ねると、ハリハリが指を立てて説明した。


「人間で言う冒険者ギルドと同じような組織です。違うのは構成する者が全員エルフだっていう事ですね」


「へえ、探索者か……面白え、ちょっくら異国のご同業を見物するのも悪くねぇな。それなりに強い奴も居るんだろ?」


「それなりどころか、最上位の探索者には『六将』と同等かそれ以上と噂されている者も居るらしいですよ。ですが、少々荒っぽい方々が多いので……」


「なぁに、そんな事は慣れっこさ。自慢じゃねぇが俺達は行く先々のギルドで問題を起こしまくって、そいつらを千切っては投げ千切っては投げ……」


「本当に自慢にならんな!? やっぱり行くな貴様ら!!!」


笑い声が起こり部屋を覆っていた緊張感がようやく薄らいだが、悠の脳裏にはハリハリの話がいつまでも残滓として残っていた。

エルフから見た真実はこうなります。和平交渉と称してわざわざ赴いたエースロットを野蛮なドワーフが騙し討ちにしたという事ですね。

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