表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
977/1111

10-45 壁の裏1

悠とハリハリ、ギルザードがシュトーレン家に到着したのは夜も更けてからの事であった。ハリハリは首脳部と明日以降の予定を話し合っていたし、悠は怪我の治療が長引いたからである。そしてギルザードは飲食が出来ないので悠に付き合って留守番をしていたのだった。


「ユウ殿、傷の具合はどうですか?」


「ああ、殴り合いをしなければ問題無い」


「あまり無茶苦茶するのは感心しないな。その小手が無かったら肘から先が無くなっていてもおかしくは無かったんだ、『再生リジェネレーション』も使えない今、もう少し体を労わるべきだぞ」


《おまけに竜気プラーナも使い果たして、レイラの覚醒が遅れてしまうだろうが》


「済まんな、一度試しておきたかったのだ。ある程度の威力と派手さも必要だったからな」


「練兵場を吹き飛ばしちゃって、ベム君達が泣いてますよ」


『土将』軍は戦闘よりも工兵部隊としての色合いが強い軍である。野営地や陣地の作成、補給路の整備、塹壕掘りにと戦場では土木作業に事欠かないのだ。練兵場が軍の管轄であるという事は、その補修(というか新設)作業はベームリューの管轄という事になる。


「ハジメを連れて来てはどうだハリハリ?」


「政情不安定なこの国に連れて来るのはお勧めしませんよ。連れて来るならもう少し足場を固めてからですね。万一『機導兵』に攻め込まれたら子供達は一番の長所である魔法が使えません。実力的、性格的にも今のメンバーで精一杯です」


残して来た者達は戦闘力が偏っているか性格的に難のある者達である。魔法を主戦力として扱う者は対抗手段のあるハリハリ以外は連れて来れなかったし、性格的な話をするならサイコなどは絶対に無理だ。そういう意味ではシュルツも際どかったのだが、今の所は何とか堪えているようだった。


談笑している間に馬車が止まり、御者がシュトーレン家到着を告げた。わざわざナルハが部下の中から見繕った者であり、信頼の面では問題はない。門の前で門番以外の者が対応しているのは、先触れで到着を知らされていたからであろう。


「ようこそシュトーレン家へ。私はメイド長のローリエと申します。またお会い出来て光栄ですわ、ハリーティア様」


「いえいえ、ワタクシなど今はただの隠者ですよ」


門の前で待っていたのは凛々しい顔立ちのメイド長ローリエである。メイド長という役目に相応しく、凛々しさはあっても険の無い穏やかな微笑みを浮かべていた。


「それにユウ様とギルザード様ですね? 当主とミルヒ様、そして陛下や沢山のエルフ達の命の恩人であると伺いました。私ごときが当家を代表してなどと言うのも僭越ですが、お礼を申し上げます」


「本日はお招き感謝致します。ですが、御当主が命を拾ったはご自身の人望と運があったゆえ、自分の手柄ではありません。過分な応対は不要に願います」


「我々は自身の力の及ぶ範囲で力を尽くしたのみです」


ローリエの言葉に真実の響きを認めた悠とギルザードはエルフの礼に則ってローリエに返礼すると、ローリエは軽く目を見開いてから笑みを深くした。


「……それではご案内致します」


ローリエもエルフであり、人族に対する先入観が全く無い訳では無い。だが、悠やバローはシュトーレン家の直接的な恩人であり、ローリエにとってそれは何よりも大事な事であった。それに比べれば彼らが人族である事などは考慮に値しないのである。


加えて、悠達がただの無頼漢では無いという事が今夜自分の目で確認出来たのであれば、ローリエにとって悠達はハリハリに劣らない賓客として遇するべき対象であった。


そこにはローリエ個人の事情も深く関係しているが、客人に語るべき事では無いと慎ましく沈黙を守り案内に徹し、先頭に立って屋敷の廊下を歩き出した。


流石に一行にハリハリが混じっていれば悠達に露骨に嫌悪や軽蔑の視線を向ける者は居ないが、メイド達の再教育は必須とローリエは思い定めていた。主人が連れてきた客人を差別するようではメイド失格である。


「ロメロ様、お客様が到着なさいました」


到着した広間のドアをノックし来客を伝えると、待つ事も無くロメロの許可が下りた。


「うんむ、すぐにお通しするのだ、わはは!!」


語尾の笑いに不安を感じたローリエがドアを開けば、そこにはすっかり酔っ払ったロメロとバローの姿があった。


「……ミルヒ様?」


「言いたい事は分かるけど落ち着いてローリエ、私じゃないの。兄さんが勝手に飲んだの」


赤い顔をしたミルヒは頭を左右にふらつかせながら真顔で手を振ったが、ローリエの視線の温度は低いままだ。


その冷たい視線にフォーカスされてもロメロは上機嫌で席を並べるバローと語り合っていた。


「どうだ、エルフの貴族たる者、人族の酒ごときで襟を乱す事は無いのだ!! 聞いているのかバロー!?」


「はいはい、聞いてるって。だからくっつくなよ」


「なにぃ? もう一度最初から私の話が聞きたいだと!? くくく、分かった分かった、では私がナルハ様に初めてお会いした時の話を……」


「そりゃもう10回も聞いたっての!! ミルヒ、お前の兄貴酒に弱過ぎんぞ!!」


「なにをー!! 誰がいつお前の義兄あにになったというのだ!?」


「言ってねーーー!!!」


「あ、ユウ先生……」


ただの酔っ払いと化したロメロに途方に暮れていたアルトは悠の到着に顔を輝かせた。シュルツは我関せずと料理に集中しており、飲酒の出来ないアルトは一人素面のままこの空間に耐えていたようだ。


テーブルの上にはミーノスで仕入れた酒の瓶が3本ほど並んでおり、誰が持ち込んだのかは明らかであった。


「……バロー?」


「お、俺のせいじゃねぇぞ!? ただ、招かれておいて手ぶらってのも悪いかと思って酒を出したらミルヒが「兄はそんなにお酒には強くないのです」って言って、そしたらロメロが「人族の酒に酔い潰されるほどヤワでは無い!」とか何とか……」


「「「……」」」


要するに、ミルヒの言葉に触発されたロメロが無理にアルコールを摂取した結果という事であろう。言動は支離滅裂だが、ギリギリの所で破綻を招いていないのが貴族の誇りなのだろうか。


「……皆様、少しだけお時間を頂きます」


と、ローリエがロメロの背後に回り、無表情にその肩に手を掛けた。


「ロメロ様、少々酔いが回ってらっしゃるご様子、こちらにお越し下さい」


「む? ああ、ローリエではないか! いいかバロー、このローリエは本当に良く出来たメイドでなぁ、私とミルヒにとってもう一人の母親と言うべき者なのだ! 体の弱い母上に代わり乳母として、また教師として我々を育ててくれた恩人であり、つまり私はこのふくよかな乳を吸って大きくなったのであって――」


「『気絶スタン』」


「あべばっばばばばば!!!」


一瞬感動した表情を浮かべたローリエだったが、自分の胸を指差して熱弁を振るうロメロの肩に弱電魔法を打ち込むと、失神したロメロを背負い、ミルヒに口だけで笑いかけた。


「……ロメロ様は少々酔いを醒ましてから戻りますので、ミルヒ様はお客様のお相手をお願いします。……宜しいですね?」


「は、い……」


軽い酔いなど一気に醒めたミルヒがカクカクと頷くと、ローリエは手慣れた仕草でロメロを連れ、広間を出て行った。いかにも手慣れているのが何とも言えない沈黙を誘う。


「……ローリエは私と兄の魔法の先生だから……。もし軍に入っていれば副官クラスの実力はあると思う」


「どんなメイドだよ……」


取りあえず酒は仕舞っておこうと決意するバローであった。




「……醜態だ……」


「明日が怖い……」


「客人の前で酔って乱れるなどもってのほかです、ご反省下さい」


1時間後、酔いの醒めたロメロとミルヒは応接室で仲良く項垂れていたが、茶を用意するローリエは手厳しく、ますます2人を委縮させた。


「でもあれはバロー先生も煽ったからで……」


「おっとアルト、誰が悪いとかそんな詰まらん話はもうやめようぜ、な? な?」


「……」


どうやらバローも無罪ではないようだ。


「とりあえず髭は後で刻むとして、明日からはどうされますか、師よ?」


「そうだな……街を見て回りたいが……」


「ちょっと待った」


そこにストップをかけたのはバローであった。まだ言い訳が続くのかとシュルツが目を細めるが、バローは首を振る。


「いや、今はふざけるのはナシだ。……ハリハリよお、そろそろお前の口から真相って奴を聞いておきたいと俺は思ってるんだがな?」


「と、仰ると?」


「どうしてここまでエルフとドワーフがいがみ合ってるのかって事だよ」


バローが問うているのは事の発端であるエースロットの殺害とドワーフとの確執についてである。プリムの報告を聞く限り、そこに両種族の重大な齟齬を感じるのだ。


「私は席を外しましょうか?」


「いや、ローリエもここに居てくれ。顔の広いお前の事だ、ハリーティア様のお話の助けになるかもしれん」


「……」


バローの目が冗談などでは無いと悟り、ハリハリは一つ溜息を吐いた。


「……分かりました、そろそろお話ししましょう。どう判断されるかは皆さんにお任せしますよ」


そうしてハリハリはエルフとドワーフが決定的に敵対する事になった当時の事を語り出した。

エルフは身体年齢が若いまま歳を取るので、同じくらいの年齢に見えても実はロメロとローリエみたいな関係である事もザラです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ